第18話 不穏な呼び出し
ということで初めてのグレド大陸訪問が終わりました。
「ローグさま、上手くいってよかったですね」
帰りの船、貴賓室で海フクロウに餌を与えながらそんなことを行ってくるリーアを横目に、俺は椅子に座ってふんぞり返っていた。
どうでもいいけどリーアは、いつまでそのフクロウと一緒にいるつもりだろう……。
「フーちゃん、ローグさまだよ。ローグさまはとっても偉い人なんだよ。会えて光栄だよね?」
なんか名前までつけちゃってるし……。
まあ、どうでもいいけど……。
ということで、今回の訪問は貴賓室でふんぞり返るレベルには大成功だったと思う。
少なくとも俺の望んでいた最高値レベルの契約をグレド連邦と交わすことができた。
まずは西グレド貿易会社の設立だ。
グレド大陸の魔王都に会社を作り、これからは基本的にグレド会社を拠点にグレド連邦と貿易をすることにする。
グレド貿易会社はアルデア領民から出資を募り、出資者たちには一回の貿易で出た利益から人件費やその他の経費を引いた金額が分配されることになる。
アルデア領はグレド貿易会社に商船と、一部護衛用の海軍を提供し、使用料を貰うつもりだ。
ちなみに石材は俺が作るので、貿易会社からは仕入れのお金も入ってくるので、アルデア領にはがっぽりお金が入ってくることになる。
一応、貿易会社の社長にはカクタ商会のカクタに任せるつもりでいる。
手に入れたカラヌキ粉の販売網をクロイデン王国各地に作って貰い、がっぽり外貨を稼いできて貰おう。
カクタならばカラヌキ粉以外にも、金になりそうな物をグレド大陸から見つけ出してくれると見込んでの抜てきだ。
あ、ちなみに魔王とは契約の際に、今後3年間、カラヌキ粉の取引はアルデア領が独占するように頼んである。
一応、カラヌキ粉の出所は最高機密にするつもりだけど、いつかはバレるしバレたら価格競争が起きそうだしな……。
まあ、3年くらいは利益を独占しても怒られないだろう。
ということで、俺はホクホク顔だ。
が、あることを思い出してリーアへと視線を送る。
「おい、リーア」
「なんですか?」
「ちょっとこっち来て……」
手招きをすると彼女は少し不思議そうに首を傾げて俺の元へと歩み寄ってくる。
そうだ……すっかり忘れてた……。
「リーア、アルデア領に戻ったらお前にやって欲しいことがある」
「私にですか?」
「唐突だけど、リーアは子どもが好きか?」
そう尋ねるとリーアは「子どもは大好きですよ。子どもが遊んでいるのを見ると私も元気を貰えます」と笑みを浮かべる。
が、何故か不意に頬を真っ赤にすると彼女は俺から視線を逸らした。
「はわわっ……ローグさま……。いくらローグさまからの命令でも、お世継ぎを産むなんて私には荷が重すぎます……はわわっ……」
なんだろう……想像力豊か……。
こいつは10歳の俺に何をされると思っているのだろうか……。
が、そうではない。
「アルデア領に保育園を作って欲しい」
本題を切り出すと、リーアは「え?」と首を傾げた。
「ほいくえん……とはなんですか?」
「簡単に言えば、幼い子どもを預けておくための施設だ。リーアには幼い子どもたちが健やかに過ごすことができる環境作りを考えて欲しい」
「な、なるほど……」
これはウルネアの子どもたちからの要望だ。
最近では職にあぶれる人間が減った弊害で、育児ができない若者が増えているんだって。
若い人はアルデア領にとって貴重な人材だ。
育児に時間をとられて仕事ができず、彼らがひもじい思いをするのは俺の望むところではない。
それに領に戻ったら公共事業を増やすつもりだし、さらに働き手が増えればさらに問題が表面化しそうだ。
ということで、俺は親が安心して子どもを預けられる保育園を設置することにした。
できることならば、10歳ぐらいまでは保育園で預かって、国民の識字率や学力の底上げをしておきたいところだ。
「リーアにはウルネアに試験的な保育園を作って、保育園に何が必要なのか、働く者にはどういう能力が必要なのかを洗い出して欲しい」
そんな俺の頼みにリーアは「わ、わかりました……」と応じてくれた。
が、なにやら、肩に乗った海フクロウを見やると、なにやら頬を赤らめる。
「あの……ローグさま?」
「どうした?」
「お屋敷でフーちゃんのこと飼ってもいいですか?」
どうやらリーアは取引がしたいようだ。
結局、俺はフーちゃんを屋敷で飼育する許可を出すのと引き換えに、彼女に保育園の設立を引き受けて貰うことにした。
※ ※ ※
というわけで船はアルデア領に戻ってきた。
物資の補給の都合で行きに立ち寄った寄港地には帰りにも寄港する。
そんな当たり前すぎることをすっかり忘れていた俺は、思っていたよりも早く父親と再会することになってしまった。
まあいいんだけど、しばらく会えない見たいな別れをしてからすぐに再会したせいでほんの少し気まずい。
あ、そうそう父親には実験台になって貰い、肉に塩胡椒を振って食って貰ったところ、
「ぬおおおおおおおっ!! なんじゃこりゃああああああっ!!」
と、美味さでひっくり返っていた。
お土産として1キロほど父親に献上すると、歓喜のあまりさらに家庭菜園の野菜を貰うことになった。
いや、さすがにもういらねえよ……。
というわけでちょっとした波瀾のあった帰りだったが、無事船はウルネアの港へと接岸を果たした。
艦首からウルネアの港を見やると、どこで聞きつけてきたのか『ローグさまお帰りなさいませ』と書かれた横断幕とともに、幾人もの民衆が集まっている。
うむ、俺も少しは領主として認められてきたようだ。
そんな民衆たちに手を振ると「「「「きゃーっ!!」」」」と女性陣たちからの黄色い声援がかえってきた。
あ、あれ……もしかして俺ってショタ的な需要があるんじゃ……。
なんて新たな発見に戦慄していると、背後からレイナちゃんが声をかけてくる。
「ローグさま、到着いたしました。船を下りましょう」
ということで、レイナちゃんに連れられて俺は船から下りた。
タラップを下りると、そこにはフリードが立っており笑顔で俺のことを出迎えてくれる。
「ローグさま、お勤めごくろうさまです」
「お、おう……」
あ、あれ……俺、いつ懲役食らったっけ……。
「フリードの方こそ、俺が留守にしているあいだ、色々と世話になったな」
「いえ、当然の勤めにございます」
それにしても。
俺は足の裏に大地の感触を抱きながら思う。
やっぱり地元が一番落ち着く。
長い海上生活で大地のありがたみを再認識した。
「フリード、私は少し疲れたぞ……。屋敷に戻ってしばらくゆっくりしたい……」
ということで忘れていた疲れが肩にどっとのしかかってきたところで、フリードにそう言って苦笑いを浮かべた。
が、そんな俺に今度はフリードが苦笑いを浮かべる。
「ローグさま、お疲れのところ大変お伝えしづらいのですが……」
「ん? どうした?」
「国王からローグさまのお呼び出しがありました」
は? 国王が俺に?
「呼び出しって……なんの用だよ」
「それはわかりかねます。ですが、再び船に乗り王都にお向かいください」
「え? 今からっ!?」
「はい、今からです」
嘘だろおい……。
が、国王の命令は絶対である。
1番と3番がキスをしろと言えばキスしなきゃいけないし、王都に来いと言われれば行かなければならない。
俺はなにやら胸騒ぎを覚えながらも「わかった。行ってくる」と再びタラップを上った。
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