第3話
〈わたしはレイです〉
「霊?!」
〈あ、いえ、名前です。幽霊ではありません〉
「これ、声に出して話してないと駄目ですか。なんか、独り言言っているみたいで」
〈あ!脳内でも意思疎通取れますけど、見えない存在と会話したというダメージがあるので、紙に書くと良いですよ〉
紙。日記用のキャンパスノートがあった。オレはノートを横向きにして文豪気分で縦に日記を書いていく。漢字は細長いからだ。よく滑るシャープペンで疑問を書く。
オレは安全か?
〈鍵を今日みたいに何重にもしておけば大丈夫です!出入りの時間はむしろ向こうが引きこもりで出ないので少し安心ですね〉
ということは出勤時や、帰宅時も気をつければ。
鍵さえかければ、って!
怖すぎる!!
〈隣の部屋の人はこの部屋の鍵がかかっているか、純粋に確かめている。それだけですが、わたしも怖いです。ですがカメラもなければ押し開けて調べようなんて〉
むーーーりーーー!!
〈わかります〉
〈ですので、休日の間や、もしくは平日の帰宅後。常世へいらっしゃいませんか?〉
とこよ?常世……。
〈あ!常世が書けるんですね!嬉しいなあ!だいじょうぶ、地獄へ引き摺り込んだりしません。むしろ怖くて眠れないでしょ?〉
オレは、頷いた。こんな夜に自転車漕いで実家まで走れば日が暮れる、ちがう、空ける。
〈ようこそ、日本古来から存在する仙人の世界へ。さあ。アパートの水道水を飲んで落ち着いて〉
百円均一の浄水器の付いた蛇口で水を飲み。
全部夢だと思ったら、
〈さて、水は。流れ行き、留まり、見つける物です〉誰かに抱きしめられたかのような唐突な感覚に突き飛ばしてしまう。アパートで、オレは買ったばかりの収納ケース付きナイフを手にして、
そこで、景色はかわる。永遠が見たいものにはここへ来るが良いというような古き日本の神々が詠った景色が趣を拡げている。木々は博物館よりもずっと自然を大きく広く高く、包んでいた。そして終わりなんて見せなかった。
わたし、塩梅白(あんばいしろ)はそこでさえずってくれる小鳥たちの羽音を聞き、地面にへたり込んだ土の感触とその上の手が汚れない程度に生えた草。そばに咲く薄桃色の花に、これは夢か幻か。
「夢と幻、そして現実です」
レイですよ。しろさん。と幾重にも着物を着た肩までの黒髪に下駄。男だった。
「わたしは、なんでわたしになっている?」
天性のオレっ娘のわたしは問う。
「ここでおしゃべりするのも久方ぶりだな。ここではね、仙人であるわたしの認識が勝ってしまう」
どういうわけかひっくり返ったりごった返しになってしまうんですよねえ、と。自称仙人・レイは見るものがうっとりとするような物思いの顔。
「まあ、ここでは普通に会話ができます。ようこそ。古来の神々が造りし庭を超えた島へ」
レイは男の手とは思えないほど美しい手を、わたし、しろに差し出してくる。
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