1-⑤

中央自動車道を下りて国道二〇号線をしばらく北上すると、左手に林を切り拓いて作ったような広場が見えてきた。左右は深い木々に囲まれている。


【走行イメージ】

https://kakuyomu.jp/users/shin-freedomxx/news/16817330663911019356


その広場の中央に、平屋建てのプレハブの建物があった。逆L字型の縦棒の位置に平屋があり、底棒の位置に作業員宿舎があって、その中庭が諏訪湖に面していた。


【周辺地図】

https://kakuyomu.jp/users/shin-freedomxx/news/16817330658167741537


碧が特設広場に着いたときには、既に沢山の人たちが作業を開始していた。

「待ってましたよ!」

と、カメラを抱えてプレハブから出てきた麟太郎が、大きな声を上げた。


碧はハンドルを左に切って、駐車スペースの端に車を駐めた。一呼吸ついて顔を上げると、まん丸顔の麟太郎が、車の横に立っていた。


「六時五分、間に合いましたね」

と、麟太郎が腕時計を見てから、笑顔で運転席のドアを開けた。


【内装イメージ】

https://kakuyomu.jp/users/shin-freedomxx/news/16817330663911045629


碧はサングラスを外すと、疲れた目で麟太郎を見上げた。腰を上げる気配がない。

「取り敢えず、建物の中にチャンネル9の部屋が用意してありますので、そこに行きましょう。全体の打ち合わせは七時から始まりますので、碧ちゃんは……」


「シャワーあるの?」

「えっ?」


「シャワーっ!」

と、碧が、麟太郎の説明を遮って云った。


麟太郎は、碧の顔を見ると瞬きをして、

「シャワーですか。……プレハブの中には無いけど、作業の人たちが寝泊まりをする、作業員宿舎にはあると思いますので。…ちょっと訊いてきますから、碧ちゃんは先に部屋に行っててください」


「部屋って?」

「ああ、そこのプレハブの建物の中に入って、すぐ左側に四つ個室が並んでて、その一番手前の部屋に『チャンネル9』って札が掛かっていますから。中に入れば判りますよ」と、云ってから、麟太郎がプレハブ造りの建物へ走っていった。

ワイシャツの下のお腹の肉が、リズミカルに揺れている。

作業員宿舎は、目の前のプレハブの建物の中を通り抜けて、中庭へ出た左側にある。


碧は後部シートから、衣装や化粧品の入った大きなバックを引っ張ると、車外へ出た。顔をあげると、沢山の報道陣の車が既に止まっていて、慌ただしく人が行き来している。


本日の引き上げの模様を、各局ともトップニュースとして取り上げていた。

湖底に眠る石箱の発見時の会見や、日々の出来事などは、リアルタイムのニュース放送で流されていた。

マスメディアを利用して、全国的に、また全世界へ向けて、大々的に発信をしていた。今世紀最大の発見として、まるで新たな王家の墓がエジプトで見つかったのと同等な扱いで『JAPAN amazing』として、世界的にも大いに盛り上がっていた。


今回の発掘には、メインスポンサーとしては、地元と密着している水篠大蔵みずしなたいぞうが会長を務める、水篠物産が名乗りを上げた。

次いでテレビ局からは、碧の雇用主のチャンネル9がサブスポンサーとしてついた。


碧が起用された特番は、全てを収録した後に編集して、3時間枠で放送をするダイジェスト特番である。チャンネル9の、日々の報道には、別のレポーターが用意されていた。


碧は車に鍵をすると、プレハブ造りの建物へ歩き出した。

昨日降った雨のせいで、下がぬかるんでいる。空には水彩画のような分厚い雲が流れていたが、雨は降ってはいなかった。


碧が水溜まりを避けながら歩いていると、後ろから地面を轟かすような爆音が訊こえてきた。そして、その地響きのような爆音が、徐々に大きくなってくる。まるで、沢山の爆撃機が自分へ向かって飛んでくるような、そんなお腹に響きわたる轟音であった。


碧は振り返った。振り返って碧は、息を呑んだ。顔から血の気が引いていく。

国道を外れて、こちらにバイクの集団が走ってくる。その真ん中に、上から下まで黒尽くめの大男が、大きなバイクに跨ってやってくる。そして、それを囲むようにして、十数台のバイクが編隊飛行の様に、横一線でこちらへ向かってくる。


周囲を威嚇するような、でかい身体の男が、さっき高速道路のサービスエリアで会った男であることは、間違いが無かった。


(やっぱり仕返しに来たんだわ)

碧は、慌てた。―――でも周囲には、さっきよりも人が多い。それに、ここには碧の顔見知りも何人かいた。

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