『愛』という法則、真髄。

 私の父さんは、物理学者なんだ。それも結構有名な科学者でね、研究で忙しくて家に帰ってくる日が小学生の頃は1ヶ月に一度あるかないか。それでも頭が良くて、摩訶不思議で面白いことをたくさん知っている父さんを誇りに思ってたよ。


 でも、年齢を重ねて成長するにつれ、父さんとは距離が空いた。反抗期だった、ていうこともあるし、研究が波に乗って全く家族と会わない期間がうんと長くなったってのもあった。


 父さんの影響でか、高校に入ってなんとなく理系を選択することになったけど、今は家の自室に引きこもってゲーム画面とにらめっこしている日々。


 これは言い訳に過ぎないのかもしれないけど、父さんみたいになるのが怖かったのかもしれないね。


 いつの日だったかもう忘れたけど、その日以来、父さんとは一度も顔を合わせたことがない。



 確か、中学生の頃だったかな、参観日で母さんと父さんが一緒に来ていたのを覚えてる。その時既に私は父さんとは距離を置いてたからあんまり見てなかったけど、隣の男子がいつの間にか私の父さんと仲良く喋っている光景に驚いた。


 私はふと何を思ったのか、その2人の会話に聞き耳を立てたんだ。


「……君、中学生なのに宇宙のことについて詳しいね。理科が好きなのかな?」

「そうです。よく図書館から宇宙のこととかの本を借りたりして読んでます。それくらいのことなら、何処の中学生もしてそうですけど」

「そんなことないよ。この世界の真髄について、それなりの自分の考えを持っている想像力豊かな人材は滅多にいないよ。――全ては同じ時空間上で繋がっていて、3次元に生きる私達は時間を遡れないから、孤立した擬似的時空間は言い換えれば『平行線世界パラレルワールド』。この世界のに既に法則があれば、この世界の真髄と全く異なる現象を持つ平行線世界パラレルワールドが存在することも可能――」


 父さんは顎に手を当てながら、音楽を聴くかのように目を瞑って考える。

「つまり、タイムマシンのパラドックスを解消できるわけ、と言いたいのか?」

「言い換えれば……そういうことですね」

「そうだね。古典物理学的な決定論が量子力学によって否定されたことによって、無限の可能性が広がったとも言える」


 その途端、チャイムが鳴った。今日の学校の終わりを告げるチャイムだ。

「最後に、君に一つ言いたいことがある」


 ――私は、空間というものができた経緯がどうであれ、法則が完成した過程がどうであれ、『愛』という法則、真髄が生まれると思うんだ。そして、どのような世界の災厄の運命さだめ、終息を迎えようと、愛はそれらを超える力となる。それが新たな世界線を生むと信じてね――

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