ここにいる意味
「まずヨナ計画とは、三百年前に地球を侵略、支配した地球外起源体を打倒し、人類の地球帰還を目指す計画です。あなたたちの役割は、そのヨナ計画の実働部隊となります」
「つまり地球を征服したエイリアンを叩き潰すのがうちらってこと?」
「その通りよ」
自己紹介を終えて、ついにヨナ計画の説明が始まりました。まずは計画の目的から、沙織さんは話し始めます。
「なんであたしたちなの〜?」
「他の計画も検討はされたけど、月のマザーコンピューターによる演算結果はほぼ全て成功率1パーセント未満。だけどあなたたちによるヨナ計画遂行に限っては、成功率90パーセントを超えていたからよ」
「私らが戦う敵とは何なんだ」
「全ての始まりは2045年、南極に落下した隕石です。各地に津波などの甚大な被害を齎したこれは各国の研究機関による調査の結果、地球外を起源とする未知の生物の化石である可能性が極めて高いとされ、国連管理下でより精密な分析が始められました」
質問する度に次々と語られる情報に、真剣に耳を傾ける六人。授業の中で、まだ次々といろいろなことが明らかになっていきます。
「ですが五年後の2050年、突然化石が動き出し暴走、南極の研究施設を消滅させて自らは次元境界面の向こう……つまり別空間へと消え、眷属である巨大生物を各地に解き放ちました。その後巨大生物は世界中の国へと侵攻し、通常兵器では歯が立たずに結果半年で九割以上の人類が死滅。残る二億人の人類は地球を脱出し、この月へと逃れたのです」
「九割……か」
「不安ですか、光里さん」
「ありがとう、フランちゃん」
人類の殆どを絶滅させた敵。その存在に光里は不安で震え、フランはそっと手を握ります。けれどその手もまた、小さく震えていました。
「この巨大生物は【天使】、化石は【オブジェクト・デウス】と呼称され、ヨナ計画では各地の天使打倒の後にこのデウスを最終破壊目標としています」
「デウスをぶっころすればあたしたちの勝ちってこと〜?」
「ええ」
光里たちが地球に行く目的は、この敵を倒して地球を取り戻すこと。ですが何十億の人類ですら歯が立たなかった敵に、たった六人の女の子で勝てるのでしょうか。
「あなたたちに友達になってもらうのは、地球で予想される長いサバイバル生活の中で不和や争いを避け、手を取り合えるようになる為。その関係はチームや仲間というものよりも、“友達”こそが最も相応しいとNOAHは結論付けました」
「確かにチムメンとかよりも友達の方が距離感近いよね」
「だからフランは私とお友達になったの?」
「はいっ」
しかし沙織さんの言うように、六人だけで地球に行くのなら戦うよりも前にその六人で生活しなければなりません。光里とフランが友達になったのも、これからこの六人で友達になるのもその為の計画の一環だったのです。
「だがそんなものと戦ってまで地球を取り戻す必要はあるのか? 正直言うと私らは月での暮らしに不満はなかった。このまま月で暮らしていくというのではだめなのだろうか」
けれど小夜子はわからず問いました。今の月での暮らしでも不便はしていない今、わざわざ危険を冒してまで戦い、地球を取り戻す必要があるのか。そのように思っているのは、小夜子だけではありません。
そんな彼女たちに、沙織さんはわかりやすい話題で説明します。
「あなたたち、ゲームが好きな子が多いわよね」
「大好き〜」
「ならどうしてゲームの新作が作られないのか、考えたことはあるかしら」
「そうなん?」
「言われてみればゲーム史上最後に作られたゲームは150年前にサービス開始したブレイブアーク。それ以外に作られたという話を聞いたことがないのは言われてみれば確かにおかしい」
「セ○サターンなんて350年くらい現役だしね〜」
言われてみれば、小夜子や智実の言うようにゲームの新作というのは殆ど発売されていませんでした。人気がそれなりにあるにもかかわらず、150年前のオンラインゲームを最後に新しいゲームは一作品も出ていないのです。
どうして新しいゲームを誰も作らないのか。考えたこともなかったことのその理由が明かされます。
「余裕がないからよ。黄金期とも言える地球時代と比べて一割以下に減った人口で、しかも月のジオフロントという薄氷の上のような生存環境。今の社会の維持コストは本当にギリギリなの。それでも娯楽がなければ人々はストレスに押し潰されてしまう。だから地球から持ち出せたゲーム機のうち、製造コストが比較的軽い旧式のゲーム機を復刻するしかなかったの」
「つまり、現存しているゲーム機は2050年時点で旧式だった、ということですか」
「そういうことよ、フランちゃん。そして今もまだ世界全てを少ない人口で回していかなければならないせいで、ゲームに限らず新しい娯楽はなかなか生まれない状態になっているの」
何気なく遊んでいたゲームの裏側に、まさかこんな大変な事情があったなんて。そして地球を脱出した三百年前の時点ですら古かったゲーム機を細々と再生産するしかできない今の社会の余裕のなさも知って、みんなは思わず言葉を失いました。
「ちなみに言うとプレイ○テーションは3から先も出ていたと言われてるわ」
「2までじゃなかったのか」
「人が月面に住んでた時代はストレスは死活問題だったから、ゲーム業界が一丸になって政府機関と協力したりして頑張っていたらしいけどまあそこは今はいいわね」
「気になるんだけど! 本当のゲーム史めっちゃ気になるんですけど〜!」
「私も、気になります!」
「フランちゃんも?」
他にも世界の裏側に隠された本当のゲームの歴史に、一部の子たちは興味津々。ゲーム大好きな智実や小夜子はもちろんですが、意外なことにゲームを遊んでいないフランも知識欲からか興味があるみたいです。
「聞きたい人は終わった後に聞きに来てね」
ですが今はゲームの歴史の授業ではありません。このお話は一旦置いて、次の話に進むことになりました。
「今の社会が色々と限界なのは理解した。だが、勝算はあるのか」
小夜子が気になったのは、天使やその親玉のデウスに勝てる見込みがあるのか。無策で地球に送り込まれて死んでしまってはおしまいですから、実際に地球に行くみんなにとっては一番大事なことでもあります。
「詳細は今度説明するけど、さっき言った通りあなたたち六人によってヨナ計画が遂行された場合、その成功率は90パーセントを超えるわ。そしてそれを可能とするだけの圧倒的性能が、ゼクト・オメガにはあるの。だからそこは安心して大丈夫よ」
「実際どんくらい強いわけ?」
「そうね」
その答えがあのロボット、ゼクト・オメガの圧倒的な強さ。一体どれくらいなのかなと、質問した悠樹に沙織さんは答えます。
「一人で世界を軽く滅ぼせる機体。それが六機よ」
そしてその答えに、お部屋の中が一気に静まり返りました。
一人で世界を滅ぼせる力。それだけでも途方もないのに、それが六人分。そこまで来ると、もう想像すらつかない程大きなお話です。
「最後にもう一つ、伝えておかなければならない大切なことがあります」
まだ受け取った情報をみんな呑み込みきれていない中。最後にみんなの今後に関わるとても、とても大切なことを、沙織さんは告げました。
「地球へ向けて旅立つ時。あなたたちのこの施設で過ごした記憶は、あなたたちみんなが友達同士であるという関係性を残して全て消去されてしまいます。どうか悔いのないように、この一年を過ごしてください」
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