第7話 封印されたモフモフ王
埃玉が、連れていったのは、やはり、あの寂れた学校だった。あの日、父親が顔を出した為に、途中で放り出した不思議な絵画を、持ち出してきた。
「困るんだよ。途中で帰られると」
「私にも、予定があるのよ。今日は、助けてもらったから、付き合うけど」
「そう言えるのは、今のうちだな。事情を知ったら、泣いて縋ることになる」
絵画を何気なく、見ていると違和感がある。
「あれ?この間と構図が違う」
絵画の中の少年が、祠の上に座っている。
「どうして?」
「ふむ。だから、お願いがあったのだ。主様を助けて欲しい」
「主様?この子も、大神さん?」
「狼ではなく、真実の大神さまじゃ!」
埃玉は、うやうやし告げ、絵画の少年に向かって頭を下げた。
「こんな所に、閉じ込められて・・・生きとし生ける者達の王であるぞ。」
「こんな子供が?」
あの大神の青年とは、雲泥の差がある。赤い鼻からは、鼻水が垂れ落ち、皮膚は、薄く汚れ、背は、おそらく桂華より、はるかに小さい。
「狼の陸羽の方が、素敵なんだけど」
「その憎き陸羽こそが、主様を閉じ込めた犯人。同じ兄弟とは言え、兄に逆らうとは・・」
「兄?この姿で?」
聞くと、この鼻を垂らした子供は、先程の狼の青年、陸羽の兄、陸鳳と言い、百年以上も前に、兄と弟は、ふとした事で戦い、兄は、弟に負け、この絵画に閉じ込められたらしい。兄は、弟を倒す寸前まで、いったが致命的な怪我を負わす事は流石に出来ず、片目を負傷させるだけで、終わったらしい。
「それで。私に、頼みたい事って?」
本当なら、もう、関わりたくもないけど。きっと、あの陸羽は、追ってくるだろうし、逃げる手立ては、この埃玉しか知らない。頼みとやらを聞いてみる事にした。
「私にできる事は?」
「この絵画から、主様を出してほしい」
「どうやって?」
絵画の中で、祠の中にいる子供は、くるくると動き回っている。あの青年の兄だなんて、とても、同じ血とは思えない。
「疑っておるな」
「えぇ・・とても。兄弟なんて、思えない」
「人の姿など、どうでもいいのだ。騙されおって」
絵画の中では、子供が、こちらを向いて、何かを言っている。指をこちらに向け、絵画の下の方を指している。
「この絵画の下には、鍵穴があって、その鍵をとってきて欲しい」
「鍵?どこにあるの」
「私達が、1番行けない所じゃ」
「行けない所?人の多い所かしら?」
「それなら行ける所だ。陸羽の首に掛かっている・・・狼の牙じゃ」
「それを取ってこいと?私がこうして逢っている事を知っているのに?」
埃玉は、体の中から小瓶を取り出した。
「一度、眠って仕舞えば、朝までは、起きない。鍵を奪い、主様を解放してほしい」
「どうして私が」
「お役目さんの勤めじゃ。花嫁が、どちらを取るのか、決めるのじゃ」
桂華は、絵画を見下ろした。どうくらべても、この子供側に着くのは、難しく思えた。
「もし、鍵を奪えなかったら」
「山だけではなく、この地、全てが変わる。山の守り神を選ぶのは、お役目さんだからな」
「何よ。お役目さんて」
埃玉は、答えなかった。また、丸い塊を、桂華に向けて投げつけると、あたり一面に白い霧が舞い上がった。
「では、頼んだよ。お役目さん」
霧が晴れると、目の前に、地面に倒れている陸羽の姿が目に入った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます