第24話 作戦記録「地点441周囲防衛戦」

 最終作戦。

 魔導都市441の制圧。


 それが魔法使いの解放のために必要なことであり、その決着になると情報が共有されました。その情報がどこまで信頼可能なのかは私にはわかりませんでしたけれど、同じ組織の魔法使い達にとってはそれはすでに真実となっているようでした。


 魔導都市441は、魔導都市と言いますけれど、その実態は国際的な研究機関の1つであり、国境を越え多くの人たちが集まる場所です。この大陸を二分する二つの国以外にも、様々な国の人が集まっています。大量の研究者や技術者やその家族を中心に構成され、小さな国のようになっています。

 それを支えるのは、魔導都市441内に存在すると言われる次世代の魔力生成器です。それによる大規模魔力により魔力消費量度外視の食糧生産、都市防衛機構の起動による、一種の第三勢力としてこの土地を支配しています。この大陸を支配する2か国とは魔力供給網の確立又は技術供与により、お互いからの不干渉地帯になっています。


 そんな場所を攻めれば、本格的にこの大陸すべての存在を敵に回しかねません。所詮、少数の魔法使いがいるだけの組織が、2大国に本格的に狙われれば、ほぼ勝ち目はありません。

 しかし、状況は変わっています。現在の魔導都市441は魔力供給網分断や交通網の分断、副次魔力供給拠点の喪失により、2大国との関係は小さいものになっています。これを見れば、今までの作戦というのも魔導都市441を孤立させるための作戦というのが多かったと言えるでしょう。


 魔導都市441が孤立すれば、2大国の中での不安感情が高まります。それは当然の話です。魔導都市441の技術力はどちらの勢力にとっても無視できない存在であり、それが得られず、敵に奪われる危険が生じれば、それに対する対抗策を施行せざるおえません。


 例えば、魔導都市441の直接支配です。

 西からは竜76頭を抱えた巨大魔法生物群が、東からは魔導戦艦142隻を主軸とする魔導兵器部隊が迫っています。


 大規模な戦闘が予測されます。

 その混乱に乗じて、次世代魔力生成器の操作権限を奪取し、世界を魔法使いのものにするというのが、最終作戦の内容でした。


 正直なところ、私は次世代魔力生成器を入手したところで、2大国に抗えるようになるとは思えません。しかし今の組織にそれを警告する人はいません。次世代魔力生成器さえ入手すればすべては解決する、そんな空気が流れています。

 しかし実際には、どれだけ大量の魔力を手に入れたところで、それに見合う出力先が見つからなければ、あまり意味はありません。元々、天使や魔法使いは魔力を自己補完する兵器なのですから、今更魔力が増えたところで、大した変化は訪れないでしょう。


 もしも、大きな変化があるとするなら、多くの魔力を消費する新種の魔法やそれに類するものがあるのでしょうか。そうであれば対等な交渉が可能なのかもしれませんが、それでも一気に魔法使いの勝利まで事を進めるのは難しいように感じます。


 そんな疑問を抱いているうちに作戦開始日は近づいていきます。

 疑問はメキには共有しましたけれど、あまり真剣には聞き入れられませんでした。恐らく一介の魔法使いにはわかりにくい感覚なのでしょうけれど、次世代魔力生成器ぐらいでは2大国を滅ぼすことはできません。

 魔法使い達が経験してきた過酷な戦場において出会ったと思われる魔導兵器や魔法生物というのは2大国に所有する力のほんの一部でしかなく、多少こちらの力が増えたところでそう簡単に勝てるものではないと思います。


「過剰な不安だ」


 そう言われればそれまでで、それ以上は私も口には出しませんでした。

 私は魔導兵器です。ただ力を振るうだけであり、そこに強固な意志を介在させる必要などないのです。ただ助けたいもののために力を振るえばよいのです。

 メキがこの作戦に乗るというのであれば、彼女の助けになるように行動しましょう。ただそれだけです。


 最終作戦において、私の所属する、つまりはメキの所属する部隊が与えられた役割は外部勢力の介入の阻止でした。つまりは東西から迫りくる2つの勢力が魔導都市441に侵入することを阻止というものです。


 侵入し次世代魔力生成器を奪取する部隊が、その目的を達成するまで何人たりとも入れるなというのが命令です。聞いた話では、侵入する部隊の数は少なく、大抵は外での防衛任務となるそうです。


 問題は魔法使いがいくら束になったところで天使や竜の侵攻を食い止めるのは難しいということです。大抵の魔法生物や、上位魔導兵器などであれば、魔法使い達による防衛も機能するでしょうけれど、圧倒的な個である天使や竜を止るのは厳しいでしょう。


 そのため、こちらも天使を出します。

 こちらの勢力に属する天使は現在3機で、そのうちの2機が防衛に当たります。防衛にあたる2機のうち、1機が私です。私は防衛の主力として配備されることになりました。


 3機保有しているのだから、3機で防衛するのが良いのではないかと思いましたけれど、おそらく都市内に侵入する機体があるのでしょう。そして、それはおそらくこの組織の長なのでしょう。


 そして戦闘が始まりました。

 遠方で竜と魔導戦艦の戦闘が始まり、その下では魔導兵器と魔法使いを含む魔法生物達が戦っているのが見えます。魔法使い達のために動くというのがこの組織の基本理念ですが、今あの場所で失われていく魔法使い達の命は無視します。


 私達の目標は次世代魔力生成器の奪取をしている間の防衛です。それ以外のことをする余裕もありませんし、してはいけないのです。


 少しすれば魔導都市441の周囲を覆うように存在している壁の一部が爆発します。あれはおそらく、こちらの侵入部隊が魔導都市441の防衛設備を破壊しているのでしょう。


 魔導都市441の都市防衛機構は高出力魔力光線を主軸にた固定砲台と、それを守る多重展開型魔力障壁です。それは強力ですが、それゆえに都市内に侵入した相手には弱いと言わざる負えません。出力が高すぎて、敵だけを狙うというのが難しいのです。

 あれはどちらかと言えば、遠方から飛来する竜や魔導戦艦を撃退することが主目的でしょう。実際、そちらはうまくいっており、竜と魔導戦艦は近づけてはいません。


 この固定砲台の射線を避け、魔導都市に近づく経路は限られており、そこを巡って2つの大国は戦っています。そして、その経路を塞ぐのが私達の役目です。


 私の待つ場所に最初に現れたのは、魔導兵器でした。下位から上位まで多種多様な魔導兵器が出現しましたけれど、そのすべてを撃退します。単純に数で勝っていましたから、単なる作業でした。


 次に現れたのは魔導戦艦です。これは私が撃破しましたけれど、攻撃の余波でこちらにも幾人かの犠牲がでました。守り切ることができなかった者達がいました。単体で戦うことしか想定されていない天使に、味方を守る機能など実装されているわけがなく、仕方のないことと言えば、その通りなのですけれど、それを良しとは思えません。

 けれど、私にできることは、命令通りにただ目の前の障害を排除することだけなのです。


 それから何度かの戦闘がありました。

 10日ほどが経過していました。


 本来の予定であれば、8日ほどで次世代魔力生成器の回収は完了するという話でしたから、何か予定外のことがあったのでしょう。回収班と直接話すことができれば、何があったかもわかるのですが、魔導施設441内部との通信はできません。通信が不可能というわけではないのですけれど、通信傍受や逆探知の可能性を考えれば、できないというところでしょう。


「助けに行くべきだ」

「命令通り、ここを守るべきだ」


 封鎖班の中では、2つの意見がでていました。

 結論から言えば、私達も魔導施設441内に向かうというのが結論になりました。


 現状、2つの大国は互いに勢力を削りあい、この場においてのまともな戦力があるようには見えませんし、あったとして撤退しているというのが実情です。魔導施設441の高出力魔力光線の射線を気にしながら戦闘するというのは想像よりも難しいことだったのでしょう。


 さらにいえば、私達の存在というのもその選択に一役買っていたことは想像に難くありません。なぜなら高出力魔力光線の射線を躱すということは、私達との戦闘になるということですから、防衛線を展開した私たちのほうが圧倒的に有利だからです。


 故にこれ以降の防衛は最低限の戦力のみを残し、魔導施設441内部の回収班を援護するというのが目標になりました。そして、私はその最低限の戦力に数えられました。


 それは当然と言えば当然で、魔法使いだけでは魔導戦艦や竜の襲来に対応できないからでしょう。逆に言えば、天使1機でもいれば、その有利不利は覆されます。だからこそ、私は残ることになったのでしょう。


 味方のもう1機の天使は魔導施設441内部を目指すようです。本当は私もそちらが良いと考えていたのですけれど、メキが防衛を頼むというので、私は残ることになりました。


 それが作戦開始から11日目のことです。

 魔導施設441内部を目指すメキに別れを告げ、私は魔法使い達と共に要所を見守ります。

 そして、雨が降り始めました。

 あの日と、アリスが攫われた日と同じ雨が。

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