第24話 同盟
作戦の全容を話し終えると魔王は「うむ……さすがはローグ様です。とても私に思いつかない奇策です……」と感心したように腕を組んで頷いていた。
手応えは悪くないようだ。
「ではさっそく作戦を実行しましょう」
鉄は熱いうちに打てだ。
さっそく俺は衛兵に視線を向けると、あらかじめ用意させていた書類を持ってこさせようとする。
が、
「少しお待ちください……」
そんな俺に魔王は待ったを掛ける。
「なぜですか? 事態は一刻を争います。今すぐにでも動かなければ」
「ローグ様のお気持ちはわかります……ですが……」
そう言って魔王は苦笑いを浮かべる。
「私が信用できないのですか?」
「いえ、そうは申していません。ですが、このような大規模な作戦を遂行するのは……」
そりゃそうだ。
いくら魔王が友好的な関係を築き始めているとはいえ、貿易を始めたのもついこの間だし、俺の言うことを全面的に信じろと言うのはさすがに酷だ。
が、もちろん、これも織り込み済みだ。
ということで、奥の手を出すことにする。
「グラウス海軍大将、あのお方をここにお連れしてくれ」
レイナちゃんにそう伝えると彼女は「かしこまりました」と一度食堂を出て行き、またすぐに食堂へと戻ってきた。
そして、レイナちゃんに続いて他にも二人、食堂に入ってくる。
一人は中年の男だ。
正装を身にまとった男は胸には無数の勲章が付いており、一目で地位の高い人間だというのがわかる。
父親だ。
実はスラガ島に立ち寄った際に、事情を全て説明して頭を下げた上で父親に同行して貰った。
そして、もう一人は絶対に父親の元を離れないと言い張ったマナイレさんだ。
というか彼女が説得してくれたおかげで、父親は重い腰を上げてここまで来てくれた。
さて、俺が彼らをここに連れてきた理由。
「ハインリッヒさま、ここにあらせられるのは私の父、ザルバ・フォン・アルデア伯爵でございます。今は私が領主代行を務めておりますが、隠居している今でもアルデア領の最高権力者です」
父親を紹介すると魔王は驚いたように目を丸くしていた。
そんな魔王に俺は続ける。
「ハインリッヒさま、これが私の覚悟です。作戦が遂行されるまでの間、父親の身柄を魔王様に預けます」
「ろ、ローグ様……ですが……」
「もしも、私がハインリッヒさまを裏切るようなことがあれば、どうぞ父の首をお刎ねください」
首を刎ねるって言った瞬間、父親が寂しげにこっちを見た気がするけど、見なかったことにする。
「いかがですか? これでもなお私のことが信用いただけませんか?」
「…………」
そんな俺の言葉に魔王は言葉も返せずに放心状態で立っていた。
そして、ふらふらと父親の方へと歩み寄っていくと。
「お久しぶりにございますっ!!」
魔王は父親……ではなく、その隣に立つマナイレさんにハグをした。
ん? どういう展開?
思っていたのと違う展開に今度は俺が放心状態になる。
そして、父親もまた完全に魔王に無視され『なんで?』みたいな顔をしている。
「会いとうございました。波に攫われお亡くなりなったのかと思っておりました」
そう言って魔王は瞳からポロリと一粒の涙を落とす。
「ワタシモアイタカッタネ。リッパナマオウニセイチョウシタネ」
そんな魔王の背中をマナイレさんが優しく撫でる。
「は、ハインリッヒさま?」
俺が声を掛けると、そこで魔王がハッとしたように目を見開いて俺へと顔を向けた。
「彼女はかつて魔王城で働いておりました。私が大変お世話になった使用人の一人です」
う、嘘だろおい……。
ってか、この女どんだけ顔が広いんだよ……。
と、そこで魔王が慌てた様子でポケットから何かを取り出す。
それはペンダントだった。
あぁ……そのペンダント見たことありますねぇ……。
「マナイレさん、忠誠の証だといただいたこのペンダントをこれまで肌身離さず持っておりました」
マナイレさん、そのペンダントいくつ持ってるの……。
意外と量産型だったそのペンダントを呆然と眺めつつも、本来の目的を思い出す。
「と、とにもかくにも彼らの身柄をハインリッヒさまにお預けします。これでもまだ私を信用いただけないですか?」
魔王は俺の元へとやってくると、おもむろに俺の両手を掴んだ。
ゴツゴツしてると思ったけど、びっくりするほど柔らかい……。
「ローグ様の覚悟、しっかりと受け止めました。彼ら二人は来賓としてグレド大陸で手厚くお持てなしさせていただきます」
「必ずや、アルデアとグレド双方の利益になるように頑張ります」
「よろしくお願いします」
ということで一応は魔王の信頼を得ることに成功した。
※ ※ ※
それから俺と魔王に加えて、父親とマナイレさんの四人で食事を楽しんだ。
食後、俺は魔王とともに別室へと移動すると、とある書類に魔王とともにサインをする。
これこそがわざわざ俺がグレド連邦にやってきた理由だ。
端的に言うとアルデア領とグレド連邦の間で軍事同盟が締結された。
正直なところ、グレド連邦に限らず軍事同盟を結ぶことは他国の戦争に巻き込まれるリスクがあるので避けたかったが背に腹は代えられない。
それでもできる限りリスクはとりたくないので半年限定の超短期間軍事同盟だ。
主な内容としてはアルデア領がクロイデン王国から攻撃を受けた場合、グレド連邦は速やかにクレド大陸を攻撃する。
そして、逆もまたしかりだ。
さらにはグレド連邦にある大砲や小銃を貸与して貰うことになった。
これらは軍事同盟の期間が切れるタイミングで、使用料とともに全てグレド連邦に返却する契約になっております。
わざわざグレド連邦から武器を借りたのは、当然、軍備拡大をクロイデン王国に悟られないための処置だ。
いやホント、今すぐにでも戦争をおっぱじめそうな契約だな……。
が、俺も魔王も戦争をしたいわけではない。
むしろ、戦争を回避するために軍事同盟を結んだと言っても過言ではない。
だからこそ俺は失敗できない。
翌朝、グレド連邦の兵器を船に積み終えたところで俺は、アルデア領に帰還すべく船に乗り込むことにした。
「ローグ様、必ずや成功させてください。私は争いを求めない。グレド大陸とクロイデン王国が友好的に手をつなげる日がやってくると信じています」
桟橋には魔王と父親、さらにはマナイレさんが見送りに来てくれ、魔王は俺の手をぎゅっと掴むと念押しするようにそう告げた。
「必ず成功させます。ですが、そのためにはハインリッヒさんたち魔王軍の力が必要不可欠です。必ず誰の血も流さないように成功させましょう」
俺もまた魔王の無駄に柔らかい手をぎゅっと握り返す。
そして、今度は父親を見やる。
父親は足をわずかにガクガク震わせながら「ローグ、頼むぞ。ホント頼むぞ」とエールを送ってくれた。
そんな父親の背中をさすりながらマナイレさんが「ダイジョウブ。マオウサマヤサシイネ。シンジテダイジョウブネ」と慰めている。
ま、まあ、一秒でも早く父親を安心させてやるために頑張ろう。
みんなまた必ず会おう。
そして、次会うときはアルデア王国国王ローグ・フォン・アルデアとして皆に自己紹介をしよう。
そう心に誓って俺は船に乗り込んだ。
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