第66話 国賓待遇

 結局、強引に馬車に乗り込もうとした俺はフリードプラス、いつの間にやって来たのかレイナちゃんによって引きずり下ろされた。


 レイナちゃんのほうは俺がどうして馬車に乗り込もうとしているのか理解していないようで「よくわからないですが、危険ですっ!! よくわかりませんが、それはさすがに危険ですっ!!」とよくわからないまま俺のことを説得してきた。


 あぁ……死にたくない……。


 殺されたくない……。


 そんな思いで頭がいっぱいになったが、フリードとレイナちゃんに自室へと強制送還されたところで少し冷静になった。


「そんなに彼らに会いたいのであれば、なんとか彼らをウルネアに呼びましょう。ですからこのような真似は……」

「そうです。フリードさんがきっと彼らを連れてきてくれますよ」


 レイナちゃんに関しては完全にフリードに話を合わせている。


 うむ、確かにそれもそうだ。


「ならばすぐにでもつれて来てくれ。このままでは俺の精神が持たない」

「わかりました。すぐにカザリアの出張所に連絡をとり彼らを向かわせましょう」


 ということでラクアたちをアルデア王国に呼び寄せることにした。


※ ※ ※


 どうやらフリードは俺の動揺をしっかりと感じとってくれたようで、なんとラクアたち一家は二週間ほどでアルデア王国へとやってきた。


 ラクアたちを乗せた船がウルネアにやってきたという話を聞きつけた俺はフリードに命じてウルネア港まで直々に出迎えに行くことにする。


 ウルネア港に到着すると既にラクアたちを秘密裏に乗せた貨物船が到着しており、船のタラップから下りてくるラクアとラクア父の姿が見えた。


「おおっ!! ラクアが来たっ!! 早く迎えに行かなきゃっ!!」


 ということで馬車を飛び降りるとそのままタラップへと駆けていく。


 そしてタラップを下りてウルネアの地に降り立ったラクアとラクア父を笑顔で出迎える。


「ようこそアルデア王国へ。なんというかアレだ。短い間ではあるが実家だと思ってゆっくりと羽を伸ばしてくれ」


 そう言ってラクアを見やったが、ラクアのほうはどうして自分がここに呼ばれたのかわからないようでぽかんを口を開いたまま首を傾げている。


 そんなラクアの横でラクア父はぺこぺこと頭を下げている。


「ローグさま、わざわざウルネア港までお出迎えいただけるとは、恐縮至極にございます」


 俺はそんなラクア父の元へと駆け寄ると、ラクア父の腕をひっぱってラクアから少し離れたところへとやってくる。


「おい、話が違うじゃねえか。これはどういうことだ?」


 ラクア父を睨みつけると彼はなにやら申し訳なさそうにペコペコと頭を下げる。


「本当に申し訳ございません。ですが、私にもわけがわからなくて……」

「それはこっちのセリフだ。お前には毎月毎月安くない金を支払っているんだ。ラクアをしっかり甘やかしてくれなきゃ困る」

「本当に申し訳ありません」

「と、とにかく詳しい話は後で聞く。この旅でラクアには贅沢をすること楽に生きることがいかに幸せなのかを身をもって味わわせるつもりだ」

「よろしくお願いします。私もラクアには幸せに生きていただきたいです」


 ということで俺はラクア父を連れてラクアのもとに戻ってくると営業スマイルをラクアへと向ける。


「ラクアくん、アルデア王国まで来てくれてありがとね。ラクアくんと一週間楽しいひとときが過ごせるといいな」


 なんて声をかけるとラクアは無表情のまま「お兄さんは、ボクのような一般人にどうしてこんなことをしてくれるんですか?」と確信を突きすぎた疑問をぶつけてきた。


 マズい……何か言い訳を……。


「そ、それはその……ラクアくんのパパはお兄さんの恩人なんだよ。ラクアくんのパパがまだ冒険者をやっていたときに、ラクアくんのパパは魔物からボクを守ってくれたんだよ……だよな?」


 とラクア父に顔を向けると、彼は慌ててうんうんと頷く。


「そうなんだラクア。それで今もこうやって仲良くさせていただいているんだ」


 よし、とりあえずこの言い訳で乗りきろう。


 が、そんな俺たちの言い訳にラクアは首を傾げる。


「あれれおかしいなぁ……パパが冒険者を止めたのはすごく昔の話だよ。お兄ちゃんも生まれていないはずだけど」


 やっべ……。


「あははっ!! そ、そうだね。厳密に言えば助けられたのはボクのお父さんだね。お父さんがあのとき死んでいたらボクも生まれていないし」

「な、なるほど……そうだったんだね……」 


 一応は納得をしてくれたラクアだが、あんまりべらべらと話すと荒がでそうだ。とりあえず変に疑問を持たれる前に城に戻ろう。


「じゃ、じゃあラクアくん、お兄ちゃんと一緒にお城に行って美味しいものでも食べよう」


 ということでラクアの背中をぽんぽんと叩くと彼を馬車へと促す。すると、馬車からはメイド服を身に纏った金髪の美少女が下りてくる。


「ら、ラクアさま……よ、ようこそアルデア王国へ。わ、わわわたくし、今回ラクアさまの身の回りのお世話を担当さて頂きますレイナです」


 馬車から降りてきたのはメイド服姿のレイナちゃんだ。彼女には今回の旅でラクアのお世話係を頼み込んだ。


 なんでかって? それはレビオン・ガザイ王国でラクアが金髪でおっぱいの大きいお姉さんに目がないことを知ったからだ。


 どうやらレイナちゃんはこの手の作法について全くの無知なようで、なんだかロボットのように動きがぎこちない。


 あ、そうそう、レイナちゃんにメイド役をやって貰うのには結構難儀した。


『どどどどうして私がそんなことをしなきゃいけないんですかっ!? もしかして遠回しのクビ宣告ですか? 確かに海竜の件は本当に申し訳ないと思いますが、私はこれからもローグさまのために命をかけて戦うつもりですっ!! ですからっ!!』

『レイナちゃん……じゃなかった、グラウス海軍大将、そういうことじゃないの。理由はなんというかその……説明が難しいけれどクビとかそういうのじゃないから。今回だけなの。だから……ね?』

『はわわっ……私やっぱりクビになっちゃうんだ……そうなんだ……』


 そんな半狂乱のレイナちゃんを俺とフリードとで必死に説得をしてなんとか引き受けさせたのが二日前のことだ。


 急ピッチでレイナちゃんにメイドとしてのイロハをフリードに叩き込んでもらい、今回のラクア訪問に挑んだのだが……。


 本当に大丈夫か? これ……。


 メイド服自体は似合っているが、なんだか変な粗相をしてラクアを不愉快にさせないか心配……。


 いやいや後ろ向きになってはダメだ。


 覚悟していろよラクアっ!! 今回の旅でお前に贅沢の喜びを徹底的に叩き込んでやるからなっ!!


 なにせ俺の人生がかかっているからなっ!!


――――――

また書き忘れていた。

お読み頂きありがとうございます。

明日発売ですので、よろしくお願いします。

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