第3話 学校帰りは眠たくなるものです


 六時間目が終わり、帰宅の途につく。陸斗の部活動がない日は放課後に遊びに行くこともあるが、今日は一人での帰宅だ。特に用事もないので直帰する。

 高校から電車で二十分、更に駅から徒歩五分。自宅のマンションに到着する。

 家の鍵を開けて「ただいま」と小さく呟くが家の中から返事はない。それもそのはず、高校生ながら一人暮らしをしているのだ。セキュリティや備え付けの家具を考慮した結果、高校から少し離れたマンションに住んでいる。間取りは1DKで一人暮らしにしてはやや広め。近くに大学があり、入居者の大半が大学生、大学生以外は柊ともう一人しか住んでいない。

 私服に着替えてベッドに倒れ込み、とりあえずテレビをつける。特に興味のない夕方のニュース番組をぼんやり眺めながら、紅茶でも入れようかと思ったが億劫なので止めた。ちなみに親の影響で昔から紅茶党である。

 寝転びながらふぁあと欠伸を一つ。学校帰りのこの時間はなんとなく眠たくなってくる。

 今日は時間もあることだし真面目に料理でもしようか。でも冷蔵庫の中ほとんど残ってなかったような。ならスーパー行かなきゃ。でもそれはそれで面倒だな。でも昨日はコンビニ飯だったしな。

 そんな思考が浮かんでは消え、浮かんでは消え。

 意識はいつの間にか微睡に沈んでいた。


 バラエティ番組から聞こえる笑い声で目を覚ます。少し眠ってしまっていたようだ。はっきりしない頭で時計をちらり。時刻は午後八時。……八時?

「うっわ、まじか」

 思わず声に出す。帰宅したのは午後四時だったので四時間寝ていたことになる。気づけば熟睡してしまったようだ。

 やってしまったものは仕方ないが、一日を無駄にしてしまった感がすごい。とりあえず冷蔵庫の中をチェック。予想通り調味料ぐらいしか残っていない。学校帰りにスーパーに寄るべきだったと後悔しても後の祭り。

 今やるべきは今日の晩ご飯と明日の朝ご飯の確保だ。スーパーは少し遠いのでコンビニに行く事にした。


 早速財布を片手に玄関の外へ。もう四月も終盤だが夜は意外と冷えている。上着でも着れば良かったが、コンビニはすぐそこなのでそのまま階段に向かう。

 マンションを出ると、銀色の髪の少女がマンションの方へ歩いていた。

 件の優等生、白河悠月。このマンションに住まうもう一人の高校生。夜の闇の中でその銀髪は淡く光っているようすら見える。

 片手に財布、片手にエナジードリンクを持って、ボーっと歩いている。いつものぴしっとした服装とは異なるジャージ姿だが、野暮ったい印象は見受けられない。

 こちらの存在に気付いたのか軽く会釈され、こちらもそれに倣って会釈を返した。そのまま立ち止まることなく俺はコンビニへ、彼女はマンションへ歩く。

 俺と白河さんが同じマンションに住んでいるということを知っている人は誰もいない、というか誰にも言っていない。別に隠しているわけではなく、そんな事を話す機会がないし、わざわざ言う必要がないからだ。

 陸斗辺りが知ればきっと羨ましがるだろうが、言ってしまえばただマンションが同じだけ。これといった親交がないのだから、もはやそれは顔を知っているだけの他人だろう。

(てかあの人もエナドリとか飲むんだな)

 なるほど、美少女とエナドリの親和性は意外にも良好なようだ。何というかこの手のギャップは実に悪くないな。

 そんな思考はさておき、コンビニへと急ぐのだった。

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