第2話 デスゲーム

誕生日の日に、殺人鬼の父が姿を消した。

父は何故姿を消したのか。自分は何故殺人鬼として育てられたのか。謎に包まれた二つの理由を探す旅を始めた少年、ルーグァ。そんな彼が出会ったのは。

「プレジャーキラーズ...?」

デスゲームに参加するプレイヤーの集団、プレジャーキラーズだった。

ルーグァの問いに、オズマは頷いた。

「そう、私達は今回このデスゲームにプレイヤーとして参加するのだよ」

オズマは続けながら、ルーグァに指を差した。

「が、人員が一人足りなかったので先程貴様を買った。貴様には私達と共にデスゲームに参加してもらう。貴様は今日からプレジャーキラーズの一員なのだよ」

突然の事に頭を混乱させながら、ルーグァは不思議そうにする。

「えっ、でも」

「さーて、呼ばれてないプレイヤーはいないかな?」

と、ルーグァの声がアナウンスに遮られた。

「今日はゲームに入らずに、ルール説明をするよ!一回しか言わないからちゃんと聞いてね!」

アナウンスの言葉に、一同はざわめきながら上から吊り下がるモニターを見る。それにつられて、ルーグァも目線をモニターへとやった。

「このデスゲームは毎週金曜日の夜に行われるよ!ゲームは個人戦、チーム戦の二つに分けられるよ!」

そう言うと、画面に図が映し出された。一人の人と、複数人の人の図だ。

「個人戦はチームから代表一人、チーム戦はチーム全員でゲームに参加するよ!」

すると画面には「個人戦」と「チーム戦」という文字が浮かんだ。

「さらに!このデスゲームで優勝すると、その人の願いがなんでも叶えられるよ!どんな願いを叶えるかはその人次第!だからみんな優勝目指して頑張ってね!」

その言葉に、全員が色めき出した。アナウンスの言葉に、ルーグァも一人目を輝かせた。

願い。何でも叶う。

自分も_。

「ゲームオーバーになっちゃった人はそこで終了!死んじゃうから気をつけてね!」

「死んじゃうってさ、怖いね〜」

一人の男が、同じチームの男にひそひそと耳打ちする。その男は耳打ちされても、物怖じしない様子だった。

「説明は終わりだよ!来週からみんなで楽しくゲームをしようね!それじゃあ解散!」

すると、ぷつりとアナウンスと画面が消えた。説明を聞き終えたプレイヤー達が、危機感もなく何やら談笑しながらわらわらと会場を出て行く。

「(みんな次々に出ていく.....)」

静かになった会場の中。ルーグァとプレジャーキラーズだけが残っていた。

「あの、突然すぎてよくわからないんです、けどっ」

ルーグァははっと我に帰り、傍らのオズマに問いかけた。が、オズマは何事もない様子で不敵に笑った。

「貴様は出来る奴だと私は直感で思った、私の目に狂いは無いのだよ」

「!」

その言葉に、ルーグァの胸は高鳴った。出会って間もないが、信頼されているような気がして、胸の中がじんわりと温かくなった。

オズマは何もなかったように仲間達に向き直り、軽い様子で指示を出した。

「帰るぞ愚民共。貴様も来たまえルーグァ」

「あっ、はい」

ルーグァは、長い髪を揺らしながら歩いて行くオズマ達について行った。

明かりのついた会場には、誰もいなくなった。


「ふふん〜♪ふふ〜ふ〜ん♪」

一人の男が、呑気に鼻歌を歌いながら玄関で靴を脱ぐ。雑に、汚く、ばらばらに脱ぎ捨てられた靴をそのままに靴下のまま廊下を歩く。リビングのドアを開けると、薄暗い部屋に複数の影があった。

「あ、帰ってきた」

そう言った影は、男子制服から覗いた肉付きの良い素脚をふらふらと動かす。

「遅い、予定より6分も遅れてますよ。全くこれだからあんたは...」

そう言う影は、シャツから腕時計をずらし時間を確認して溜息をつく。

「.........話って何ですかィ、旦那」

その後ろには人一倍大きな影が。空気が揺らめくような低い声、血管の浮き出る手の関節をパキパキと鳴らしている。

ドアから入ってきた男はふっと笑い、そして口を開く。

「僕たちのターゲットはプレジャーキラーズと、その新しく入った仲間のルーグァに決まりだよ」

そう言った男は、癖っ毛の茶髪と顎髭に眼鏡をかけ、ほくろのついた目元をにこやかに緩ませている。その後ろにはサーモンピンクの短髪に男子制服を着た者、縹色の髪を半分刈り上げた者、そして錆納戸色の長髪に逞しい肉体の者がいた。

眼鏡の男は上がった口角のまま、にっこりと目を細めて笑った。

「面白くなりそうだね、このゲーム」


「.....という訳で」

リビングにオズマの声が響く。ルーグァは、オズマ達プレジャーキラーズの家に来たのだった。リビングは駆け回れそうなほどに広く、ちらりと目をやると2階へと繋がる階段も見える。内装はシンプルで綺麗だが、広さはちょっとした豪邸ほどある。

が。

「改めて愚民共、こいつが新しい仲間なのだよ。仲良くしてやりたまえ」

何故かルーグァは、見知らぬ4人に囲まれて熱い視線を感じていた。人付き合いの苦手なルーグァは、それだけですでに冷や汗が出ている。

オズマは仲間達に言うと、長い黒髪を靡かせ速やかにその場を後にした。

と。

「初めまして〜!」

「うわっ」

オズマが去ってから、一人の手が勢いよく飛び出してルーグァの手をぎゅっと握った。その衝撃に、ルーグァは思わず目を丸くした。

「ボクはマータスっていいます〜!よろしくお願いします〜!」

マータスと名乗った少年は、黄色の髪の毛を後ろに結って、ぱっちりとした大きな黄緑色の目を細めてにこやかに笑った。

すると。

「初めまして!リディっていうの!いっぱい仲良くしよー!」

「おれ、名前、エゴ。なかよし、してくれ。よろしく、な。」

「オレ様ガイテスな、怖くねーから仲良くやろうぜ新入り」

マータスの言葉を皮切りに、3人が勢いよくやってきて自己紹介を始めた。

リディと名乗った少女は、黄緑色のボブヘアーに黄色の瞳を丸くして笑った。エゴと名乗った青年は、茶色の癖っ毛な短髪に辿々しい言葉で喋る心優しそうな人物だった。ガイテスと言った男は、端正な顔立ちに綺麗な白髪の、やや筋肉質な体の持ち主だった。

「あっ、あ、うん。よろしく」

ルーグァは名前と顔を頭で一致させながら、こくこくと頷いて返事をした。

「ルーグァさんでしたよね〜!好きな食べ物はなんですか〜?」

と。ずい、とマータスが手を握ったままルーグァに近付いて笑った。

「あそうだ、なんか趣味とかあんの?」

「確かに!どんな遊びが好きかも気になる!」

ガイテスとリディもずい、とルーグァに近付いて、好奇の目を輝かせながら問いかける。怒涛の質問責めに、ルーグァは固まった。

「う、あ〜っと...」

ぐるぐる、ぐるぐる。頭が混乱して目が回りそうになった。堪らず言葉を詰まらせる。

と。

「それくらいにした方が良いんじゃないかな、みんな」

突然低い声がしたかと思うと、一人の黒尽くめの男がやって来た。

「あ、グレイヴおじさん〜!」

マータスは嬉々とした様子で男の方を見た。それは黒髪に鍔付き帽子を被り、顎髭を生やして全身黒尽くめの男だった。

ルーグァは、グレイヴと呼ばれた男を見てぞっとした。

「(大きい...怖い人だったらどうしよう.....)」

グレイヴはルーグァに近付いてくる。近付くと、とても長身な事が分かってますます怖くなる。

ルーグァは覚悟をするように、きゅっと目を瞑った。

が。

グレイヴはその大きな手をルーグァの頭に置いて、優しく撫でた。ルーグァははっとして、グレイヴを見つめた。

「初めまして、オズマ君から君の事は聞いてるよ。おじさんはグレイヴ。どうぞよろしくね」

その優しい声と手の温度に、ルーグァの胸はほっこりと温かくなった。グレイヴは手を離すと、マータス達に呼びかけた。

「みんな質問はゆっくりね。一度に喋ると相手も疲れちゃうからね。ほら、おいで」

「は〜い!」

そう言ったグレイヴに、マータス達はにこにことしながらついて行く。去り際に、マータスがルーグァに向かってぱたぱたと手を振ってきた。ルーグァはそれに小さく手を振り返した。

「......ふう」

人混みから解放されて、ルーグァはほっと溜息をついて俯く。

「(沢山人がいて緊張したけど、みんないい人そうで良かった。殺し屋も殺人鬼とそんなに変わらないだろうからこれで安心して生活できる......)」

ルーグァが顔を上げた、その直後。

「ねーキミさァ」

何者かに後ろからがばっと肩を組まれ、ルーグァは全身が凍りつくような感覚になった。

男は身を屈めながらルーグァの顔を覗き込んで笑った。

「キミ、オズマさんに連れてこられた新入りの子でしょ。オレはリリット、よろしくお願いしまーす...」

リリットと名乗った男は、緑色の短髪に両耳にピアスを開けていて、ルーグァを見るや否や細い目をさらに細めてニィと笑った。ルーグァの肌にぞくりと鳥肌が立つ。

「ね、色々話したいからオレの部屋行こ」

「えっ」

ルーグァが返事をする間もなくぐいっと肩を引き寄せられ、ルーグァはリリットの部屋まで連れて行かれた。

リリットの部屋は二階だったが、階段を登っている時もずっと肩に手を置かれていた。ルーグァは小さく肩を震わせて、身動きも取れないまま階段を登った。

リリットの部屋は物が少ない部屋だった。ベッドが二つあり、床にはクッションが飛散していて薄いブランケットも乱暴に投げ捨てられていた。

リリットは細長い体を縮めて床に座り、小さなテーブルに頬杖をついた。そしてルーグァを見つめながら笑った。

「ここねー二人一部屋の決まりなんですよ。オレ一人じゃ寂しいから一緒に住も。オズマさんにも言っとくね」

あまりに突然且つ勝手すぎる発言に、ルーグァは思わず固まる。

「は...はい.....」

リリットは頬杖をつく手を下ろすと、落ち着きのない様子でテーブルをさわさわと触りながら問いかける。

「ね、名前なんだっけ」

「ルーグァ、です」

「敬語やめていーよ。年いくつ?」

「じゅ、...18」

少し緊張しながらも答えるルーグァに、リリットは満足げな様子で立て続けに質問をした。

「ルーグァの好きな食べ物って何?趣味とかあったら教えてほしいなぁ」

「好きな食べ物はドーナツ、特にチョコ味の。趣味は散歩とか、かな.....」

「へー良いね」

ルーグァは戸惑っていたが、リリットはにこにこと嬉しそうにしている。その笑顔を見ても、ルーグァの心は晴れる事はなかった。

「(なんだろう...この人、少し怖い。一緒だと危ない気がするな。正直立ち去りたいけど.....)」

ルーグァの鼓動が早くなる。

どうする、やるか。

「あ、あの。ちょっとトイレに.....」

ルーグァは立ち上がって、ドアの方に向かおうとした。トイレに行く振りをして逃げる作戦だ。リリットには申し訳ないが、これにて退散とさせてもらおう。

「......じゃあ」

その言葉を聞いたリリットが、長い脚でゆったりと立ち上がり静かに呟いた。

すると。

突如リリットの両手が伸びてきたかと思えばルーグァの首が絞められ、ドアに全身を押しつけられた。

「最後にルーグァの苦しむ顔はどんな顔なのか、見せて?」

リリットの頬は赤く染まり、汗が流れていた。低い声が零れるその口には、不気味な笑みが浮かんでいた。

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