第10話 作戦記録「地点023攻略戦」
作戦開始時、地点023の南東にある崖の上に私達はいました。ここが作戦開始位置になります。
右腕を変形させ、高精度制圧射撃形態へと変形させます。魔力を籠めつつ、標的を視認します。18機の監視用自立飛行機と10機の戦闘型魔導兵器へと照準を定めます。
「準備はいいですか?」
「あぁ。いつでも」
その言葉を聞いて、私は高密度魔力砲を撃ちました。
放たれた魔力砲は、空中で分裂し、28か所の射撃目標を正確に貫き、破壊します。私の高密度魔力砲の威力は、4年前に比べれば大きく減衰していますが、それでも大抵の相手が止められるものではありません。
「行きましょう」
メキの手を握り、崖から跳躍し、地点023の入口へと着地します。
入口には、案の定警備用の魔導兵器が鎮座していましたが、魔力砲による先制攻撃により破壊し、先へと向かいます。
地点023の中は読み通り、兵器工場のようで製造途中の魔導兵器がちらほらと見えます。中心に吹き抜けとして存在する製造場所を監視するように、周囲に薄暗い通路が迷路のように張り巡らされていました。
けれどそちらに用はありません。私達の目指す場所は、地下です。
「周囲の情報を取得します」
各種測定機の使用を開始します。できれば侵入するよりも先にしておきたかったですが、逆探知の可能性を考えれば、それは不可能でした。逆探知まで行かなくとも、狙っていることを悟られ、警備を強化されるのも困ります。
「おい、きたぞ」
赤い眼をもった魔導兵器が曲がり角より出現します。保有魔力量を見る限り、中位魔導兵器の一種でしょうか。私の知らない型です。この4年の間に造られたのでしょう。
「15秒。持ちこたえられますか?」
「……わかった」
各種観測機と攻撃用兵装の併用が不可能なわけではないですが、ここは観測機を全開にしてなるべく早く移動をすることを優先したほうが、作戦成功確率が高いと判断しました。
情報取得までの15秒間、メキに任せることになりますが、大丈夫でしょう。彼女の実力であれば、中位魔導兵器一機程度であれば、十分に戦うことが可能です。倒すことも、多少時間をかければ可能でしょう。
それをこの数週間で知りました。
この中位魔導兵器の主要兵装は室内用跳躍弾のようで、メキの四方から高速かつ同時に無数の弾丸が飛来しますが、それを彼女は魔法1つで無効化します。
魔法使いは造られたときから1つの魔法を使えるようです。彼女の場合は、それが、空間座標選択式の魔力操作魔法のようでした。射程距離は短いようですが、自らの周囲の魔力へと干渉可能な魔法です。
それにより室内用跳躍弾に内蔵されている軌道変更用魔力推進機を無効化したのでしょう。無論、跳躍せずに直進してくる弾丸もありますが、それは通常の魔力障壁で防ぎます。
そして私の情報取得が終わりました。
「もう大丈夫です。破壊します」
一瞬悩みましたが、すぐに腕を変形し、高密度魔力砲を放ちます。魔導兵器だけでなく、奥の壁まで破壊してしまいましたが、これより低出力の攻撃では中位魔導兵器の装甲を貫通できる確信がありませんでした。
しかし、高密度魔力砲は強力ですが、それゆえに消費魔力量も大きいです。万全の状態であればともかく、今の私の状態では何発も打てるものでもありません。まだ余裕はありますが、不測の事態にも備えることを考えれば、なるべく温存しておくべきでしょう。
「助かりました」
「これぐらいどうってことないぜ。それで、どっちだ?」
「突き当りを左です」
取得した情報をもとに、とるべき道筋を選択します。
非常階段を抜け、地下へと向かいます。途中にある扉は閉じられているものばかりでしたが、メキの魔法により突破し先に進みます。私1人では突破に時間がかかるか、もしくは魔力消費量の大きな装備を使わざる負えない状況になっていたでしょう。
この地点023の地下構造は2層構造で、目的の通信装置は地下2階にあると推測されます。他の場所に通信装置がないわけではありませんが、強力な接続権限を持っているのは、最下層にあるものでしょう。
情報統合管理地点は本国の全てです。少しでも見れられないようにする仕組みを取っています。接続権限5以上を保有する場所は特にその傾向が強いです。おそらくここもそうでしょう。
「やはりいますね。ここにいてください」
「わかった。
地下2階。通信装置がある部屋の前には、上位魔導兵器がいました。
それもかなり強力な型です。
上位魔導兵器の性能は、量産可能な魔導兵器の中では最高でしょう。故に様々な場面で使用されます。また、種類も多く、何かに特化させることは少ないですが、その出力は用途により変動します。量産性を重要視するのか、単体出力を重視するのかというのが大きな指標となります。
そして目の前の不可思議な形の上位魔導兵器は、後者でしょう。おそらく瞬間的な出力であれば魔導戦艦の主砲にも匹敵することも可能なのではないでしょうか。
5本の棒が円形に回っているような形の上位魔導兵器はこちらを認識すると同時に、棒が散開し、それぞれが熱放射線射出装置により攻撃してきます。これはそこらの魔力障壁であれば用意に貫通可能な兵装です。何も対策をしなければ、私の装甲も破壊するでしょう。
メキを少し離れたところに置いてきたのは正解でした。これを喰らえば、彼女ではどうしようもなかったでしょう。私だけであれば、回避は容易です。内臓されている予測演算機の性能が違います。さらに言えば、私の展開する魔力障壁を貫通するほどの性能はありません。
あの魔導兵器の攻撃方法がこれだけであれば、問題はありませんが、そんなことはありません。これだけでは上位魔導兵器としては出力も能力も不十分です。
展開した5本の棒がさらに割れ、10本の短い棒へと変化し、再度円形に回り始めます。その回転は次第に強くなり、それにつれ、次第に重力が変化していきます。私の身体が宙に浮きます。
重力操作装置は、今の私の状況であまり使いたいものでもありません。消費魔力が大きく、脱出時のことを考えれば、温存したい魔力です。けれど、このままでは回避運動が満足にできません。
再度上位魔導兵器が変形し、すべての棒が束なり、1本の棒へと変化します。そして魔力が高まり始めます。重力によりまともな回避運動ができないうちに、一番火力の高い攻撃で押し切るつもりでしょう。
しかし、私はそれを待っていました。
私はすでに腕の変形を終え、発射体勢を完成させています。
発射するのは高密度魔力砲以外にはありえません。高密度魔力砲は躱されれば、そう何度も発射できない私にとっては致命的です。しかしこの瞬間、あの魔導兵器が最高の一撃を放つこの瞬間は、躱されることはありません。敵も発射体勢を崩すわけにはいかないからです。
私と魔導兵器から発射された高密度魔導砲は空中で衝突します。こうなればあとは単純な力の勝負。威力勝負です。そしていくら弱体化したとはいえ、私の出力が、上位魔導兵器に劣ることなどありえません。
魔力砲の眩い光が上位魔導兵器を貫通し破壊します。
魔力反応が消えたのを確認し、メキとともに通信装置のある部屋の前へと向かいます。
「開けるぞ」
彼女の魔法により扉が開きます。
そこは小さな部屋でした。相変わらず薄暗く、埃をかぶっていました。当分使われていないのでしょう。
早速通信装置に触ります。しかし案の定魔力的な鍵がかけられています。決められた魔力を流さなければ、操作権限を獲得できないようになっているのでしょう。これを短時間で突破するのは私では難しいです。
「これに合う魔力を流してください」
「わかった」
メキには簡単にできます。
彼女の魔法、魔力への干渉は、魔力の形を自在に変えることができるということでもあります。そんな魔法をもってすれば、この形式の鍵など簡単に開けることが可能です。
操作権限を得ると、様々画面が展開されます。その全てが情報統合管理地点にある情報です。ここの接続権限は8で、かなりの情報に接続できます。流石に天使の情報には接続できませんが、魔法使いについてであれば情報があるはずです。魔法使いの子であるアリスの情報も。
私は指を装置に触れさせ、通信装置と接続します。
無数の検索をかけ、同時並行で大量の情報を流し込みます。
しかしなかなか目当ての情報は見つかりません。
「お、おい。なにかたくさんきたぞ」
私達が入ってきた扉の前に、大量の魔導兵器が迫ってきていました。一応扉は閉めましたけれど、破られるのも時間の問題でしょう。
アリスの情報がありません。
どこにも。
なぜでしょうか。
魔法使いに関する資料で閲覧可能なものはすべて見ました。これより上の情報が欲しければ、さらに上位の接続権限が必要になります。しかし、それは難しいでしょう。再度別の場所を見つける時間も、侵入する戦力も、おそらくないでしょうから。
せめて何か。手掛かりになるものさえあれば。
アリスの情報がないのであれば……
「なぁ。どうするんだ?」
「脱出します」
私は通信装置との接続を切り、メキを抱えます。
そして天井にむけ、高出力魔力砲を放ち、地上までの穴をあけます。
「掴まっていてください」
そのまま地下を飛び出し、空へと跳躍します。
本来であれば、外に出ても魔導兵器が待ち構えているものですけれど、最初の攻撃により外にいた魔導兵器を全て破壊したおかげで安全地帯へと変わっていました。
これで簡単にこの場所を離脱できます。
こうして地点023での作戦は終了しました。
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