第51話 ロリコン化

 それからの一ヶ月、わたくしめは大変忙しかったです。


「あー終わった……」


 マナイとネオグラードを幾たびも往復してリルアやその他諸々の人物と色々と打ち合わせをした俺だったが、ようやく仕事が落ち着きました。


「動きたくない……もう一歩も動きたくない……」


 ネオグラードのホテルに戻った俺は、ベッドに横になってレイナちゃんに大きな団扇で扇いで貰っていた。


「ローグさま、お疲れ様です……」


 そんな俺をレイナちゃんが団扇で扇ぎながら苦笑いを浮かべる。


「いや……ホント国王がする仕事の範疇を超えている気がするんだけど……」

「ですがローグさまのおかげで準備は万端です。後はあのサキュバスが言いつけ通り仕事をしていれば完璧です」

「そうだな……。けど、あと一週間くらいは部屋でゴロゴロしたい……」


 とりあえず長時間の馬車移動で体はバキバキだ。


 昔、勤めていた会社が出張費をケチって、出張に高速バスを頻繁に使わされたことがあったけど、あのときを思い出す。


 いや、高速バスは今考えれば揺れも少なかったしまだまだ全然甘かったんだなと、今回の移動で思い知らされた。


 あ、そうそう、ミレイネ嬢はマナイに置いてきた。


 なんでも俺の仕事が終わるまではリルアと一緒に彼女の別荘でバカンスを満喫するんだって……。


 まあリルア女王との親睦を深めるのは今後を考えると悪いことでない。


 だから彼女にマナイでの滞在を許可した。


 ということで一仕事終え、束の間の休息を満喫していた俺……だったのだが……。


 ダラダラと情けなくベッドで寝そべっていると、コツコツとなにやら窓の方から小さな物音がしたので、顔を上げると窓の外に見知った顔があった。


 サキュバスのリーユだ。


 彼女はパタパタと羽を羽ばたかせながら、指先で窓を突いていた。


「あ、開けてってば……」


 と、どことなく元気のないリーユの声に、俺はレイナちゃんへと視線を向ける。


 彼女は窓辺へと歩いていき、窓を開けた。


 するとリーユは部屋に入ってきてその場にへたり込んだ。


「あぁ……疲れた……ねえローグ、何かジュースが飲みたいんだけど……」


 と、へたり込んだまま俺にジュースを要求してくるリーユ。


 そんなリーユの言葉使いにレイナちゃんがムッとおこになるが、それを俺が手で制す。


「何か彼女にジュースを持ってきてやってくれ」


 そうレイナちゃんに言うと「わ、わかりました……」と少々不服そうな返事をしてから冷蔵箱から瓶のジュースを一本取りだしてリーユに手渡した。


 彼女はそれをゴクゴクと勢いよく飲み干すと「ぷはぁ~」と息を吐く。


「で、どうなったんだ?」


 そう尋ねるとリーユは「どうもこうもないわよ……」と恨めしそうに俺を睨んだ。


「なんだよ……上手くいかなかったのか?」

「私を舐めないで。ちゃんとあんたの言いつけは守ったわ。そのお金を貰いに来たの」

「おぉ、さすがは俺が見込んだ人材だ。やるときはやるんだな」


 どうやら俺の作戦は上手くいっているようだ。


 が、彼女の疲れ切った表情と、俺を恨めしそうに見つめる目が気になる。


「で、なんでそんなやつれてるの……」


 そう尋ねるとリーユは「はぁ……」とため息を吐く。


「気持ち悪いのよ……」

「気持ち悪いって……なにが……」

「決まってるでしょ。国王が気持ち悪いの……」

「あ、あぁ……なるほど……」


 俺はリーユが国王をキモいと思った理由をすぐに理解した。


 その理由は俺がリーユと交わした契約の内容にある。


 俺が彼女と交わした契約、それは国王の好意をリルアから彼女の姪っ子であり齢14歳のルリリ王女に向けることだった。


 普通に考えて国王からサキュバスを引き離すことは難しい。


 何せ王国内ではサキュバスの討伐禁止命令が出ているし、ライン老人の人目を気にする様子を見ても、国王が必死でリーユを囲い込んでいるのは明らかだった。


 サキュバスを捕獲することはガザイ王国に喧嘩を売る行為だし、下手したら国際問題になりかねない。


 それにそもそもサキュバスを国王から離したからといって、国王が俺との交渉に応じてくれる保証なんてないのだ。


 だから、俺は考え方を変えることにした。


 そもそもリルア女王からの要求は国王とルリリ王女との婚姻である。


 もちろんサキュバスと国王を引き離すことも条件には入っているが、国王がルリリとの婚姻に同意し、彼女を愛せばサキュバスの出る幕はない。


 何せ国王がサキュバスと一緒にいたのは、彼がリルアが好きで、なおかつリルアと会うことができないという条件が揃っていたからなのだ。


 が、さっきも言ったがルリリ王女は齢14歳である。


 もちろんこの世界で14歳で結婚することは珍しくはないが、それはあくまで政治的な理由であって、この世界の人間でも14歳という年齢は大の大人が好意を向けるにはあまりにも幼い年齢だ。


 そんな彼女に好意を向けさせることは、つまりガザイ国王をロリコン化させることになる。


「ってか、あんた、よくもまああんな気持ち悪いこと思いついたわね……」

「それは褒め言葉として受け取っていいのか?」

「褒めてないわよ……」


 あ、ちなみに俺はこの作戦を確実に成功させるために色々とリーユに入れ知恵をしておいた。


 まずはルリリちゃんのコスプレ作戦である。


 俺は紙にスク水姿からメイド服姿にいたるまで、ロリコン心をくすぐりそうなコスチュームをイラスト付きで列挙し、言葉遣いに至るまで徹底指導した。


 呼び方も『お兄ちゃん』から『ご主人様』に至るまでいくつものパターンを用意して、より国王が反応した呼び方を徹底しろと言っておいた。


 あ、ちなみにこれらの指導は世間一般的に言われるロリコン心をくすぐる行為を列挙しただけで、決して俺はロリコンではないので勘違いのなきように。


 が、努力の甲斐あって作戦は上手くいったようでなによりだ。


「で、国王は今どういう状況なんだ?」

「すっかり王女様にお熱で、毎晩毎晩、あんたが言ってたゴスロリ? とかいう衣装を所望してくるわ。ってかさっきまでシエスタにまで付き合わされたし……」

「なるほど、国王はゴスロリを気に入ったんだな」

「そうよ……。しかもあの国王、私に踏んづけろとか気持ち悪い要求までしてくるの。あ、ダメ。思い出しただけで鳥肌が立ってきた……」

「そ、それは重傷っすね……」


 どうやら想定以上にロリコン化作戦が上手くいっているようだ。


 リーユは自分の肩を抱きながらぶるぶると震えている。


 が、これはおそらく俺にとっては朗報だ。


 国王がロリコン化、しかもドM化したとなるとかなりやりやすい。


 まあ、準備が色々と必要だけどな……。


 ということで俺は動くことにした。


「グラウス海軍大将、彼女に報酬を支払ってやれ。それと、城に使者を送り一週間後にルリリ王女について会談したいことがあると国王に伝えろ」

「かしこまりました」


 鉄は熱いうちに打てだ。


 ガザイ国王がルリリたそにお熱になっている間に、俺は新たなる作戦を実行することにした。

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