第4話 まずは友達の定義から教えてもらおうか
その週の日曜日、時刻は二十三時過ぎ。俺とゆずは雑談をしながら、各々自由に過ごしている。俺は学校の課題を、ゆずは有名な某モンスター育成ゲームをしていた。
机にノートと問題集を並べて課題を進める。くだらない雑談をしながらでもその手は淀みはない。意外かもしれないが実は勉強が出来る方だ。定期考査では大半の科目で上位二割をキープしている。勉強自体が嫌いではないし、暇な時間にコツコツと取り組んでいるからだろう。そもそもうちの高校に受かっている時点で馬鹿はほとんどいないのだが。
閑話休題。
雑談はまもなく始まるゴールデンウィークの話題に移る。
『しゅーくんはゴールデンウィークどっか出かけるの?』
「んー、今の所特には。あっても友達とちょっと遊ぶぐらいかな」
『え……、友達いたの……⁉︎』
ガタっと椅子の音を鳴らしながら芝居がかった声音のゆず。
「ケンカ売ってんのか。……まぁ数人しかいないけど」
ぶっちゃけ仲の良い友達は陸斗ぐらいしか居ない。他のクラスメイトとも喋らないことはないが友達といえる程ではないだろう。友達が居なくとも困ることはたまにしかないのでそこまで気にしていないが。
「そういうゆずはゴールデンウィークは予定あるの?」
そう聞き返すと、『んー』と少し考えてから、
『わたしもたぶんないかな』
「え……、友達いないの……⁉︎」
先ほどのゆずのトーンを真似てみる。するとむっとしたような声音で
『そんな事ないですぅー! 友達は一人いますよー!』
「冗談のつもりだったんだけど一人しか居ないのか……」
さらっと判明した事実だったが、ゆずに友達が少ないというのは少々意外だ。
俺との会話ではゆずが話題を出すことが多いし、話を広げるのも上手い。コミュニケーション能力は高そうに思える。まあよくよく考えてみれば、ネットの知り合いと日常的にゲームをしている時点で、リアルに難ありと捉えることも出来るが。
何にせよ少し気になる話ではあった
そんな疑問を知ってか知らずか、ゆずが付け加えるように言うには、
『別にわたしぼっちな訳じゃないからね? むしろめちゃ人気者だよ、もはや学校一のヒロインと言っても過言じゃないね』
「うんうん。そうだね、大丈夫だよ、分かってるからね」
『しゅーくん、絶対信じてないでしょ⁉ 可哀想な子に向けた言葉だったよね⁉』
ちゃんとこちらの意図が伝わっていたようだ。
「てかぼっちなのに人気者って矛盾してるだろ」
何の気もなく放った言葉だったが、返ってきたのは真面目な声音のものだった
『ん? 別に矛盾はしてないよ。たとえ大勢がわたしに好意を向けていたとて、わたしがみんなに好意を向けるかは別の話でしょ』
普段の明るいイメージとは異なる冷たい言葉。いつもの明るい声からこうした言葉が出てくるのは意外だった。
『ほら、しゅーくんも経験ない? 相手は自分のこと仲いいと思ってそうだけど別にこの人のこと好きじゃないなー、みたいなの』
「まあ分からなくはないな」
『でしょ、つまりそういうことだよ。体育の授業でペアに誘ってくれる人がいても、一緒にお弁当に誘ってくれる人がいても、それが友達だとは限らない。……でもちゃんと一人は友達いるからね?』
「……その通りかもな」
最後は茶化したような調子だったが、それが本心であろう事は分かった。
自分の抱いていたイメージとは離れた言葉。この台詞をゆずが言っている事に言語化し難い感情を覚える。
そんな内心を察してか、
『まぁ何にせよゴールデンウィークに予定がないのは同じだね。暇だったらランクマでもなんでも誘ってよ!』
話題を切り替えるように言った。先ほどの話を掘り返す必要もないのでその調子に合わせる。
「おっいいね。いつでも声かけてくれ」
『ふふん、友達のいないしゅーくんの面倒を見てあげましょう!』
「どっちもどっちだろうが」
クスっと楽しそうにゆずは笑った。何と言うかゆずはこんな風に軽口を叩いている方が彼女らしいなと思う。
と、そんな考えではたと気づく。
自分の感じた彼女らしさとは何なのだろうか。自分は彼女の何を以て彼女らしさを定義したのだろうか。そもそも自分は彼女の何を知っているのだろうか。
これは勝手な理想を押し付けているだけなのではないだろうか。
これではまるで誰かと同じではないか。
そんな自分に気づいて嫌気が差す。無意識の中で自分の厭ったものと同じ事をしていたのか。
『……そっか。予定ないんだよね』
ボソッと呟かれた声で泥沼に沈んだ思考が引っ張り出された。いかん、完全に思考が捕らわれていた。
『ねぇ、しゅーくんってたしか関西住みだよね?』
急な質問にきょとんとしてしまう。いきなりリアルの事を聞いてくると思わなかったからだ。確かに以前そんな事をちらっと言ったような気もする。が急にどういう質問なんだろうか。
そんな沈黙を答えたくないからだと思ったのか、ゆずは慌てた様子で付け加える。
『あ、嫌なら全然答えなくても大丈夫だよ! ただ前にそんな感じの事を言ってたじゃん? だからどうなのかなーって気になって……』
しょぼんと少し悲しげな語尾からはいじらしさが感じられる。
「全然嫌とかじゃなくて、ゆずがリアルの事聞いてくるのが意外に思ったんだよ。ほら、今までそういう話はしたことなかっただろ?」
それを聞いて安堵した様子のゆず。
「んで、関西住みで合ってるよ」
『あ! やっぱそうだよね』
そう言って何かを考えるようなゆず。そして『……よし』と小さく呟くと、
『ねぇ、しゅーくん』
一度言葉を切り、躊躇いがちに口を開く。
『オフ会しない?』
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