第23話 会話記録「天使003、2」

 竜を倒した余波で、後方にいた人や雑多な魔法生物の殲滅は完了していました。残っているのは、撃ち漏らした多少の魔法生物群でしたから、すぐに殲滅を完了させ、メキのもとへと帰還しました。


「ありがとう」


 メキや、周りの人は私にそう言いました。

 それが私にはとても嬉しいことでした。なんだか、認められた気がして。


 それからメキとも話をしました。

 彼女が語るには、私と別れてから魔法使い達の居る施設を目指したようです。しかし、到達することは叶わず、代わりに魔法使い解放を目指している組織に拾われたようでした。

 利用されるだけの魔法使いを、人類の手から解放するというのがその組織の目的であり、それはメキの目的とも合致していましたから、今はその組織のために動いているようでした。


 そして私はそれから彼女ために力を振るいました。

 認められるのが心地よいからというのもありますけれど、それが私のあるべき姿であると思ったからです。


 私が助けたい人のために、単純に求められるまま力を振るう。深い思慮などはいらない。私はただの平気なのですから、そのようなものは不要なはずです。


 都市の魔力を賄うための魔力発生所の破壊。

 魔力供給の要である魔力供給網の破壊。

 魔法生物作成所の制圧。

 5か所の魔力的要所の奪取。


 これらがメキの部隊に降りてきた任務でした。正確にはメキの部隊だけでやるものであはなく、もう少し大きな括りに対して降りてきた任務で、そのなかの小隊という役割がメキの部隊でした。


 私はその中でメキの求めるままに力を振るいました。


 魔力発生所への遠距離砲撃。

 無数の魔力障壁や、対空砲、対魔力用霧散装置などの様々な障害を貫通し成功。


 魔力供給網の寸断。

 要所であった交錯点を、高密度魔力砲により破壊。


 魔法生物作成所における竜1頭を含む31体の防衛用魔法生物群の殲滅。


 魔力的要所である、ギ火山、ダバスリ火山、アザリ湖、ガイミシア盆地、キイ海溝、それぞれにおける敵性戦力の殲滅。


 それらはすべて私がいなければ苦しいものとなっていたでしょう。いえ、私がいても苦しい任務でした。たくさんの犠牲が出ました。魔法使いがたくさん魔力へと還りました。目の前で助けられずに死亡した魔法使いも両手で数えきれないほどいます。


 不可能な任務なのかと言われると、そうではないとは思いますけれど、私がいなければ全滅していた可能性もある任務も多かったように思います。特に終盤の任務は私がいなければ不可能であったのではないでしょうか。


 無論、私という存在は上には報告されています。

 それゆえに任務の難易度が上がったのでしょうが、そう簡単に私という存在を信頼して良いのでしょうか。いえ、今のところ私が裏切る予定はありませんけれど、この組織の視点に立てば、疑問ではあります。


 私は魔導兵器であり、魔法使い至上主義の組織とは水に油のような関係な気がします。実際、拠点で時折出会う魔法使いにはあまり良い顔はされません。魔法を放たれたこともあります。

 流石に同じ部隊にいる人には何も言われなくはなりましたし、私を頼りにしてくれて褒めてくれる人も多いです。しかし、それはメキの部隊だけですから、全体からみればごく少数でしかありません。


 しかし、メキの上の上の、さらに上ぐらいでしょうか。そのあたりは私に対してあまり警戒をしていないようでした。私の存在というものは、様々な人からの報告、それこそメキからの報告からもわかっていたでしょうが、それをその理由がわかるのは、メキとの再会から200日ほどが経過してからになります。


 この団体を組織し、管理している者と出会う機会がありました。

 それはメキの所属する部隊が私の影響により活躍しすぎた結果、詳細を把握するための行動でしょう。つまり、私を調べに来たのです。


 恐らくそれだけではないでしょう。私を調べたいのであれば、もう少し早く接触を図るはずです。この機会であるということは、他にも用があるのでしょう。


「久しぶりだな。1786日ぶりか」


 そう予測していた私の前に現れたのは天使でした。

 男型天使でした。そして、一度見たことのある天使です。


「俺はカリエステル。覚えてるよな?」


 カリエステル、それは5年ほど前、アリスと再会した魔導研究所で出会った天使です。何か目的のある風でしたけれど、まさかこんなところで再開するとは思いませんでした。


「覚えていますが、しかし……天使であるあなたがこの組織の長とは思いませんでした」

「まぁ、こっちにもいろいろあるんだよ。それに俺が長ってわけじゃねぇしな」


 彼はそう語りました。

 前に出会ったときに言っていたように、彼は目的を話してくれました。この組織は、元々彼ともう1人の天使が一緒に作成した組織のようでした。


 彼ともう1人の天使の目的は、人類への抵抗です。

 単純に人類への恨みから、魔法使いの解放を目指していると言いました。


「ま、俺は正直そこまででもないんだがな。あいつについていけば、多少は面白い世界になる気がするからよ」


 と、言ってもいましたから、実際のところはもう1人の天使が長というべきなのでしょう。


「その、もう1人の天使も、覚醒というやつをしているのですか」

「まぁ、そうなるな。覚醒していない天使は、ただ機体に刻まれた命令に従うだけのでくの坊だからな。こんな複雑な行動はできないし、しない。あんたは、少し眠っちまったか?」

「……そう、かもしれませんね」


 少しの沈黙の後に私はそう答えます。

 最初に彼と出会ったときに比べれば、自分で考えることを放棄しているというのは事実だったからです。自力で思考するというのは、私にはあまり向いていないような気がします。多分、自分で考えたところで、あまりいい方向には進まない気がするのです。


「なんだよ。おもしろくねぇな。俺たちはこの惑星で最強の存在なんだぜ? もっと好きにやればいいんだよ。楽しそうなことを目指して、好きに過ごしていればいいんだよ」


 彼はそう語りました。

 本当にそう思い、そう信じているようでした。どのような思考形態なのでしょうか。本当に元々はただ命令を聞くだけの軍事兵器だったのでしょうか。あまりそうは見えませんけれど……いや、しかし反動でやんちゃになっているという捉え方もあります。


「あなたは、好きにできているのですか」

「概ねな。だが、多少考慮するべきこともある。特に天使という同格の存在が敵に回れば厄介極まりない。そうだな、今回も餞別として教えておいてやるよ。注意するべき天使を」


 そう言って彼は天使の名を上げました。


「まずはまぁ、シンベストだな。対単体敵性兵器殲滅用天使で、こいつと正面切って1人で戦うのは無理だ。天使としての自力が違いすぎる。なにせ、天使の輪を2つも持ってるんだからな。あんたも天使ならわかってると思うが、天使の強さはこの輪っかによるものが大きい。それを2つも持たれたんじゃ、勝ち目はない。数で押せば何とかなる可能性や、搦め手を使うという選択肢はあるが……あんまり戦いたくはないな。


 次にミラジュリー。情報制御兼隠密作戦行動用天使だ。観測機器類に大きな障害を与える兵装を多数所持している。たしか広範囲に自信の魔力を付与した雨を降らせることで、情報収集と観測妨害の両方を同時にこなすのが主要兵器だったはずだ。単体では大した敵じゃないが、複数同士の戦いともなれば厄介極まりないな。


 3機目は……スナピマだったか。こいつは遠距離砲撃型敵性存在破壊用天使で、厄介度で言えばミラジュリーと同じ程度か。ミラジュリーの奴は、広範囲への妨害を得意とするのなら、スナピマが得意とするのは遠距離からの一撃による破壊だ。通常の索敵能力の外側からの攻撃だからな。最初の一撃を感知するのは相当難しい。狙われるとしつこいしな。面倒くさいやつだぜ」


 そしてこいつら全員は覚醒している、そう彼は付け加えました。つまり命令があるから私が製造された国の味方をしているのではなく、各天使達の自らの意思で見方をしているのです。


 さらに言えば、2機目に紹介されたミラジュリーという機体は、9年ほど前に私と戦った2機の天使のうちの1機でしょう。たしかにかの機体は強力な個体でした。


「その3機は全て本国の味方なのですね」

「まぁ、そうだな。あいつらの目的はわからないが……そうだ。重要な奴を忘れていた。もう1機、注意すべき天使がいる。いや、いるはずなんだ。国にいた時も会ったことはねぇが、絶対にいる。逆説的にだが、一番注意するべき相手なのかもな。全く情報がない。だが、いるはずだ。そうでなくてはおかしい」


 そしてカリエステルとの2度目の邂逅は終わりました。他にも用はあると思っていましたけれど、彼はただ私に会いにきただけのようでした。恐らくですけれど、私という存在が敵か味方かの判断というのはあったのでしょうが、ただそれだけで彼は去っていきました。


 さらに言えば、彼を見るのはそれが最後となりました。

 数日後、スナピマと呼ばれる天使との相打ちになったと、メキから聞きました。最強の存在だと自らを言っていた彼は、もう2度と何も言えない存在になったのです。


 そこからの展開は早いものでした。

 組織全体に最終作戦というものが伝えられました。それはとある魔導施設の攻略作戦であり、そのための大量の作戦が投下されました。いえ、今までの作戦もその魔導施設を孤立させるための作戦だったのでしょう。


 そしてその最終作戦の日が来ます。

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