第41話 撃沈
ミレイネが言っていた若きイケメンの好青年国王とやらどこに行ってしまったのだろうか……。
目の前の布団からは国王としての威厳も、若きリーダー特有の柔軟さも一切感じなかった。
車椅子の上に座って布団を被って丸まっているだけだ。
新手のニートかな……。
んなこと国王に言っても通じないだろうけど……。
が、俺は国防のためになんとしても魔法石を手に入れるまで帰るわけにはいかない。
開口一番魔法石を売らないと言われてしまったが、はいそうですかと踵を返すわけにはいかないのだ。
「国王陛下……実はアルデアより陛下のために土産を用意いたしました。どうぞお納めください」
とりあえずここはご機嫌を取っておく。
ということでレイナちゃんに視線を向けると、レイナちゃんは紙袋から『ウルネアに行ってきましたまんじゅう』と書かれたパッケージの箱を取り出して「どうぞ」と俺に手渡してきた。
あ、これじゃない……。
彼女が手渡して来たのは、観光都市ウルネア計画の為に試しに作ったお土産のおまんじゅうだ。
が、これは門番さんや職員さんに食べてくださいと渡してくれと言っておいたやつだ。
ってかレイナちゃん渡し忘れてるし……。
「グラウス海軍大将、そちらではない」
と『ウルネアに行ってきましたまんじゅう』を返すとレイナちゃんは「はわわっ!! すみませんっ」と慌ててまんじゅうを戻して、桐? の箱を俺に手渡した。
そうそうこれだこれ。
ということで箱を受け取ると、箱についている扉を開いて国王へと向ける。
「こちら、我がアルデア王国の木彫り彫刻師リューキ・カワタ作のワイバーン像でございます」
箱の中には木彫りのワイバーン像が入っており、鋭い眼光を国王に向けていた。
あ、ちなみに目の部分には宝石が埋め込まれている。
フリードいわく、このリューキ・カワタとかいう彫刻師は国内外で有名な人なんだって。
普通に注文すると5年待ちはざららしく、値段も家が一件建つレベルらしい。
正直なところ俺には良さが全くわからないけど、フリード曰く必ず国王陛下がお喜びになりますとのことだったので、今回の国王への土産品として持ってきた。
ちなみにフリードも個人的に注文をして5年待ちの3年目らしい。
…………のだが。
「………………」
国王は全く反応しなかった。
おいフリード……話が違うじゃねえかよ……。
俺は静かに箱の扉を閉じると「で、ではこれを……」とライン老人に代わりに手渡した。
「それはなんだ?」
と、そこで国王が久々に声を発する。
おっ!? もしかして食いついたかっ!?
「こちらはあのリューキ・カワタが手がけたワイバーンの――」
「そんなものはいらん。ライン、返してやれ。それよりもさっきお前が袋に戻した箱の話をしている」
「え? あ、饅頭のことですか?」
と、レイナちゃんに視線を向けると、慌てて彼女はまた『ウルネアに行ってきましたまんじゅう』を取り出して渡してきた。
「それは……美味いのか?」
まさかの『ウルネアに行ってきましたまんじゅう』の方に食いついてきた。
少々予想外ではあるが、まあ好都合と言えば好都合だ。
ということでライン老人が持っていた無能ワイバーン像と引き換えに饅頭を渡す。
と、そこで布団の隙間から手が出てきた。
その手はしばらく風呂に入っていないのか垢まみれで、正直なところキモい。
そんな国王にライン老人は懐から魔法石を取り出すと饅頭の箱にそれを当てて、毒が入っていないことを確認する。
パッケージを開けて饅頭を取り出すと国王に差し出した。
饅頭を手にした国王は手を引っ込めると、直後、布団から咀嚼音が聞こえた。
そして……。
「ぺっぺっ!! マズい……」
と、饅頭を吐き出す音が聞こえた。
あの……一発ぶん殴ってもいいですかねぇ……。
いや、堪えろローグ……ここでブチ切れたらここまで来た意味がない。
ということで、下唇を噛みしめながらじっとしていると「リルア……」と国王が呟いた。
「リルア?」
と、聞き返すが今度は「リルア~っ!! おーリルアに会いたいっ!! ライン、すぐにでもリルアを連れてこいっ!!」と何かの発作を発症させた。
え、えぇ……。
そんな国王の下に慌てた様子でライン老人が駆け寄る。
「陛下、なりません。今はローグ国王との会談中にございます。リルアさまはその後に――」
「ダメだっ!! 早くリルアを呼べっ!! 私は誰とも会いたくないっ!! リルアを寝室に呼ぶのだっ!! 早くせんと貴様の首を刎ね飛ばすぞっ!!」
国王はそう叫んで布団の中で暴れ出した。
そんな国王を俺とミレイネとレイナちゃんがドン引きしながら眺めていると「申し訳ありません」とライン老人が苦笑いを浮かべて俺を見やった。
「陛下はこのような状態にございます。今日のところはお引き取りください」
「え? あ、でも……」
「申し訳ありませんが、今日のところはお引き取りください」
ということらしい。
本当ならば是が非でも今日中に魔法石を売って貰うよう約束を取り付けたかったが、この様子だと交渉どころではなさそうだ。
「か、かしこまりました……」
ということで、俺は二人を連れて城をあとにした。
※ ※ ※
いったいあれはなんだったのだろうか……。
ということで、城の外まで出てきた俺は放心状態で立ち尽くす……。
そして、ミレイネはさっきの国王の態度が恐怖でしかなかったようで「ローグ……怖い……」と俺にしがみ付いたままだ。
「おい、なんかお前から聞いてた話と全然違うかったけど……」
少なくともミレイネの国王の人物像にはかすりもしていなかった。
俺の言葉にミレイネは「し、知らないわよ。少なくとも私が会ったときはあんなじゃなかったもん……」と首を横に振る。
「もしかしたら、なにかの病を患われているのかもしれません」
そう感想を述べるのはレイナちゃんだ。
「まあ普通に考えるならばそうだろうなぁ……」
俺にはその原因はわからないが、少なくとも正常に公務が行える状態にはないようだ。
しかし、そうなるとかなり困ったことになる……。
俺はなんとしてもガザイ王国の魔法石を手に入れたい。
が、交渉しようにもあんな状態じゃ話にならん。
「と、とにもかくにも出直しましょう。もしかしたら、改めてお会いすれば平常心を取り戻しているやもしれませんし……」
「ま、まあそうだな……」
希望的観測ではあるけど、そう願うしかない。
ということで、俺は「はぁ……」とため息を一つ馬車に乗り込もうとした……のだが。
ん?
その直前にふと気配を感じた。
が、辺りを見渡しても誰もいない。
気のせいか? ……いや……。
なんとなく頭上が気になったので、俺は目の前の蔦まみれの城を見上げた。
するとそいつはいた。
城のとんがった屋根の上に女の人が立っていた。
遠目ではあるけれど……綺麗な女性だった。
体にぴったりとフィットした黒いワンピースを身につけた長い黒髪の女性。
が、彼女の頭には牛のような角が生えており、黒い尻尾のようなものも生えている。
が、なにより背中から広がる巨大なコウモリのような翼が印象的だった。
「グラウス海軍大将……あれは?」
「え? あ、あれは……何者でしょうか?」
レイナちゃんはその女性を眺めながら首を傾げている。
「少なくとも人……ではなさそうですね。魔族でしょうか?」
「さぁ……どうだろう……」
女性はどこか遠くをじっと眺めている。
が、俺たちの視線に気がついたのかふと俺たちを見下ろすと、なにやらクスリと笑みを浮かべてどこかへと飛び去っていった。
いったいあれは……なんだ?
そう思いながらも俺は馬車へと乗り込んだ。
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