第9話 モフモフ王は、雪に消えて。
片目を失った原因は、陸鳳と聞いていたのに、瀕死となった陸羽が埃玉を通して呼んだのは、絵画の中に閉じ込められた陸鳳だった。空が割れ、ふわりと宙に現れた陸鳳は、赤い鼻を擦りながら、神蔵とハンターの前に降り立った。
「だいぶ、狭い中に居たから、体が鈍っている」
陸鳳は、桂華より小さな体を動かした。
「山を売り払った奴らがいると聞いていた、陸鳳。しばらくは、休戦だ」
陸羽は、胸の痛みを堪えながら言う。陸鳳は、チラリと目をやるが心配するそぶりはなかった。
「手負と子供1人では、どうにもなるまい」
神蔵は、構わず、銃を向け放つ。陸鳳は、身軽に交わすが、陸羽の様に、自分から、攻撃する事はなかった。このままでは、負けてしまう。桂華は、応戦したいが、何も、できずに身を隠すしかなかった。自分が、足手纏いになっては、仕方がない。身を隠しながら、地面の下から、何か、不気味な音が、登ってくるのを感じてた。
「何なの?埃玉?」
「これは・・・」
埃玉の顔色が変わった。陸鳳と目で合図すると、埃玉は、天に向かって白い球を放り投げる。宙で、四方に弾けると、その中からは、無数の白い粒が、地から天に巻き上がる。
「これは・・・」
雪だった。季節には、全く合わない雪が一面を覆い、そして、吹雪となっている。陸鳳は、雪を背に受けると、小さく震える。そして、今まで、耐えていたかのように、大きく咆哮を上げた。
「これが、本当の主様の姿」
埃玉は、嬉しそうに呟く。白銀の大きな狼の姿をなった陸鳳は、弾けるように前に飛び出すと、神蔵とハンターから、銃を奪い取莉、桂華の前に降り立った。
「早く、山を降りるがいい」
二人を傷つける事はせずに言うと、桂華に向かい直った。
「君も、早く山を降りなさい。できるだけ、早く」
「どうして?」
「もう少しで、山から出れなくなる。君は、早く帰った方がいい」
「あなたは?」
赤い鼻で、鼻水を垂らした子供が、凛々しい銀の狼になったのが、桂華の興味を引いた。
「私は、これから山の動きを止めなくてはならない。長年、陸羽が、自由にしていたせいで、とんでもないことになっている。」
陸羽は、逆らう事ができないのか、頭を下げたままだ。季節外れの雪は、降り積もり、辺り一面、真っ白になった。
「麓には、白長が案内してくれる。ここで、お別れだよ」
陸鳳は、前足をそっと出した。桂華が、触れると、一瞬、青年の姿が、現れたような気がした。
「山を鎮めてくる。ここで、お別れだ。また、縁があったら、会おう」
陸鳳は、ゆっくりと桂華から離れていく。雪の中、一人、歩いていく。彼の行く先は、うっすらと、緑の道となっている。地の下からは、思い音が響いた。
「まだ、始まったばかりだよ。桂華。僕らの縁は、ここでは終わらない」
陸羽の右の小指が、そっと、桂華の指に絡みついていた。
雪別れ道のモフモフ王 蘇 陶華 @sotouka
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