第4話 3つの瞳と2つの王

おばあちゃんが、顔色を変えながら説明したのは、まだ、おばあちゃんが、幼い頃、そのまた、おばあちゃんに聞いた話だそうな。

「この辺は、山に大神さんが居て、山に入る時は、必ず、お供えと御神酒をあげて、祈りを捧げてから山に入っていた。それは、天気が崩れて山に迷ったり、崖から転落した時に、山の大神さんが助けに来てくれるから。その山に入っても、難なく、村の人達が酷い目に遭う事はなかった。男も女も、山に入っても、みんな無事に帰っていたんだが、ある年から、男は、帰っても、女は帰らなくなってしまった。山に入れるのは、男だけになったという人もいれば、大神さんが変わって、一つ目の大神さんになったと言う人もいる。」

桂華は、不安そうにペンダントに触れていた。

「その大神さんと、このペンダントはどう関係があるの?」

おばあちゃんは、顔を顰めた。

「この何十年かは、こんな事はなかったんだよ。その石は、大神さんの一つ目と言って、独り者の大神さんが嫁さんに贈る石なんだよ」

言葉を失って両親は、顔を合わせる。特に、父親の顔色は悪かった。

「花嫁?あはは」

思わず、笑った。

「大神さんの花嫁?昔話じゃあるまいし」

おばあちゃんの口調はとても冗談に思えなかった。

「桂華。大神さんは、狼。人狼とも、言われている。今の大神さんは、気性が荒く、嫁さんといっても、子を生す為の道具でしかない。子は、3月で、大きくなり、育った子は、母親を食い殺すと言われている。ただの後継を作る道具なんだよ」

「どうすれば?」

おばあちゃんは、首を振った。

「花嫁のでた家は、三代は、栄えると言われている。今まで、拒んだ人はいないんだよ。」

首にかかったペンダントは取れそうにもない。花嫁以外の家族は、一生安泰の生活が待っているという。貧しい山間の地だから、それで、一生安泰と言われると、自分の家族を差し出していたのかもしれない。けど、今は!

「明日にも、お迎えは来るだろうよ」

「で・・・でも。その前は、どうだったの?女の人も助けていた、前の大神さんは、何処に行ったの?」

お婆ちゃんは、悲しそうに首を振った。

「誰も、知らないよ。後から来た、大神さんは、一つ目だった。最初の大神さんと戦った時に、片目を失ったと聞いている。酷い戦いで、山鳴りが3日間鳴り止まなかったらしい。最初の大神さんは、負けて、消えてしまったのか、どこかに閉じ込められたとの話だ」

「女の人、達は、皆、何処に行ったのですか?」

母親は、心配して聞いた。たくさんの女達が、一つ目の大神さんに嫁いだが、最終的には、気に入られる事もなく、子をなす事もなく、どこかに来てしまったそうだ。

「何で、こんな物が家に?」

「母さん、兄貴の死と、このペンダントには、何か、関係があるのでは?」

おばあちゃんは、じっと、父親の顔を見ると、ため息をついた。

「そんな事より、桂香の身を守らないと」

「ま・・まずは、警察か?」

「警察に言っても、無駄だ」

桂華は、ペンダントに触れる片手が、うっすらと消えかけているのに気づいた。

「そういう事なんだ・・・」

「警察に言っても、誰がいなくなったのか?聞かれるだけ無駄なんだ。だって、家族以外には、姿が、見えなくなってしまうんだから」

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