告白!

 これからの方針が決まった後、旅立ちの準備が少しずつ始まりました。


 時には基地で、時には船で。船で遅くなった日は兵隊さん用の寝室に泊まりながら、着々と準備を進める日々。


 そして今日はフランの誘いで、光里がフランと同じ船の寝室に泊まることになりました。ここは、彼女たちが今日泊まる船の寝室。


「お疲れ様、フランちゃん。船の用意、殆ど一人でさせちゃったけど大丈夫だった?」

「とても使いやすいインターフェイスだったので問題ないです。それに当時の技術の限界を突き詰めて色々詰め込まれたシステム周りが複雑で面白くて……」


 いつもながら、機械のシステム関係はフランに任せきり。それでも三百年前の世界中の最先端の結晶であるラグナロックのシステムは見るもの全てが新鮮で、疲れを忘れさせる程にはフランを飽きさせませんでした。


「フランちゃんはほんとすごいなぁ。色んな言葉が読めたり機械も使えたり……」

「光里さんだってすごいじゃないですか。決まった答えに向かって進んでいくことはできても、行き先を決めることなんて私には難しくてできません」


 一見なんでもできるように見えるフランですが、そんな彼女は光里のことをとても尊敬していました。みんなが迷子になってしまった中でも、いつでも先頭を行ってみんなを導くその姿を。


 けれどフランが今日光里を誘ったのは、そんなことを言いたいからではありません。もっと、ずっと大切なことを言うために、フランは光里と二人きりになったのです。


 緊張で胸がドキドキ高鳴る中、頑張って喉の奥から絞り出すように。その思いを告げます。


「結婚……しませんか」

「ふえぇっ!?」


 結婚。そんな考えたこともなかった言葉に、光里は思わず驚きの声を上げました。


「どうしたの、急に……」

「その為に、ホテルに呼んだんです」

「私で、いいの?」

「とっても強くてかっこよくて、可愛くて頼りになる……光里さんは、ものすごく素敵な人です。」


 まず最初に語ったのは、光里への憧れ。そして、もう我慢するのはやめて、もう一つ秘めていた感情もフランは吐き出します。


「それと……光里さんがえっち過ぎるんです」

「えっ……!?」

「今思えば、月にいた時からずっと欲情していたんです。動けない光里さんを介護しながら、このおっぱいを揉みたい、お尻を触りたい、すべすべのお肌に触れたいって、下心をずっと押し殺していたんです」


 それは、最初に出会った頃からずっと我慢していた欲望。フランが生まれて初めて実感するほどに強く感じた、性欲と言える物でした。


「知らないですよね。一人になった時、自分を慰めているんです。二年前に光里さんのお尻を叩いた時の手のひらの感触を思い出しながら……」

「それ、セクハラだよね……?」

「私だって、恥ずかしいんですよ」

「それはまあ、わかるけど……」


 こんなことを言われたら光里も恥ずかしいですが、自分の「そういう」行為を告白するフランの恥ずかしさも並大抵ではありません。


 ですが光里には、まだ訊きたいことがありました。


「フランちゃんは私の心と体、どっちが好きなの?」

「両方です。どちらも合わせて、光里さんという人間なんですから」

「……私も、好き」


 そしてこの答えに安心した光里もまた、フランに対して秘めていた「好き」を伝えます。


「本当言うとね……恋なんて、ネットや漫画でしか見たことないの。ずっとそんなの他人事だと思ってたし、私が男の子のことが好きなのか女の子が好きなのかなんて、もう確かめる方法なんてなんにもない」


 こんな強い「好き」の感情を抱くなんて、光里にとっては初めて。だけど光里が知っている恋愛というものは、漫画の中の出来事が全てでした。


「だから私がフランちゃんに持ってるこの好きが友達の好きなのか、恋の好きなのか、どっちなのかはわからないし、きっと確かめられる日も二度と来ないと思う」


 同年代の男の子と会ったことすらないほど経験のない光里には、この「好き」の正体はわかりません。自分が本当は異性愛者なのか、同性愛者なのかもわかっていないのです。


「それでもフランちゃんは……私と結婚したい? してくれる?」

「勿論です」


 光里が持っている「好き」が、フランの「愛」と同じなのかはわからない。けれど、それでもフランの光里と結婚したいという思いは変わりません。


「例え今の光里さんの私への好きがライクだとしても、私のラブであなたの気持ちをラブに塗り替えてみせます。フランのことを愛してるって、胸を張って言えるようにしてみせます」

「そんなにはっきり言われたら、恥ずかしいなぁ」

「私もです」


 カップルは成立。ですがいきなり結婚なんて決めてしまったものの、お互いに恋愛経験はほとんどありません。


 まるで初々しい学生カップルのように……とは言ってもまだ学生の年頃ですが、手を繋いで笑い合って好きを確かめ合う中。なんだか外がバタバタと騒がしくなってきました。


「おい馬鹿、押すな!」

「あ、ヤバ」


 直後、扉が急に開いて他の部屋に泊まっているはずの四人が転がり込んできました。


「や、やっほ〜」

「盗み聞き、してたんですか」

「ふららんおこじゃん! ごめん!」

「ごめんなさい、たまたま通りがかったら聞こえてきて……」

「結婚なんて面白いワードが聞こえてきたからつい、な」

 

 どうやらみんなたまたま聞こえた結婚という言葉に惹かれて盗み聞きをしてしまったみたい。とりあえず結婚が決まったということでお祝いしたいところでしたが、智実は光里の表情が優れないことに気付きます。


「浮かない顔だね光里〜」

「本当に、いいのかなって」


 フランのことが好き。それは間違いなくて、フランからの好きも嬉しいですが、それでもまだ光里は迷いを捨てきれてはいませんでした。


「私がどうフランちゃんのことを好きなのかわからないまま結婚なんて、これでいいのかなって……」


 友達としての好きと恋人としての好き。その違いがわからないまま結婚することに、光里は迷っているのです。


 そんな彼女に、小夜子は尋ねました。


「なあ光里。私たち五人の中で、お前にとってフランは特別か」

「えっ……」

「お前の気持ちの問題だ。心の中で、お前はフランを特別扱いしているか」

「そ、そんなことないよ!? だって私、みんなのことが大好きだもん!」


 意地悪な問いだなぁ、と思いました。リーダーの自分が、みんなの中でフランだけ特別扱いなんて絶対に良くない。そう思った光里は首を横に振りますが……。


「言ってくれるのは嬉しいけどさ、正直になってみ? うちらとふららんは、みつりんの中では本当に同じ?」

「それは……」


 続く悠樹の質問に、光里は言葉を詰まらせます。


「でもやっぱりダメだよ。私たち六人みんな友達で、みんな一緒に頑張らないといけないのに、フランちゃんだけ特別なんて……」

「だとさ」

「いやぁ〜青春だね〜」

「つくみん、これ聞いてどう思う?」

「どうって……たぶん、みんなと同じ……」

「まあそういうわけだ」


 光里の迷いはまだ晴れないまま。けれどここまで聞いて、疑うような子はここにはいません。


「よかったじゃんフラン、愛されてるよ〜」

「その特別が私らとの友情とは違う、フランへの愛だ。存外早く確かめられたな」


 ここまで迷っている時点で、それは光里がフランを特別愛している証拠。その思いが確かめられたと、小夜子たちは得意気です。


「皆さん……」

「どうしたの……?」


 しかし、どうやらデリカシーは足りていなかったみたい。


「全員盗み聞きした罰です! お尻を出して並んでください!  光里さんもです!」

「なんで!?」


 顔を真っ赤にしながら、フランは全員にお尻ペンペンの刑を宣言しました。何故か光里も巻き込まれて。


「他の皆さんのお尻に触れて光里さんだけ触らないのは浮気ですから!」

「べ、別にいいよ! 気にしないから!」

「私が気にします!」

「誠実……なのか?」

「すごい理屈だね〜」


 フランの素直さに感心しながら、これは逆らえないとズボンとパンツを脱いで壁に手をつきお尻を突き出す小夜子と智実。余裕そうな二人ですが、頬を赤らめていて少し恥ずかしそう。


 一方光里はフランに押し倒され、無理やり脱がされて。傍から見ると襲われているようにしか見えません。


「つくみんも共犯だ! 脱いじゃえー!」

「ひゃあっ!?」


 そしていつの間にやら脱いでいた悠樹に月美も脱がされ、顔を真っ赤に。


 その後しばらくの間、狭い部屋の中にはお尻を叩く乾いた音と叩かれた女の子たちの声が響きましたとさ。


「だからなんでっ、私っ!?」


 何故か何も悪くない光里が一番多く叩かれていましたが……きっとそれが愛なのでしょう。きっと。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る