第3話 珈琲の香りに包まれて

肌寒さはまだ少し残るが

優しいお日様が少しずつ輝き始める

3月上旬。


お前と会ったのは

よく晴れた日曜日だったな‥


お嬢様と執事の顔合わせは

"お嬢様の生まれた日を知り大切にする"

という学園の方針の下

誕生日と決まっている。


主に媚を売るつもりは全くないが‥

誕生日なのだから

お祝いしてやるのが人情。

賑やかな事は嫌いじゃない。

一応、プレゼントは用意した。

『まぁ‥ピアスでいいだろ。穴は開けてなかったら開けてやるし。女に喜ばれなかった事はない。』


選りすぐりの金持ちが通う

『聖ウリエル学園』

そこに通ってるだけで寄り付いてくる女は星の数。

しかし‥

そこに通っている金持ちのエリートが

群がってくる女を相手にするかは別の話。

"未来のお嬢様の為に全てを捧げる"

殆どの人間は真面目に勉強するが‥


この男は違った。

来るもの拒まず去るもの追わず‥

基本的な言い寄ってくる女は全て相手する。

何故かといえば‥

執事になれば女遊びしにくくなるだろ?

が理由らしい。


彼が不良執事と称される大きな要因。

1つが女遊びであるのは間違いない。


その甲斐あって女の事は大抵分かるようだ。自分がマークした女を落とせなかった事はない‥らしい。


財閥御曹司ー天上タクト

低すぎず高すぎず心地の良い声。

少し濃いめの彫りの深い顔

色黒はご愛嬌。

天は二物を与えず

その言葉は間違っている。

‥彼はかなり女慣れしている様子だ。


不良執事を乗せた黒いベンツが高級住宅街を走る。

結構奥まで走ると‥

西洋風の大きな建物が見えてきた。


『ここが東雲の屋敷か。』

流石この国で5本の指に入る財閥だけはある。

敷地の庭も美しい草木が植えられた庭。

庭師が数名見える。

忙しく手入れする彼らを車窓からぼんやり眺めた。

美しい庭を通り過ぎ‥

豪華な扉の前にポツンと立つメイドの前に車は停まった。 


「ようこそいらっしゃいました。

ご案内致します。」

待っていた彼女の後を着いていき

応接室に通された。


「奈那様はすぐいらっしゃいますので、

お待ちください。」


‥普通に執事いらねぇだろ。

そう思いながら

誰が見ても高級とわかるソファに腰掛けた。


数分後‥

コンコン。

控えめにされたノックと共に‥


「失礼します‥」

小さな声と共に入ってきた華奢な女。


「あの‥はじめまして。

東雲奈那と申します‥」

今までの女とは違って化粧気もなく

着飾ってもいない大人しい女‥

ー素材は悪くはない‥


「あ、天上タクトです。よろしく。」

握手しようと手を出した。


「よ、よろしくお願いします‥」

慌てて手を握り返してくる。

男馴れ‥というか人慣れしてないな。

挨拶はこんな感じで終えた。


彼女が持ってきた珈琲の香りに包まれながら‥



















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