第67話 ミレイネ王女モード

 ということでラクアとラクア父を乗せた馬車は一路城へと向かう。


 当然ながら現在城ではフリードたちがせっせとラクアを迎えるための準備を続けている。


 贅に贅を尽くしたフルコースでラクアさまがやってくるのを今か今かと待ちわびているのだ。


 馬車の中で、ラクアはなにやら興味深げに観光地化計画に向けてせっせと工事の進むウルネアの街を眺めていた。


 お、良い感触か?


「ラクアくん、ウルネアの街は今、生まれ変わっている途中なんだ。完成したら大きな商店街や綺麗なレストランや宿屋なんかもできるんだよ。たくさん遊べる場所ができるんだよ。ラクアくんもパパやママを連れて遊びに来てね?」

「さすがはローグさまです。ラクア、完成したら是非遊びに行こうな?」


 なんてラクア父も加勢しながらラクアにウルネアの魅力を伝える俺。


「ぼ、ボク、今とっても感動しているよ」


 おおっ!! これはやったかっ!!


 なにやら話に食いついてくるラクアに俺とラクア父が顔を見合わせる。ちなみにレイナちゃんはラクアの話にいちいち「おほほっ……」と上品な笑みを浮かべる役割だ。


 その好感触に胸を躍らせる俺だったが、ラクアはなにやら馬車から身を乗り出すとどこかを指さす。


「どうしたんだいラクアくん、なにか気になることでもあるのかい?」

「うん、あのおじさんは何を運んでいるの?」

「ん? どれどれ?」


 ラクアの指さす方向を見やると、そこにはせっせと砂利を運ぶ労働者の姿が見えた。


「ああ、あれは砂利だよ。道路を作るために運んでいるんだ」

「へぇ~」


 と、ラクアはそんな俺の言葉に瞳を輝かせる。


 ん? どういう反応?


 そんなラクアに首を傾げていると、彼は目を輝かせたままラクア父を見やった。


「ぼ、ボク、今猛烈に感動しているよ」

「か、感動?」


 どうやらラクア父も理解していないようで首を傾げていた。


 そんなラクア父にラクアは続ける。


「ああやって多くの人々が汗を流すことで街はできていくんだね。ボクも魔術がもっともっと上手になったら、彼らみたいに汗水を流してみんなのために戦いたいな」


 あ、これマズいやつだわ……。


 ラクアが労働することの喜びに目覚めようとしている。


 ここはなんとかフォローを入れておかないとマズい。


「と、といってもアレだよ。彼らは貴族なんだよ」

「ええ? あの人たち、貴族なの?」

「そうそう。普段は贅沢三昧をして暮らしているんだけど、時々こうやって趣味で働いているんだよ。だからラクアくんも大きくなったら彼らみたいに基本は贅沢三昧をして過ごして、時々趣味でちょこっと働くのがいいんじゃないかな?」

「そ、そうだぞラクア。基本的には贅沢三昧でいいんだぞ」


 かなり苦し紛れなのはわかっているが、ラクアに変に利他的な考えを持たせるのはよろしくない。


 そんな俺の言葉にラクアは少しだけ残念そうに「そ、そうなんだ……」と答えた。


※ ※ ※


 それからしばらくしてラクアを乗せた馬車はアルデア城の敷地内へとやってきた。


 馬車は城の前で停車をするとラクアはレイナちゃんに手を取って貰いながら馬車を下りる。


 すると、城からはフリードとともにクロイデン王国王女ミレイネが出てきてラクアを出迎えた。


 ミレイネはラクアの元へと歩み寄ってくると、膝に手をついて営業スマイルをラクアへと向けた。


「ラクアさん、お会いできて光栄です。短い間ではありますが仲良くしていただければ幸いです」


 そう言ってミレイネはラクアに握手を求めた。


 が、ラクアは握手を返しはするもののミレイネが何者か理解していないようだ。


 その一方でラクア父はミレイネのことを知っているようで「なっ……」と絶句したまま固まっていた。


 クロイデン王国の王女に会わせればラクアも喜ぶかなと思ってつれて来たのだが、そもそもミレイネの存在を知らなければあまり意味がなさそうだ。


 あ、ちなみにミレイネをここに引っ張り出してくるのにも苦労した。


『は? なんで私がそんなことしなきゃいけないのよ……』

『頼むよ。俺がこうやって頭を下げているんだから……』

『わかったわ。やるわ』

『本当か?』

『うんやる。その代わり今の仮住まいとウルネアの市街地に続く道を舗装してちょうだい。今は道路がボコボコで馬車移動のときにめちゃくちゃ揺れるのよ。それを来月までになんとかして』

『はあっ!? 今はウルネア観光地化計画で人手不足なんだよ』

『じゃあやらない』

『ちっ…………』


 ということで道路の設置を泣く泣く飲んでミレイネを引っ張り出してくることに成功した……のだが、ラクアのリアクションはいまいちだ。


 ならば説明をしてやるしかない……。


「ラクアくん、ここにいるのはクロイデン王国の王女様ミレイネ殿下だよ。ラクアくんがアルデア王国に遊びに来てくれればいつでも殿下と会えるんだよ? よかったね」


 そう説明するとミレイネが『はあっ!?』みたいな顔で睨んできた。


 俺の説明を聞いたところでようやくラクアは「く、クロイデン王国の王女様なんですかっ!?」と驚いたように目を剥く。


「はい、そうなんです。ラクアさん、いつでもアルデア王国に遊びに来てくださいね。そこで私と贅を尽くした優雅なひとときを過ごしましょう」


 ミレイネも一応は仕事を引き受けただけあって、お嬢様モードでラクアに接してくれている。


 が、そんなミレイネの言葉にラクアはなぜか体を震わせる。


 ん? どうした? 王女を目の前にして緊張しているのか?


「も、申し訳ございません」


 そしてなぜかラクアは突然ミレイネに謝り始める。突然のラクアからの謝罪にミレイネは動揺したように目を見開く。


「ど、どうして謝るのですか?」

「ボクがもっともっと強くなれば、魔王なんて簡単に撃退できたのに……。ボクは自分の弱さが憎いです……」


 あぁマズいマズい……。どうやら今のラクアはカザリアが魔王に攻められたことに責任感を抱いてしまっているようだ。


 これは非常にマズい……。


「ら、ラクアくん、城に入ろうか。一流のコックさんたちがラクアくんがやってくるのを待っているよ?」


 ということでラクアの腕を掴むと俺はやや強引にラクアを城へと引っ張っていった。


 こいつ、隙あらば光り墜ちしようとしてくるじゃん……。

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