2-②

プレハブの建物の中から、二人の作業服を着た若い男たちが走ってきた。

「若。お帰りなさい」と、若い作業服の男たちも、頭を下げて出迎えた。


「あんた、いったい誰なの?」

と、碧が、麟太郎の後ろから、顔だけ出してポツリと云った。


黒尽くめの男は、麟太郎の後ろにいる碧に顔を向けると、

「やっぱり、あんただったのか。白い服を着てたから、そうじゃないかと思ってたけど。……何で、こんな所にいるんだ?」

と、云って、横にいた若い作業服の男に、ヘルメットを投げて渡した。


「あなた、仕返しに来たんじゃないの。仲間たくさん連れて」

「あっはっはは……」

その男は大きな声で笑った。


「何がおかしいのよ」

と、碧は、大真面目な顔で云った。麟太郎と源次は話の内容がつかめずに、碧の顔を覗いている。

男は、黒い革の手袋を取りながら笑っている。つり上がった狼の目が、今は優しく下がっている。


「この人、誰なのよ?」

と、碧が、応えようとしない男にじれて、大男の源次に顔を向けた。


源次は、黒尽くめの男の方に向き直すと、

「うちの若頭だけど、何か?」と、逆に訊き返した。


「若頭?」

「ええ、賀寿蓮組二代目の龍信さんっスけど」

と、ヘルメットを受け取った、にきび顔の若い作業服の男が云った。


黒尽くめの男は、建設会社『賀寿蓮組』社長の賀寿蓮貞臣がじゅれんさだおみの長男・賀寿蓮龍信りゅうしん、二十七歳であった。


源次は補佐役として、龍信の面倒を任されていた。

「でも、あそこでバイクに乗っている暴走族は?」と、碧が、龍信の後ろを指差した。


龍信は、首だけ振り返って、

「暴走族?ああ、おれを送ってきてくれた仲間たちさ」と、云うと、バイクに背を向けたまま、右手の拳を突き上げた。


その瞬間に、龍信の後ろで一斉にバイクのエンジン音が鳴り響いた。地面が揺れる。

そして、思い切りエンジンを吹かし、一台ずつUターンをして、国道へ走りだした。

もの凄い爆音を轟かせて、鉄の馬は一台残らず走り去っていった。


「若、お知り合いだったんですかい?」

と、源次が不思議そうな顔で、碧と龍信を交互に見た。


龍信は、頭を掻きながら、

「ああ、ちょっと来る途中で、一緒に来た健太が……」と、云って碧の方を見た。


「もう、いいわよ!」

と、碧は、麟太郎の袖を引っ張ると、建物の中に入っていった。


「若、何かあったっスか?」

と、にきび顔の横にいた、のっぽでひょろっとした若い男が訊いた。

龍信は困ったような顔をして、首を横に振った。

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