第6話 好物のフォアグラに胸焼けした

ーよく寝た‥

2時間程眠っていただろうか。

スマホで時間を確認してみる。

(18時40分か‥)


19時から

執事就任後、初の夕食。

暮らしていく上で食はかなり重要だ。

果たして‥

この屋敷の食事は自分に合うだろうか。

(さっきのお茶もまぁまぁ美味かったしちょっと期待できるな。)


5本の指に入る財閥の食事

ー内心興味もあった。

‥‥行くか。


心地よいベットから抜け出すのは

名残惜しくもダイニングに向かう。


途中ー

「ごゆっくりお休みになれましたか?」

とメイドに声をかけられた。

「まぁまぁ。それなりには。」

と答える。


「そうですか!それは良かった。」

お嬢様もお喜びになります。

と話すメイド。

「紹介が遅れました。マリといいます。

何かあれば遠慮なく申し付け下さい。」

頭を下げてきた。

「天上タクト。よろしく。」

と挨拶した。


「奥様とはもうお会いになりました?」

と話すメイドに

まだ会っていないと首を横に振る。


彼女は辺りを見まわした後

「奥様のお嬢様への当たりがキツくて‥

夕食である事ない事仰るかもしれませんが

どうか鵜呑みになさらないで下さい。」

と小声で告げた。


ーマリさーん。

他のメイドに呼ばれたようで

そそくさと去っていった。


ダイニングに到着する。

テーブルの奥に派手な女が鎮座しているのが見える。

「あら?義娘の執事になる方かしら?」


苦手なタイプの香水の匂い‥

食事の前に‥不快である。

直感で合わないタイプだと感じる。

苦手な匂いにテンションが下がっていくのが分かった。


「はじめまして。お綺麗ですね。

ペンダントもすごく美しいです。」

適当に褒めておく

敵に回すと面倒だ‥

余計な障害物はない方が良い。


「分かるかしら?結構高くてね」

ペラペラ話す女に

(‥派手過ぎてあんたの顔がついていってないけどな)

と思っているのは勿論伏せて

満点のスマイルで頷いた。

女‥こんなおばさんの攻略は余裕だ‥


「今日は豪勢にしてもらわなきゃね。」

と使用人を呼びつけ指示をしていた。


隣に座ってるのは

この女の娘か‥

ツンっとして自分の方が上だと

高圧的な雰囲気を出しているのが分かる。

「どうも。」

と軽く会釈をしておいた。


最後に自分の主人が端に座ると

「あなたの執事の歓迎会も兼ねて

食事をしようっていうのに

つくづく感謝のしない子ね‥」

小言をいう継母の席から順に

前菜が運ばれるのを

ぼーっと眺める。


‥え。

最後に運ばれた自分の主人には

ワンプレートの粗末な食事‥

驚いた顔をしていたのだろうか


「この子はね。

心臓に持病があって

食事制限で普通の食事ができないのよ。」

と継母。

ー20歳まで生きられないのに‥何を楽しみに生きてるんだか。


減塩や制限があっても

もっと料理も工夫できるだろ‥

他にもずっと虐められてきたんだろうと

想像する。


「‥‥」

小言を言われながら

静かに食事をする主人。

15分ほど経った頃


「ご馳走様でした‥」

と手を合わせた。


「あの‥皆さんはお食事楽しんで下さい。私は先に休みます。」

部屋に帰って行く主人をみて


同じ料理を一緒に食べられなかったのが

少し寂しいと感じた。


ー少なくともこの親子と飯食うよりはマシ

好物のはずのフォアグラで

初めて胸焼けしそうになった。


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