自己紹介をしよう

「よ、よろしくお願いしますっ」


 お部屋に入った光里は、まずぺこりと挨拶。他のみんなは車椅子の子が来るとは思っていなかったみたいでちょっぴり驚いてしまいましたが、気を取り直してすぐに話しかけてくれました。


「車椅子、クールでいいデザインしてんじゃん似合ってんよ。これからよろしくー」


 そう言ってくれたのは、カールの効いた明るい髪色の女の子。


「ロボに乗ると聞いていたんだが、車椅子でも乗れるようなものなのか。いや、気を悪くしたらすまんが」

「しかも脳波コントロールできる! ってやつかな〜?」


 背の高い黒髪の子に、フラン程ではないものの小柄な子。


「…………」


 そしてもう一人、話に入りづらそうに何も言わず席に座りそわそわしている子がいます。これでロボットの数と同じ、六人の女の子がこの場に揃いました。


「みんな、揃ったわね。席について」


 全員揃ったところで、大人の女の人がお部屋に入ってきてそう言って教卓につきました。ですがこの女の人、光里もどこか見覚えがあるような……?


「沙織さん?」

「綾峰沙織さんだ〜」

「綾峰沙織さんだな」

「あっ、ええ。そうよ。確かにそうだけど、でもちゃんと自己紹介させて?」


 きちんとみんなの前で自己紹介する筈だったのに出鼻を挫かれて、女の人こと沙織さんは困惑してしまっています。


 ですが気を取り直して改めて。沙織さんはモニターに名前を出して、自己紹介を始めました。


「みんな知っていると思うけど、私の名前は綾峰沙織。普段は厚生労働省に出向しているけどお察しの通りNOAHの構成員でもあり、そしてヨナ計画の人員育成担当官……つまり、この一年のあなたたちの担任の先生よ。これからよろしくね」

「えっ、学校みたいな感じなん?」

「ヨナ計画〜?」

「そのあたりは色々と順を追って説明するけど、まずはみんながここで過ごす一番の目的を伝えるわね」


 どうやらこれから始まるのは学校のような毎日で、沙織さんは担任の先生になるようです。本当の学校ではないとはいえ、光里は生まれて初めてのスクールライフに期待を抱きました。


 ですが月面まで来てまで学校のようなことをして、一体何が目的なのでしょうか。それが今、沙織さんの口から明かされます。


「みんなには今日からここで過ごす一年間で、友達同士になってもらいます」

「友達かぁ〜」

「と言われてもな。全員顔も初めて見る面子だぞ」


 みんなで友達になる。それがこれからのスクールライフの目的だと明かされたものの、いきなり言われてもみんな戸惑うばかり。ここにいるほぼ全員がみんな初対面同士なのに、急に友達になりなさいと言われても困ってしまいます。


「でもなんで友達なん?」

「それは後々、ヨナ計画の説明の中でお話するわ。まずはみんな、自己紹介からしましょうか。窓側から順でいいかしら」


 どうして友達にならないといけないのか。その説明の前に、まずはみんな自己紹介をすることに。


「私か」


 窓側からということで、まずは扉から見て一番向こうに座っている長身の子から。


「井上・イグナチェフ・小夜子だ。趣味はゲーム。父方の祖父がウクライナ人なのでこんな名前だが、あっちの言葉は話せないし読めない。そんなところか」


 この子の名前は小夜子。ウクライナ人の血が入ったクォーターの、ゲーム好きの女の子です。


「ありがとう、小夜子ちゃん」

「外国の血が入ってんの。通りで色白で背が高くて美人なわけじゃん」

「色白なのは引きこもりのせいだぞ」

「自分で言う〜?」


 みんな小夜子が長身のスレンダーな色白美人さんなのはクォーターだからなのかなと思いましたが、どうやら違うみたい。体型はともかく、色白なのはただ単に外に出ずに引きこもってゲームばかりしていたからだそうです。


「次はうちだね」


 次には車椅子のことも褒めてくれた明るい髪色の子が自己紹介です。


「笹森悠樹。好きなことは友達と遊んだりSNSに写真上げたり、まあ色々かな。よろしくー」

「陽キャのオーラを感じるな」


 如何にもギャルといった明るい雰囲気を醸し出す彼女、悠樹のオーラに引きこもりのゲームオタクを自認する小夜子は思わず気圧されてしまいました。


「次はあたしかな」


 そして次は小夜子と気が合っていたようにも見える小柄な女の子。ですが……。


「錦野智実だよ〜。以上!」

「以上!?」

「ほ、他に何かないかな?」


 あまリにもあっさりとした自己紹介に悠樹はツッコミを入れ、沙織さんはせめてもう少し何か言ってもらおうとお願いしました。


 仕方ないなぁと智美はため息をつきながら、自己紹介の続きを始めます。


「好きなゲームハードはセ○サターン、中でもソフトはシャイ○ング・ウィ○ダムが好きで四百時間くらいやり込みました〜!」

「しゃ、しゃい……?」

「やるな。こいつは相当強い指の持ち主だ」

「なんで!?」


 ですが聞いたことのない言葉の連続に、光里は首を傾げてしまいます。意味がわかったのは小夜子だけみたいで、なんだか二人だけで通じ合ってしまっていました。


「次は……」

「あっ、その、えっと……」


 次の自己紹介は、さっきからあまり喋っていない大人しそうな女の子。ですがどうやらみんなの前で話すのが苦手みたいで、言葉を詰まらせてしまっていました。


「ゆっくりでいいですよ」

「落ち着いて深呼吸して〜」


 そんな彼女をみんなは急かすことなく、励ましながらも優しく見守ります。そんなみんなの優しさを感じ取ったのか、彼女は恐る恐る口を開きました。


「き、城坂月美です。特技は、お料理……。よろしく、お願いします……」

「えらいぞ、よく頑張った〜」

「料理できんの、凄いじゃん」


 小さな声でも、緊張しているのに頑張って自己紹介をした月美。そんな彼女をみんなは優しく褒めてくれました。


 そして月美の次はいよいよフランの番です。


「来栖・フランソワーズです。娯楽などは疎いので、教えていただけると嬉しいです。気軽にフランと呼んでください」

「フランちゃんいくつ〜?」

「12ですが……」

「12歳でこの知的なオーラ!」

「うちの小六の頃こんな落ち着いてなかったんですけど」


 12歳とは思えない雰囲気に、みんなびっくり。小さくて可愛らしい見た目は12歳相応ですが、落ち着きようや知的な雰囲気は高校生か、もっと大人に近いくらいかもしれません。


「褒められてるよ、フランちゃん」

「少し照れますね」


 ですがそんな彼女も、光里の前ではすっかり甘えっ子。12歳の中では少し小柄なのもあって、この時は本当の年齢より幼くも見えます。


「次は私だね」


 自己紹介の最後を締めるのは光里。車椅子が目立つのもあって、最初からみんなの注目を集めていましたが、きちんと上手くできるでしょうか。


「茅瀬光里といいます。新種の病気で身体が弱いですが、生まれつきの病気で感染したりはしないのであまり気にしないで仲良くしてくれると嬉しいです」


 病気のことも軽く伝えた上で、上手く自己紹介ができました。そんな光里に、小夜子が質問します。


「趣味とかはあるのか」

「趣味かはわからないけど、オンラインゲームで歩いたりお話するのが好きかな」


 そしてその答えを聞いて、小夜子はびくっと反応しました。オンラインゲームで歩いたりお話するのが好き。そんな人に、心当たりがあるようです。


 けれどそんな人は他にもいるでしょう。ただもしもそうだったら。違うだろうなと思いながら、小夜子は更に質問しました。


「……まさかとは思うが、シャインという名前に心当たりはあるか」

「私だけど……」


 シャイン。それは確かに、光里がオンラインゲームで使っている分身の名前です。どうして小夜子はそれを知っているのか。その答えは、すぐに教えてくれました。


「私はナイトだ」

「えぇっ!?」


 なんと小夜子は、光里がよくオンラインゲームの中で一緒に遊んでいた仲間のナイトという人だったのです。まさか本当に会えるなんて。それにゲームでは男の子だったのに現実では女の子だったことにも、光里は思わずびっくりです。


「なになに、知り合い?」

「ブレイブアークオンラインというゲームのな。さっきは戦えるのかと心配していたがその心配は無用だ。ロボットを操縦して戦うなら、彼女程頼りになる奴はいない」


 最初は車椅子の女の子がロボットに乗って戦えるのかなと心配していた小夜子でしたが、その心配は光里がシャインだと知ったことで吹き飛びました。


 そして確信したのです。この六人の中でロボットに乗って一番強いのは、間違いなく光里なんだと。


「なんかすごい人なの〜?」

「対戦の世界ランキングで無敗の九位だ」

「そうなんですか、光里さん」

「あはは……。すぐ疲れちゃってあまり戦えないから九位だけどね」

「だがトップ10全員相手にもう百戦以上戦って未だ無敗だ」

「それ世界最強って言わない?」


 ランキングはポイントで決まるので、より多く戦う方が高い順位に行ける仕組み。ですが光里はあまり戦わないのに、自慢の腕前でトップ10の最強を競い合う程の強い人たちばかりを倒し続けて九位という高い順位を守り続けていました。


 ネットの掲示板でも最強の腕前のプレイヤーとして真っ先に名前が挙がる程に、光里はとんでもない戦いの才能を持っているのです。


「自己紹介は済んだわね。それじゃあ早速、ヨナ計画の基本的な説明を始めましょうか」


 こうしてみんなが自己紹介を終えてお互いのことをある程度知ったところで、沙織さんは授業のような形で説明を始めました。

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