第19話 実験記録「汎用人型魔法生物実験記録からの抜粋」

実験記録1 

 入手できた魔法使いの数は13体である。それぞれ1番から13番とする。

 そのすべての魔力量を測定機を用いて測定した。

 それぞれの魔力量の平均は、人類の魔力平均の3500倍程度である。詳細記録は別途参照のこと。


 また実験中4番、6番、7番、10番、12番には反抗的な態度、または非協力的な姿勢が見られたため、腕を切り落とした。


実験記録7 魔法の確認

 13体の中の魔法の確認。

 魔法の確認のため、中位魔導兵器と戦わせることにしたが、その結果1番の魔法使いが死亡した。しかし、魔法の使用は見られた。

 大気中の魔力の流れや、各種観測機の記録より、1番の魔法は熱に関するものだったと推測される。確かめるすべはないわけだが。


 興味深いことに、1番の死体は数分ですべて後からもなく消えた。吹き飛んだ右腕、ちぎれた右足、えぐれた腹、つぶされた頭。そして血液。そのすべてが跡形もなく消えた。

 同時に大気中の魔力濃度が増大したことから、魔力へと還ったことが推測される。これはまだ仮説だが、魔法使いの肉体は、魔力による仮初のものではないかとも考えられる。


 記録された言葉

 な、なんなんですか。ここは。

 ひ、や、やだ。

 む、無理です。

 こないで。

 効かない。

 悲鳴。

 掠れた悲鳴。

 ごめんなさい。

 許してください。

 帰りたい。みんな。(声量が小さかったため、確定ではない)


実験記録9 魔法の確認

 2番から13番までの魔法を確認した。

 下位魔導兵器と戦わせることにしたが、その過程により3番、4番、7番、13番が重軽傷を負った。しかし前回の実験の反省から死体はでなかった。


 それぞれの魔法は以下の通りである。判明している詳細能力は、別途参照。

 2番 純粋魔力放出。

 3番 周囲の熱操作。

 4番 大気中の魔力の圧縮。

 5番 他者への魔力供給。

 6番 熱放射。

 7番 純粋魔力放出。

 8番 氷投射。

 9番 冷気放出。

 10番 周囲への炎出現。

 11番 一時的な魔力の増幅。

 12番 対象からの魔力回収。

 13番 周囲からの魔力回収。


実験記録14 杖の力の確認。

 魔法使い達の持つ杖の力の確認。

 2番に杖を渡し、使い方を説明させた。

 杖には回復魔法と飛行魔法が封じられているようで、実際に飛行して見せた。また回復魔法の効果確認のため、一度足を切り落とし回復魔法を使用させた。しかし足は再生しなかった。

 3番の右腕の皮膚を焼き、回復魔法を使わせたところ、皮膚は再生した。


実験記録22 魔力耐性実験

 魔力への耐性確認のため、様々な濃度の魔力を5番から11番に与えた。

 5番が一番高濃度であり、11番が一番低濃度である。なお、低濃度と言っても、大気中の5倍程度ではある。濃度の詳細は別途参照。

 その結果、5番、6番、8番は死亡した。7番、9番は体調不良を訴えているため、経過観察。10番、11番に目立った変化は確認されていない。


 死亡理由は高濃度魔力により、体内の魔力に歪み、それが影響されたと思われる。7番が生き延び、8番が死亡した理由は不明。


 記録された言葉

 なに、ごれ。

 助けて。

 無理。

 ごめんなさい。

 くる、し。

 やだ。

 おかしい。

 悲鳴。

 私の身体が。

 割れる。

 気持ち悪い。

 変だ。

 苦しい。


実験記録35 脱走事故

 脱走事故により3番、4番、7番、9番、11番、13番が終了処分となった。

 終了時に死亡時の肉体の魔力変化についての経過観察が行われることになった。

 11番の餓死においては、体内の魔力量が減少し、手足の先から魔力へと変換される様子が見られた。

 13番の出血死においては、肉体から離れる手や足は魔力変換が行われるのが見られた。これは体内の魔力循環から離れたことが原因だと考えられる。


 記録された言葉

 やだ。

 死にたくない。

 何か。

 食べ物。

 お願い。

 助けて。

 ごめんなさい。

 やめて。

 辛い。

 殺して。

 痛い。

 死にたい。


実験記録76 断頭実験

 2番を断頭し、傷口を塞ぎ、魔力供給を行ったところ、2番は正常に生きているようである。言葉も発し、魔法も使えるようである。なお、首より下は魔力へと還った。


 記録された言葉

 もう嫌だ。

 殺して。

 殺してください。

 お願い。

 終わらせて。


実験記録77 12番の命令違反

 12番により2番の殺害が行われた。

 これにより12番の終了処分が下されたため、12番は魔法使いの炎耐性への確認に回された。体内の魔力による影響か、本来なら焼けこげている状況であっても生存が確認されたが、最終的には焼却された。詳しい情報は別途参照。


 記録された言葉

 ありがとう。

 何をするんですか。

 あつい。

 悲鳴。


実験記録84 現在の状況と愚痴

 実験個体は残り10番のみとなった。被検体不足が懸念されるため、本部に要求を出したが、研究の打ち切りが発表された。上は現時点で、魔法使いに関してのほとんどの情報を取得できたと考えているらしい。


 しかし私はそうは思っていない。魔法使いにはまだまだ未知の部分もあるし、魔法使いの魔力形態の解析や性質の解明が進めば、人類の強化、または機械化技術の発展に大きく尽力するはずである。

 その旨を上には伝えたが、可能性は薄いとして処理されたようだ。見る目のないやつらだ。


 よって個人的に新たな被検体を用意することにした。

 幸いにしてちょうど重要な情報を入手した。人と魔法使いの混血児である。そんな例は今まで聞いたこともない。いや、想像すらしていなかった。これを手に入れれば、私の実験は飛躍的に進歩するだろう。

 まだこの情報は上には伝えていない。上層部には通さずに、この被検体を入手する。それが目標だ。

 しかしその混血児は、強力な魔導兵器により守られているとの噂もある。ゆえに一番信頼のできるところに依頼をだしておいた。


実験記録87 14番の入手

 魔法使いと人間の混血児を入手した。

 14番として保管室にいれた。

 本格的な実験は明日からだ。


実験記録88 14番の魔法

 14番は魔法を使えないようだ。

 下位魔導兵器と戦わせたが、魔法どころか魔力を使用した身体強化すら満足にできないようだ。あやうく貴重な被検体を殺してしまう所だった。

 しかし魔力量はとても多いため、発動できる可能性が高いように思う。魔法が使えることを隠しているようには思えない。


実験記録93 14番の魔法

 14番の魔法行使が確認された。

 10番に魔力の使い方を教えさせたのがよかったようだ。

 魔法は自己魔力の操作精度向上だと考えられる。


実験記録94 14番の変化

 14番の様子に変化がみられる。

 入手したての時は、とても衰弱し、苦しそうな様子もみられたが、現在は回復に向かっているようだ。死ぬよりはましだが、原因の究明はまだだったので惜しまれる。

 

実験記録106 体調不良の理由

 14番の体調不良の原因は、14番の魔力が関係しているようだ。

 肉体と魔力の共存により、魔力の強大な力が肉体への負荷をかけているようである。その結果が、14番の体調不良を引き起こしていたようだ。魔法使用にる自己魔力の操作により、それがある程度解消されたようである。


 よって肉体と魔力の同時併用は難しい可能性がある。やはり脳の魔力化をするには全身機械化を行うしかないかもしれない。


実験記録127 比較実験

 純粋な魔法使いと、混血の魔法使いの比較のため、12番と14番に対して同時に実験を行った。

 初回は魔力への耐性を確認した。

 少しずつ部屋中の魔力濃度を上昇させる実験である。


 結果としては純粋な魔法使いのほうが、魔力耐性は高いことがわかった。

 14番は魔力濃度上昇率が1500%になった時点で苦痛を訴え、2300%地点では呼吸が困難になり、皮膚がただれ始め、悲鳴を上げた。対して12番は2300%地点では苦痛を訴えた程度であった。

 なお被検体が1個体ずつしか存在しないことには留意したい。


 記録された言葉

 あぁ、焼け、痛い。

 苦しい。助けて。

 シイナ。どこ。

 出して。お願い。


実験記録129 比較実験

 回復魔法の効果の比較。

 12番と14番の右足の表面皮膚を焼き、同部分への回復魔法の効果を比較した。

 あまり変化は見られなかった。回復魔法はどちらにも同じ程度の効果はあるようである。

 しかし人類に回復魔法の効力は認められないことから、14番の肉体の魔力的要素に回復魔法は働きかけていると考えられる。


 記録された言葉

 熱い。焼ける。苦しい。

 シイナ。助けて。

 もういやだ。

 やめて。


 備考

 14番はよくシイナという言葉を発する。

 なにかの魔法かなにかだろうか。

 声を媒介にした魔法は例がないが、考察が必要だろう。


実験記録147 追加被検体

 追加被検体15番と16番を入手した。


実験記録148 魔法使いの脳

 15番の頭を割り、脳の様子を確認しようとしたが、失敗した。観測装置により、頭の中身が複雑な魔力、一種の術式のようなものになっているのはわかっていたが、頭に傷をつけた瞬間、その術式はほつれ、無意味な魔力へと変わってしまった。

 この術式を理解することが、私の計画の進展には必要な行為だが、これはなかなか難しいかもしれない。残念だ。


 補足

 15番は死亡した。


実験記録195 魔法使いの脳

 前回の実験で16番は死亡したが、理論は完成に近い。

 魔法使いの魔力でできた脳は、体内の中という閉じられた小世界でのみ機能する限定的な魔法となっていると考えられる。常時発動型の魔法、いや、魔力が術式のようなことを鑑みると、連続発動型の魔法のようなものだろうか。

 しかし、これをこのまま機械化に転用することは難しい。機械の中を魔法使いのような閉じられた空間にすることは難しいからである。しかし、14番は魔力的要素が肉体的要素の混在により身体を保っているため、14番の解析を進めれば、理論は完成するだろう。


実験記録224 思考術式解析

 14番の術式の抽出、そして構造の確認を行った。

 14番という貴重な素材を使用するのは残念だが、肉と魔力の融合状態である14番でなければ、この実験は行えない。結論から言えば、解析は無事終了した。


 14番の思考術式は不安定である。しかし14番の魔力干渉能力はかなり内向的であり、その特質性により、思考術式を保っている。いや、このような魔力干渉特性をもつからこそ、この思考術式なのかもしれない。

 ともかく、これにより思考術式を小世界から出した状態での安定化という目標は閉じられたわけだが、逆に言えば不安定になったところ、再安定化の補正ができれば思考術式のような、脳の魔力化は行えるわけである。


 これは実験記録213の考察にも書いたことだが、やはり無理に安定化を目指さずに、非平衡化を行うことで、補正をかけやすくする方針で理論構築をするべきだろう。


 なお、この実験により14番の思考術式は大きく乱れた。恐らくもう元には戻らないだろう。時期に処分する。


 追記

 完全な理論の完成には、思考術式への干渉能力をもった14番の魔法が必要な可能性が高い。処分は保留とし、魔法の術式抽出を目指す。

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