第73話 プレオープン

 なんだかよくわからないが、とりあえずラクアに怠惰の必要性を伝えることに成功した俺は、埠頭でラクアとラクア父を見送ることにした。


 今回のラクアの訪問で俺の破滅フラグがまた遠のいたと信じるほかない。


 ちなみに二人には帰りにしこたまお土産を持たせて帰ってもらった。


 来月分の堕落お賃金を初めとして、ラクアママが喜びそうな女性向けの装飾品や飛竜の油で作ったハンドクリームなんかも渡しておいた。


 ということでたんまりお土産を渡したのだが、ラクアが一番喜んだのは『ウルネアに行ってきました饅頭』だった。なんでも、自分で作った物が実際に商品になったのを見て感動したんだって……。


 何はともあれ最悪の事態は回避したようでほっと胸をなで下ろした俺。


 その後もフリードに命じてラクアたちの動向を注視するように命じていたのだが、ラクアがカザリアに帰ってからのここ数ヵ月間はラクアは怠惰に暮らしているらしい。


 毎日の食事量の管理や、行動スケージュールの徹底などストイックに怠惰に暮らしているんだって……。


 もはやそれは怠惰と呼ぶのだろうか……。


 ラクアくん、そのストイックさを別の方向には絶対に向けないでね……。


 なんて心から願ったが、しばらくは静観していても良さそうだ。


 それよりも……。


「ローグさま、それではプレオープン記念式典に参りましょう」


 俺、アルデア王国国王ローグはウルネア観光地化計画で忙しい。ただ指示を出してああでもないこうでもないと伝えるのは簡単だが、観光地化計画には俺の石化魔法が必須なのである。


 毎晩のようにフリードによって馬車でウルネアへと連行された俺は、地道に建物の基礎となる石材を製造し続けた。


 そんな努力の甲斐もあってか、ウルネア観光地化計画の目玉の一つであるウルネアショッピングモールが完成したということで、今日はプレオープンの式典に参加する予定になっている。


 ということで正装に着替えて馬車に乗り込んだ俺は通り慣れた道を馬車で進んでいき、ショッピングモールへとやってきた。


「お、おおっ!! これはすごいっ!!」


 そして、フリードに案内されてショッピングモールへと足を踏み入れた俺は目の前の光景に感動する。


 ほ、本当にショッピングモールができている。


 その完成度は凄まじかった。


 まずモールに入って視界に入ったのは吹き抜け二階建ての巨大な長い廊下である。廊下はくの字で奥に向かって帯びており、廊下の両サイドには二階部分の回廊が続いていた。


 当然ながらショッピングモールもどきなので、前世で見たものと比べれば一回りも二回りも小さいけれど、それでも一目でショッピングモールだとわかるできである。


「式典は奥の催し物広場にて行われますので、そちらに向かいましょう」

「お、おうっ!!」


 と、あまりの出来に鼻息を荒くしながらフリードに連れられて歩いて行く。


 フリード曰くすでにテナントはほぼ全て埋まっているようで、雑貨屋や日用品屋、さらには総合的な食品屋、要するにスーパーマーケットのような物もテナントに入っているらしい。


 このスーパーマーケットはウルネアの野菜売りや果物売り、さらには肉屋や魚屋にいたるまで、これまで商いをしてきた商人たちが集まって作った新たな商会である。


 ほら、前世ではモールができて地元の商店がぞくぞくシャッターを下ろしたみたいな話を聞いたじゃん?


 ショッピングモールの創設で彼らの利益が損なわれるのはなんだか心が痛むし、彼らにも利益が生まれる方法を考えた結果スーパーマーケットの設立ということで話が纏まった。


 カクタ商会をしきり役にしてできるだけ皆に利益が分配されるように工夫してもらったのだ。


 ということで回転準備に大忙しの商人たちを横目に俺たちはモール奥にある催し物広場へとやってきた。


 すでに広場には『祝 ウルネアモールプレオープン』と書かれた看板が掲げられており、一段高いステージには俺が座るであろう玉座が二つ置かれていた。


 どうやら一つは同じくモールに招待されたミレイネの椅子のようだ。


 それから俺はステージ横のテントにて、新しくモールに開店するらしいコーヒーショップのコーヒーを試飲しながら記念式典が始まるのを待つことにした。


 なんでもこのコーヒーショップはコーヒー豆を初めとして、西グレド会社を通じて他領や海外から輸入したお菓子や調味料なんかも販売する予定らしい。


 ん? なんかこの手の店……前の世界でも見たことがあるような……。


 なんて考えながらコーヒーと茶菓子を頂いていると、ミレイネもやってきて、ステージ前には抽選で選ばれた領民たちがぞろぞろと集まって来た。


「それにしても凄い人の数……こんなに人が来たら崩れちゃうんじゃない?」


 テントの隙間から集まった客を眺めながらミレイネが関心したように呟いた。


「おい、縁起でもないこと言ってんじゃねえ……」

「クスクスっ冗談よ……」


 なんて悪戯っぽく笑うミレイネもまた今日は正装のドレス姿である。


「ローグさま、そろそろ式典が始まりますので、ステージに向かいましょう」


 フリードからそんなことを言われたので俺たちはフリードに連れられてステージへと上がった……のだが。


「「「「「きゃあああああっ!! ローグさまあああああああっ!!」」」」」


 ステージに上がるやいなや、俺は領民女性陣からの黄色い声援で迎えられた。


 やっぱり俺には謎のショタ人気があるようだ。女性たちは『ローグさま♡』だとか『大好き♡』などと書かれた団扇を俺の方に掲げながら声援を送り続けている。


 そんな俺をミレイネは「大人気じゃない……よかったわね」と皮肉ってきた。


「そういうお前もな……」


 実は大人気なのは俺だけではない。領民たちの中にミレイネ目当てにやってきた大きなお友達の姿も多く見られた。


 彼らは彼らで『殿下尊い♡』などと書かれた団扇を持ったり、どこで売っているのだろうか照明石が先端に付いたサイリウムのような物を持っている。


 そんな聴衆たちの姿にミレイネは「そ、そうみたいね……」と引きつった笑みを浮かべていた。


 ということで式典の開始である。

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