第74話 ウルルンくん

 ということでウルネアショッピングモールプレオープンの式典が始まった。


 ステージ上に並べられた玉座に腰を下ろした俺とミレイネは広場に集まってくれた民衆たちを眺める。


 うむ、やっぱり以前と比べてふくよかになった市民が多いな。


 どうやらなんだかんだで俺がせっせと頑張ってきたことが身を結んでいるようで非常に満足だ。


 こんな式典でもない限り近くで王国民を眺めることも少ないので、こうやって彼らの顔を近くで見られるイベントはなかなかに貴重で良い……のだけれど……。


「は~いっ!! 皆様お待たせいたしましたっ!! それではこれより『ウルネアグランドショッピングモールプレオープン記念式典サポーテッドバイカクタ商会』を開始いたします。今回の式典に参加してくださったローグ陛下とミレイネ殿下に大きな拍手をお送りくださいっ!!」


「「「「「きゃああああああああっ!!」」」」」

「「「「「うおおおおおおおおおっ!!」」」」」


 と、司会進行を務める綺麗なお姉さんと、レスポンスをする観客の市民たち。


 そんな彼らを眺めながら俺は思う。


 なんか全体的に安っぽくないか……この式典……。


 なんて考えながら俺は前世のことを思い出す。前世でも俺はよくショッピングモールを利用した。


 なにせショッピングモールは書店からゲームセンター、さらにはフードコートもあるのだ。はっきり言って夢の楽園のような場所である。


 休日にフードコートで独身臭を漂わせながら、家族連れに囲まれてラーメンを食べるのは少し精神的に来るものはあったが、ショッピングモールは基本的に大好きだ。


 そんなショッピングモールでは休日になると定期的にイベントが行われていた。


 なんだか名前も聞いたことのないような芸人さんのライブや、ヒーローショーや魔女っ子ショーなんかが広場で行われていた。


 そして、今回俺が参加しているこの式典も完全にそのクオリティである。


 仮にも国王が参加しているんだからさぁ……もう少しこう荘厳とした感じを出してくれてもいいじゃん?


 が、そんな俺の気持ちは誰にも伝わることなく、相変わらず安っぽいまま式典は続いていく。


 お姉さんはモールに新規出店する各店舗の魅力を紹介していき、いかにこのウルネアショッピングモールが画期的な施設なのかを説明してくれている。


 そんなお姉さんの説明に俺もミレイネも、そして民衆たちも真剣に耳を傾けていた。


 どうやらフードコートではカラヌキ粉をふんだんに使った本格ステーキの専門店なんかも出品するらしい。


 うむ……美味そう……。


 なんて一人新しいショッピングモールに興味をひかれていた俺だったが、おねえさんが食料品売り場の説明をしていたときに突如として事件が起こった。


「ということで一回奥の食料品売り場では本日生鮮食品10%オフセールを開催しております。食品の数には限りがございますので、お早めにお買い物をお楽しみくださいっ!!」


 と、おねえさんが説明をした直後、式典を眺めていたマダムたちの目の色が変わった。それまで俺やミレイネと一緒にお姉さんの話に耳を傾けていたマダムたちが突然雪崩のように食料品売り場の方へと駆けていったのだ。


 そして広場から三分の二ほどの市民がいなくなった。


「…………」


 なにやら急にガラガラになった客席を無の表情で眺める俺……。


 あ、俺って生鮮食品よりも集客力ないんだ……。


 でも俺は怒らないよ? だ、だって王国民の多くが食料品を買えるぐらいに潤っているってことだもんね。国王のことも忘れて平和に過ごせることって素敵だもんね……。


 ちょっぴり寂しい気持ちになりながらも人の減った客席を眺めていると、おねえさんが「それではお待たせしましたっ!!」となにやら声のトーンを上げてそんなことを口にする。


 ん? なんだなんだ?


「本日はウルネアグランドショッピングモールのプレオープンを記念してビッグなゲストが遊びに来てくれました」


 なんて口にするお姉さん。


 どうやら今回の式典には俺よりもビッグなゲストがやってきているようだ。


 フリードから何も聞かされていないけれど……。


 なんて少し困惑しながらもお姉さんを眺めていると、彼女はステージの袖へと手を伸ばす。


「それでは拍手でお迎えくださいっ!! ウルネアグランドショッピングモールのイメージキャラクターウルルンくんですっ!!」


 お姉さんの紹介と同時にステージ袖のテントからなにやら異様な物体がステージへとやってきた。


 な、なんじゃこりゃ……。


 ステージに現れたのデカいキウイフルーツだった。全身楕円形の茶色い毛むくじゃらなその物体からは手足が伸びており、客席に向かって手を振りながらステージ中央へと向かって歩いてくる。


 そんなウルルンくんを俺もミレイネも観客も呆然と眺めていると、ウルルンくんはステージ中央で足を滑らせてものの見事に転んだ。


「はわわっ…………」


 直後ウルルンくんの着ぐるみの中から何やら聞き覚えのある声が聞こえてくる。


 あ、あれ……この声とどんくささに俺は覚えがある……。


 ということで近くのフリードを手招きする。


「いかがいたしましたか?」

「おい、なんで海軍大将があんな着ぐるみで登場してるんだよ……」

「あ、やはりバレてしまいましたか……」

「バレるも何もあのどんくささは海軍大将以外の何者でもない……」


 そんな俺の言葉にフリードは苦笑いを浮かべる。


「なんでも本来ウルルンくんを演じる予定だった役者が先ほどステージから転落して足を怪我したようで急遽海軍大将が代役を務めることになったそうです。なんでも、あの着ぐるみの中から外が見えないのだとか……」

「な、なるほど……」


 ステージ上で転んで、ひっくりかえったカメのようになっているレイナちゃんを眺めながら俺はため息を吐いた。


――――

ちょっと忙しくなってきたので更新頻度を週数回ほどに落とします。

ご容赦頂ければ……。

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