第75話 着せ替え

 ということで生鮮食品セールのせいで一気にガラガラになった記念式典が終了した。


 本来ならばこのまま城に戻るところなのだけれど……。


「ねえ、レイナと三人でモール内を散策しましょうよっ!!」


 控え室のテントに戻ったところで俺はミレイネからそんな提案をされた。


「いや、警備の問題とかもあるし俺たちが散策するのはマズくないか?」


 俺の袖を掴んだまま興奮気味のミレイネに、俺は至極真っ当な返事をする。


 あの式典の安くささですっかり忘れているかも知れないが、仮にも俺はこの国の国王でミレイネもまたどこかの国の王女なのだ。


 さすがに危険すぎる。


 ということでミレイネのおねだりをあっさり却下した俺だったが。


「ローグさま、今日に限っては問題ないかと……」


 と、そんな俺とミレイネの会話に唐突にフリードが割って入ってくる。


「今日に限っては? どういうことだ?」

「本日はローグさまが式典にご参加なさるということで、モールの外は厳重に警備をしております。また、モール内に入る人間は皆事前に厳しいボディチェックを受けております」

「な、なるほど……」


 どうやら俺はちゃんと国王としての待遇を受けていたようだ。


 そりゃそうだよな。こんな安くさい式典に参加している途中でスナイパーに撃たれたなんて事態になれば、目も当てられない。


「警備の一部を招集してローグさまの護衛に当てましょう」

「そ、そうか……」


 なんてフリードの提案を聞いていた俺だったが、俺はふと疑問に思う。


 いつもは過保護すぎるぐらいに危険だ危険だと俺に忠告してくるフリード。そんなフリードが俺にショッピングモールの散策を勧める。


 どういう風の吹き回しだ?


 が、俺の違和感を余所にミレイネは「やったやったっ!!」と嬉しそうに無邪気にぴょんぴょんと飛び跳ねている。


 フリードはそんなミレイネを微笑ましそうにしばらく眺めていたが、不意に微笑んだまま俺へと顔を向ける。


「せっかくの機会にございます。ミレイネ殿下と楽しいひとときをお過ごしください。私はお二人の邪魔をするつもりはございませんので、心置きなくお楽しみください」

「…………」


 あ、なるほど……。


「おい、フリードなんか今の言い回しはひっかかるな」


 そうツッコミを入れるとフリードは慌てたように「い、いえ、決して他意はございません」と顔の前で手を振る。


 いや、フリードの発言からは他意しか感じない。


 どうやらフリードは俺とミレイネとの仲を縮めようとしているようだ。


 俺はまだ子どもだがいずれは結婚をして世継ぎを残さなければならない。そういう意味ではミレイネという存在はフリードにとってはうってつけの存在なのだろう。


 フリードの言葉の意図にミレイネは気づいていないようだが、俺にはわかる。


 俺は全部見抜いているからな。そんな冷めた目でフリードを見つめてやると、彼は苦笑いを浮かべて額の汗を拭いやがった。


※ ※ ※


 ということで俺とミレイネとレイナちゃん三人はプレオープンのショッピングモールを散策することになった。


 あ、ちなみにレイナちゃんは名目上俺とミレイネの護衛としてついてきていることになっている。


 魔法石式エスカレーターの前に立つ館内案内を眺めながら「え~とお洋服はどこに売っているのかしら?」と頭を悩ませるミレイネ。


「なんだよ。服を買うつもりなのか? 言っておくがここは大衆店だぞ。お前みたいな高貴な人間が来るような場所じゃない」

「別に大衆店だろうとなんだろうと、可愛いお洋服があれば私は買うわよ? それに今日の目的は私の服じゃないし」

「はあ?」


 なんて首を傾げているとミレイネはニヤリと笑みを浮かべて俺とレイナちゃんの顔を交互に見やった。


「今日はあんたたちの服を買うの」

「いや、俺の服は買わなくてもフリードが用意してくれるし」

「ダメよ。あんただってせっかくそれなりの見た目で生まれてきたんだから目一杯おしゃれを楽しまなきゃ。それにレイナも軍服ばかりで代わり映えがないのよ。レイナは素材は完璧なんだからもっとその素材を生かさないとダメ」


 ということらしい。


 俺としてはゲームセンター(ピンボールとかエアホッケーがあるらしい)に行ってみたかったのだけど、多分俺の希望は通らないよな……。


 ということでミレイネは俺とレイナちゃんの手を握ると「じゃあ行きましょ?」とルンルン気分でエスカレーターへと歩き始めた。


 エスカレーターを上ると、そのまま奥へと続く長い回廊を歩いて行き洋服店が集まったエリアへとやってくる。


 どうやら女の子がおしゃれを求めるのはどの世界もどの身分も変わらないようで、洋服店は若い女性たちで溢れていた。


「わぁ……可愛い……」


 しばらくウィンドウショッピングを楽しんでいたミレイネだったが、ふと展示されたマネキンの前までやってくると目をキラキラさせながらマネキンを眺めやる。


 そのマネキンは薄水色のワンピースを身につけていた。


「ねえレイナっ!! これきっとあんたに似合うわよ?」


 と、ミレイネは瞬く間にマネキンからワンピースを脱がせると、レイナちゃんを見やる。


 そんなミレイネにレイナちゃんは頬を朱色に染める。


「こ、これはちょっと私には可愛すぎるよぅ……」


 なんて顔の前で手をぶんぶんと振るレイナちゃん。


「可愛すぎるからいいのよ。あんたも女なんだから汗臭い格好ばかりしていないで、たまには可愛くしなさい?」


 いや、結構な言いようだな……。


 なんてレイナちゃんを眺めていた俺だったが、不意にミレイネは俺へと顔を向けると俺を睨んできた。


「なに他人事みたいな顔をしているのよ。あんたも着替えるのよ?」

「はあ? 俺があのワンピースを着るのか?」

「別に着たいなら止めないけれど、あんたには別のを用意したから。クロネ、さっき言っていたやつを持ってきて」


 とミレイネが呟くとどこからやってきたのか「かしこまりました」という声とともにミレイネの執事クロネが洋服を持って俺の元へとやってくる。


「ローグさま、どうぞ」


 それから俺とレイナちゃんは日が暮れるまでミレイネの着せ替え人形としておもちゃにされることとなった。


――――

新連載始めました

『崩壊寸前の帝国の指揮官を押しつけられた俺、完全に諦めモードだったけど勝利すれば美少女王女と結婚できると聞きつけ覚醒する』


よろしくお願いいたします。


https://kakuyomu.jp/works/16818093075213894598

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