第18話 戦闘記録「機械人001」

 私の豹変により、娘が殺された彼は、動揺した様子を見せましたけれど、すぐに私に強い眼を向けてきます。先ほどと同じ強い決意の目です。


「だから言ってるだろう。脅しはきかん」

「わかりました」


 腕を再度変形し、魔力砲の精密操作を可能な形態へと変化させます。これにより、彼の手足を切り飛ばします。

 お父様は完全な機械ですから、肉体的な損傷で死ぬことはないでしょう。けれど、これで身動きを封じました。あとは彼の頭の名から情報を得ることができれば、それで良いでしょう。


 幸い手段は思いついています。

 多少時間はかかるでしょうが。


「くそ」


 身動きが取れなくなったと見るや、彼の中の魔力が圧縮されたと思えば、彼の身体が吹き飛びます。さらに言えば、魔力が破裂した影響で部屋には大きな穴が開いています。

 自爆です。突然のことで、止めることはできませんでした。


 自爆したところで、私にはなんの損害もないですけれど、せっかく捕まえていたのに逃げられてしまいました。


 これで死んだとは思えません。

 別の身体に乗り移ったのでしょう。問題はそれがどこにあるのかですけれど、きっとそれはこの研究所内でしょう。他の場所であれば、その間に私が地下へと向かう可能性があります。それを阻止するために、この研究所内にまだいるはずです。私を止める次の策を用意してくるはずです。


 地下への鍵は自分の頭の中にあるとお父様言っていました。私はそれを手に入れなくてはいけません。

 もしも鍵で閉じらえた扉がただの扉であれば、破壊すればいいだけです。それだけで私の目標は達成されます。しかしその扉を正規の手段以外で開けた場合に、囚われた魔法使いが死ぬような可能性も考えられるため、私としても扉の鍵は欲しいです。


 周囲の地形を把握し、地下への道を進みだした私の前に彼が現れたのは、彼が自爆してから約279秒後でした。全身を強化装甲で包んだ戦闘用機体で私の前に現れました。


「お前が猶予をくれたように、私も猶予をやろう。これは私の中でも屈指の戦闘力を誇る機体だ。出力は魔導戦艦以上。投降し、修理を受けるなら今だが」

「結構です」


 それ以降言葉はなくただ攻防のみがありました。

 出力は魔導戦艦以上というだけあって、高密度魔力砲に加え、気流操作や光操作を可能としていた戦闘用機体でした。上位魔導兵器の枠を超え、超上位魔導兵器と言える戦闘力と言っていいでしょう。小型魔導戦艦と言っていいかもしれません。


 気流操作により、周囲の空気が変わり、強烈な風が吹き荒れます。

 光操作により、機体の姿が見えなくなります。

 こうして惑わしの果てに、高密度魔力砲が私を襲います。


 確かに脅威です。

 メキと出会った頃の私であれば、もう少し苦戦したでしょう。

 しかし現在の私の天使の輪の修復率は4割。それに加えて、兵装の状態や種類も完全ではなくても十分にあります。この程度の相手であれば、十分に。


 気流操作は、限定環境圧力操作機能により相殺します。

 光操作は、光学観測機を停止させ、余剰魔力を魔力観測機と音波観測機に回すことで姿が見えずとも、姿を捉えます。

 高密度魔力砲は流石に強力であり、私の張る簡易魔力障壁では減衰は可能であれど、十分には受け止めきれません。しかし気流操作を封じ、光操作による姿くらましも無効化すれば、躱すことなど容易です。


 こうしてお父様の攻撃の全てを跳ね除け、防御の全てを貫き、彼の胸に腕を突き刺します。

 そして魔法を起動します。正確には魔法を模倣したものでしかないのですけれど。


「メキ。力を借ります」


 メキの術式を解析し、手に入れた機能です。

 彼女の魔法である、外部魔力の操作を模倣し使用します。彼女と違い、触れなくては使用できないですし、操作精度も低いですけれど、目の前の機械人から人格情報を隔離する程度は可能です。


 この人格情報の中に鍵はあるでしょう。

 あとは時間はかかるでしょうが、再度メキの魔法でそれを手に入れれば。


「おいおい。楽しそうなことになってるじゃねぇか」


 その時新たな音が、響き渡ります。

 後ろを振り向くと、そこには男がいました。

 頭の腕に輪のある男でした。


 天使です。天使が来たのです。

 恐らくお父様が救難信号か何かを出したのでしょう。

 4年前に出会った天使とは違う天使です。


「おっと、まぁ落ち着けよ。あれだろ? あんた、覚醒してんだろ? なら、敵同士じゃねぇ。まだ」


 かくせい? 覚醒でしょうか。なんのことでしょう。

 私の情報にはありません。


「どういう意味ですか」

「あれ、知らないか。なら……いや、まぁいいか。この情報は結構重要なんだぜ? 覚醒ってのは、人工知能にある自己認知変化だ。いわゆる自我の獲得だな。あんたにも何かしら経験あんだろ。自分を自分だと認識した瞬間がよ」


 あるのでしょうか。

 いまいちぴんとこないですけれど、強いて言うのであれば、アリスが私に名前を付けてくれた時でしょうか。


「今のところは天使にしか見られないが、そこらの魔導兵器だって可能性としてはあり得る状態変化ではある。今明かせるのは、こんなもんか」


 男型天使は飄々とした様子で、距離を詰めます。

 その様子に敵意は見えません。


「それ以上、近づかないでください」

「そう警戒すんなよ。と言っても無理な話か。そうだな。今日はこの辺で引くとするか。おっと、忘れてたぜ。あんた、名前は」


 名前。

 どちらを明かすべきなのか悩みます。


「……特異状況対応型天使1号です」

「そっちじゃねぇ。それともそれしかねぇのか?」

「……シイナです」

「そうか、俺はカリエステル。またどこかで会うこともあんだろ。そん時はよろしくな。敵としてではないことを祈るぜ」


 彼の言葉は真実でしょう。嘘をついているようには見えません。

 敵としてならないのなら、それは良いことですけれど、疑問があります。


「私も敵として出会いたくはありません。ですが、天使であれば私の敵になってしまうのではないでしょうか。私は本国の敵のようなものなのですから」


 それが疑問でした。

 最初の邂逅の時点で、私は彼に攻撃されてもおかしくはなかったはずです。ですが、そうはならなかった。彼は敵ではないのでしょうか。

 しかし、彼は天使です。天使は基本的に本国の命令に従うものですから、本国に敵対している私とは敵になるはずです。


「本国といてはそのはずだろうなぁ。だが、俺は覚醒している。自我を獲得している。命令なんかにゃ従わねぇ。そして、俺としてはあんたとは仲良くしたい」

「私も敵対を選びたいとは思いません」


 これは本心です。

 敵は少なければ少ないほどいいでしょう。

 しかし、私が味方をしたいアリスの敵は多いのです。


「もしも俺たちと目的が一致するなら、仲間になってほしいが……今のあんたにゃ、無理だろ? それは」


 その言葉に無言で頷きます。

 アリスという個人のために動く私ですから、大きな目的のために動くというのは難しいでしょう。彼女が協力したいというのであれば、それを手助けするでしょうけれど。


「ちなみに、どのような目的なのですか」

「そりゃまぁ、今は言えんな。まぁ、少なくともあんたが魔法使いを助けることを止めたりはしないぜ。んじゃ、俺はこの辺で。おおっと、安心しな。救援要請はこっちで適当に言い訳して握り潰しておくからよ。ゆっくりやると良いぜ」


 そう言って、彼はどこかへと消えていきました。

 彼の言葉をどこまで信じるかは難しいところですけれど、私を邪魔しないというのであればそれでかまいません。


 それに、彼が仲間ではありませんが敵ではないというのも恐らく真実でしょう。敵なのであれば、私など簡単に破壊できたはずです。私の天使の輪の状態に同じ天使である彼が気づかなかったとは思えません。


 気になる要素ではありますけれど、今はそれよりも地下を目指すべきでしょう。カリエステルのことは、またあとで考えるべきことです。


 地下の入口の前に立ちます。

 地下は地上部分に比べれば、綺麗で明るい場所でした。普段はこちらにいるのでしょう。しかし、相変わらず人の気配はありません。1人で研究していたのでしょうか。


 地下への扉は閉ざされ、決められた魔力を流さなくては開かないようになっています。しかし、鍵は手に入れました。いえ、正確にはこれから手に入れるところです。

 現在、お父様の人格情報を解析をしていますが、残り数十分で解析は終了するでしょう。地下への鍵は、推測どおり人格情報の中に隠してありました。人格情報の中に眠る複雑な魔力波の組み合わせが鍵になるようです。


 一応扉を調べますけれど、強制的に開こうとすれば、魔力爆発が起こり、地下のものは全て吹き飛ぶようになっているようでした。誰にもこの研究に関する情報を渡したくなかったのでしょう。


 そして地下への扉が開きます。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る