2-5 放課後の戦争

「今日はほんとにお金がなくて・・・」


「じゃあ吉田さんち寄ってからでいいからさ」


「でも・・・」


「吉田さん一緒に帰ろう」


 HR中にぼーっとしていると居眠りしてしまっていたのか、気づくと放課後になっていた。

 中学生の未発達な体には重すぎる頭をゆっくりと上げると、吉田の席に何人かの女子生徒が詰めかけているのが見えた。

 大方、いつものように吉田を連れ出そうとしているのだろう。だがなぜかいつもと雰囲気が違う。浜辺が吉田の後ろに立って女子たちを見ていた。


「浜辺さん・・・」


「は?なに?吉田さんはうちらと帰るんだけど。ね!」


「・・・」


「吉田さん、真崎たちと帰るの?」


「当たり前でしょ。ほら早くしてよトロいな」


 真崎と呼ばれたあのメモを回した女子生徒が吉田の腕を強く引っ張っていた。

 

 浜辺はあれから何かにつけては吉田とあの女子生徒たちの間に割って入っているようだった。私が回したメモで彼女は吉田に関わることを決めた。わざわざめんどくさそうな人間たちに関わりに行くなんて彼女とは絶対に反りが合わないと思った。


「やめてよ!!!」


「痛っ!!!」


 沈黙を貫いていた吉田が真崎の手を強く振り払った。その勢いで真崎が後ろへ大きくよろけて机にぶつかった。


 真崎は俯いてぶつけた場所を手で覆っていた。真崎の取り巻きの女子たちが吉田を睨んでいた。吉田は動揺したようにまた下を向いた。


「きっも」


 真崎はそう呟くと教室から出ていった。取り巻きたちが去り際に浜辺を睨んだ。


「吉田さん大丈夫?」


 浜辺は吉田に近づくと、顔を覗き込んだ。


「だ、大丈夫」


 吉田は動揺した様子でカバンを持って立ち去って行った。

 一人になった浜辺はふうとため息をつき、吉田が去った後の教室の入り口を見ていた。


「なんだかな・・・」


 そう呟き、寂しそうな顔をする浜辺を見ていると彼女と目が合った。


「なんで」


「え?」


 私が喋ったことに驚いたのか、彼女は素っ頓狂な声を出した。


「なんで関わろうとする」


「ああ。だって、見てる方が辛いから」


「・・・ふーん。変わってるね」


「はは。龍ヶ江さんにだけは言われたくないかな・・・まぁでも、そうなのかもね」


 見てるだけじゃ辛い・・・彼女も自分のために行動していたのだ。自分が生きやすくなるために。


 でもそれは彼女の思う方には進まなかった。

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