第42話 衝撃の再会……

 とりあえずガザイ国王との初会談は大失敗に終わりました。


 リューキ・カワタの彫刻は受け取って貰えなかったし『ウルネアに行ってきましたまんじゅう』もマズいと言われた。


 国王は奇声を発して会話どころじゃなさそうだし……いや、詰んでるだろこれ……。


 ライン老人曰く、今は謁見どころではないらしく、2週間もすれば症状が落ち着くから改めて訪問して欲しいとのことらしい。


 いや、どれだけ待たせるんだよと思わないでもないが、アルデア王国としては是が非でも魔法石を融通して貰わなければ困る。


 正直、こんな状況じゃなきゃ一生再会したくないレベルの相手だが、改めて出直すほかなさそうだ。


 が、2週間もなにをして待とうか……。


 なんて宿で考えていると、隣の部屋のミレイネが俺の部屋にやってきた。


「どうしたんだ?」


 突然のミレイネ登場にベッドに腰をかけながら眺めていると、彼女はなにやらご機嫌そうに俺の元へと歩み寄ってきた。


 そして、ワンピース姿の彼女もベッドに上ると、俺の背後に回って俺の肩を揉み始める。


「いや、なにやってんの……」


 クロイデン王国の王女に肩を揉まれるという、一般庶民には決して訪れないであろう謎現象を体験しながら俺は首を傾げた。


「ローグ、あんた結構肩凝ってるわね。10歳でも一国一城の主となるとストレスが溜まるのね……」

「はあ?」


 なにやらご機嫌を取ってくるミレイネ。


 いや、ホントなにやってるんっすか……。


 と、そこで彼女は俺の肩から顔を出すと、俺の顔を屈託のない笑顔で覗き込んできた。


 あー近い近い。


「ねえローグ、2週間ぐらい暇が出来ちゃったわね」

「そうだな」

「私ね、ちょうど2週間ぐらい暇潰しができそうな場所を知ってるの」

「はぁ? …………あ、あぁ……」


 なるほど。


 そこで俺はようやく彼女の狙いがわかった。


「お前、バカンスを満喫しようとしてるだろ?」


 と、そこで彼女は後ろから俺の体をぎゅっと抱きしめるとおねだりするように自分の頬を俺の頬に擦りつけてきた。


「ローグ~一緒にマナイに行こうよ~。レイナちゃんに聞いたら、ここから馬車で一日で着くんだって。ローグだって瑠璃色の海と底に沈む夕陽を見ればマナイの虜になるはずだから」

「いや、夕陽なんてウルネアでもカザリアでも見れるだろ」


 ミレイネよ。お前はいつからレイナちゃんをレイナちゃんと呼ぶようになったんだ?


 さては俺の知らないうちに仲良くなったな……。


 俺のマジレスにミレイネはなにやらジト目を俺に向けてくる。


「あ、あんたモテないでしょ……」

「国王にモテるスキルは必要ないんだよ」

「ローグ……私、ローグと一緒にサンセット見たいな……」


 そう言って今度は潤んだ瞳を向けてきた。


 いや、10歳のクソガキ相手に色目使ってどうするんだよ……。


 ま、まあ中身はおっさんだから一定の効果はあるけど。


 うるうるお目目とほっぺたすりすりでおねだりしてくるミレイネを無視しながらも俺は考える。


 確かにマナイに行ってみるのもありかもしれない。


 というのも俺は最近、アルデア王国観光地化を密かに目論んでいる。


 あのクソ国王がマズいと言った『ウルネアに言ってきましたまんじゅう』も計画の一端だ。


 アルデア王国は紙幣を発行している。


 これはすぐにでも硬貨の引き換え可能な兌換紙幣的な側面が大きい。


 現状、紙幣をたくさん刷るためにはそれ相応の金貨や銀貨などの硬貨が必要だ。


 まあ、実際にはそれ以上に刷れないこともないんだけどね……。


 が、転ばぬ先の杖である。


 物品を輸入するためにはどうしても金貨や銀貨は必要だし、インバウンドで外貨稼ぎができればかなり楽になる。


 特にお金持ち大事。


 だってお金持ちはいっぱいお金持ってるもん。


 そういう意味ではマナイのモデルはかなり参考になる。


 一度見ておくのも悪くないかもな。


「わかったよ。行けばいいんだろ?」

「ホントっ!? ローグちゃん大好きっ!! ってか、あんたのほっぺ柔らかいわね……」


 そう言って彼女は俺の頬をぷにぷにと指先でつついた。


※ ※ ※


 おい、三日もかかったじゃねえかよっ!!


 俺を騙しやがったなっ!!


 結局、俺たちはネオグラードから馬車で三日もかけてマナイに到着した。


「おい、聞いてたのと話が違うんだけど……。どう考えても1日で到着する距離じゃなかったけど?」


 馬車を降りた俺は同乗していたレイナちゃんとミレイネを冷めた目で見つめる。


 すると二人は顔を合わせて苦笑いを浮かべた。


「ま、まあ、馬車は予定通りに着かないこともあるわよね。レイナちゃん?」

「そ、そうです。天気などの悪条件が揃えば、どうしても遅れてしまうことも……」

「三日間快晴だったぞ。あと、ずっと平地で道もかなり整備されていたし」

「ま、まあ無事に到着したのですからいいじゃないですか。それよりもせっかくマナイに来たのですから目一杯楽しみましょう」


 ほほう。さてはこいつらグルだな。


 どうやらレイナちゃんもマナイに来たかったようで二人して口裏合わせをしていたようだ。


「ねえねえ、それよりも見て。海が綺麗だわ」


 そう言ってミレイネは誤魔化すように俺の袖を引きながら目の前に広がるビーチを指さした。


 なるほど……確かに綺麗な海だ。


 ほぼ白と言っても良いほどのきめ細やかな砂浜と、その先に広がる瑠璃色の海。


 海の奥には小島が浮かんでおり、そこにヤシの木が生えているのが見える。


「こんな綺麗な海見るの初めてでしょ?」

「ええ? ま、まあ……」


 正直なところ見たことはある。


 というのも高校の修学旅行がサイパンだったからな。


 そういえばあのときは同じ班の同級生に置いてけぼりにされて、一人ビーチに取り残されたんだったっけ……。


 あ、あれ……目から汗が……。


「涙が出るほど感動したのね。わかるわよその気持ち。この世にこんなに綺麗な海があるなんて信じられないわよね」

「そ、そうだな……」


 ということで適当にミレイネに話を合わせつつも俺は思った。


「結構人が多いんだな……」


 俺の想像以上にビーチは人であふれていた。


 俺の聞いていた話では王族や貴族たちがお忍びでやってくる場所だったはずだ。


「最近ネルレシア大陸で宝石の鉱山がいくつも発見されて資産家が増えたそうなの。ここにいるのも貴族よりは資産家やその家族が多いみたいよ。前に来たときはもっと静かだったのに……」

「なるほど……」


 そういうことらしい。


 なんかクロイデン国王がグレド大陸の宝石を狙っていた理由が理解できた気がする。


 なんて一人で妙に納得していると、ミレイネが俺の手を引くと歩き始めた。


「そんなことよりもスイーツ食べに行きましょ?」

「はあ? スイーツ?」

「さっき馬車から見えたの。フルーツのいっぱい乗ったかき氷が美味しそうだったわよ。レイナちゃんも食べるわよね?」


 そんなミレイネの言葉にレイナちゃんが興奮気味にコクコクと頷く。


 ということで俺たちは浜辺に無数に並ぶ屋台へと向かうことにした。


※ ※ ※


「ねえねえレイナちゃんのも一口ちょうだい? う~ん美味しい……。私のも美味しいよ。食べて食べて」

「あ、甘くて美味しいです……」


 ということで俺たちはしばらく浜辺でスイーツを楽しんだ。


 うむ、俺の買ったグリーンティーソフトクリームもなかなか美味い……のに、レイナちゃんもミレイネも全然俺に一口ちょうだいと頼んでこない。


 あ、ちなみにミレイネはフルーツかき氷、レイナちゃんはクレープを交換しながら食べています。


 ぐ、グリーンティーソフトも美味しいのに……。


 が、まあ観光地とはどういう場所なのかということはなんとなくわかった。


 どうやら観光地は前の世界も異世界もそう大きくは変わらないようだ。


 そんなことを考えながら屋台を眺めていると、ふと目の前を歩く家族連れが視界に入った。


「ねえパパ。次はあそこのパフェが食べたい。行列に並ぶのは面倒くさいからこいつら全員買収してすぐに作って貰おうよ」


 目の前を歩いていたのはソフトクリームをペロペロと舐めるいかにも成金といった感じの太ったクソガキだった。


 そして、その両脇には同じくぶくぶく太った男と、きらびやかな装飾品を体中につけまくった女。


 どうやらこのクソガキの両親のようだ。


「あははっ!! お前は面白いことを言うなっ!! 確かに正しいお金の使い方だっ!!」


 なんだこいつら……。


 そんなクソみたいな会話を聞きながら苦笑いを浮かべていると、ふとクソガキがこちらを振り向いてレイナちゃんを見やった。


 そして、


「パパ、このお姉さんおっぱいが大きいし可愛いから荷物持ちをしてもらおうよ。お金さえ渡せばなんとかなるでしょ?」


 はあっ!? 何言ってんだ。このクソガキは……。


 そのぶくぶくと太ったクソガキは失礼にもレイナちゃんを指さしてパパにそんな提案をする。


「ん? どこのお姉さんだ? うむ、確かにおっぱいが大きいし顔も悪くないなぁ」


 そう言ってぶくぶくと太った父親もまた振り返ると、クソガキに同調する。


 父親は首にぶっといネックレスを下げており、いかにもやからといったような身なりだ。


 そして、指を差されたレイナちゃんはというと、クレープを掴んだまま唖然としていた。


 ま、まあ、突然そんなことを言われたら怒りというよりは唖然とするよな……。


 と、そこで父親の視線がふとこちらへと向いた。


 その直後。


「なっ…………」


 父親は俺の顔を見た瞬間、すっと顔から血の気が引いて震え始めた。


 ん? どうしたんだ?


 そんな父親の豹変ぶりに首を傾げていた俺だったが、そこでなにやら俺はその男に見覚えがあることに気がついた。


 え? ま、まさかこいつって……。


「ろ、ローグさま……お久しぶりでございます……」


 あ、やっぱり……。


 その男はいつの日かカザリアの酒場で出会った未来の英雄の父親だった。


 え? 待て……ってことは……。


 俺は慌てて依然レイナちゃんを指さす太ったクソガキを見やる。


 あ、やっぱりそうだ……。


 そのクソガキはラクアだった……。

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