第8話 人狼の守る山
桂華が、埃玉の力を借りて、陸羽と別れた地に戻ると、離れる前とは、異なった空気を感じた。陸羽が胸を抑えて倒れていたのだ。
「どうして?」
桂華が当たりを見渡すと、帽子を目深に被り、リュックを背負った男と、銃を手にした男が木の影から現れた。
「おや・・こんな山に、女性が1人で」
帽子を被った男が、桂華をまじまじと見ていた。
「あの・・・」
桂華は、横目で陸羽を見ると、微かに動く気配があった。胸を押さえて、倒れ込んでいるが、意識はあるようだ。埃玉は、桂華を送った後、どこに消えたのか?辺りを探ると、陸羽と目が合った気がした。
「お嬢さん、こんな山では危ない!」
言いかけた瞬間、陸羽が、男2人に飛びかかった。
「白長!」
陸羽は、埃玉の名前と思われる白長と叫ぶと、胸にあった鍵を宙に投げつけた。
「鉱脈師が、ここまで来ている。白長!そこにいるんだろう?」
宙に鍵が、浮かぶと2本の黒い足がそれを掴み、埃玉が姿を現した。
「主様にお戻りいただく」
桂華の腕を取り、再度、霧と共に消えると、見計らった様に、陸羽が牙を向いた。
「人狼を撃てる弾を使った筈なのに、なかなかしぶとい」
ハンターが再度、銃を構えると、陸羽は、地を蹴って、宙に舞い上がった。その瞬間、陸羽の姿は、足先から、灰色の毛皮に覆われ、耳まで、口が裂けた狼の姿となって襲いかかった。
「待て!」
ハンターは、慌てて、狙いを陸羽に定めるが、手負の狼となった陸羽を抑える事は出来ず、すぐ、銃は、奪い去られ、目深に帽子を被った男が狙われた。
「鉱脈を守る狼がいるとは聞いていたが、本当だったんだな。こんなに、大きな狼の首なら、コレクター達が、喜ぶよ」
男は、胸元から、小さな銃を取り出し構えた。
「珍しい鉱石がたくさん取れるので、こちらも、引き下がる事はできない。この銃の弾は、ゆっくりと心臓を貫いていく。相当、ダメージが来ているはず」
「鉱脈師と聞いたが・・・あちこちこの領域を荒らしている神蔵というやつか?」
「ずいぶん、耳が早い。こちらも仕事なんでね」
「かなりあちこち、深く掘っているじゃないか?山鳴りが止まらない」
陸羽は、低く唸り、身構えた。胸に入った銃弾は、少しずつ回転しながら、肉を切り裂いていく。鉱脈筋のこの山には、珍しい鉱石があり、海外の富豪たちが買い漁っていた。だが、鉱脈のある山は、地殻活動が盛んで、掘り起こされる程、地底での変動が激しくなっていく。山岳信仰で、狼が守ってきたこの山も例外ではなかった。海外に鉱脈を売り捌く神蔵という奴がいるという噂を大神達は聞いていた。
「このまま、帰れると思うな」
神倉が銃口を向けたその時、宙に口が開いて、あの絵画にいた子供が、空から降ってきた。
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