2-4 メモ

 稀に、外の世界が私に関わりを求めてくることがあった。


 授業中、回ってきたメモには『吉田へ肩に雪降ってるよ』と書かれていた。なぜ私にこれが回ってきたのかわからないが、恐らく後ろの男子生徒が中身も見ずに回したのだろう。主犯らしい窓際に座る女子生徒たちが気まずそうにこちらをチラチラ見ていた。


 吉田へこのメモを渡すためには隣の浜辺を経由する必要があった。異分子である私に積極的に関わろうとしてくるような浜辺はこのメモを見てどういう反応をするのだろうか。吉田が受けている扱いをどう思っているのだろうか。


 私は興味本位で彼女にそのメモを回した。

 それが、全ての始まりだった。


 私からメモを受け取った浜辺はそれを見て一瞬顔をしかめた。そして、挙手をした。


「先生」


「どうした浜辺」


「こんなメモが回ってきました」


 彼女はメモを教師へ渡した。今が授業中であること、そこに書かれていることが誹謗中傷であること、それを考えればこの後の教師の行動がすぐに予想できた。


「誰だこれを回したのは」


 教師が冷静な声で言った。教室は静まり返っていた。


「誰だと聞いている!!!」


 教師は声を荒げて言った。誰もまだ手を上げない。


「一人一人聞いていくぞ。いいのか!誰だ!」


「私です」


 窓際の席に座る一人の女子生徒が立ち上がった。吉田をゲームセンターに引きずって入って行った生徒だった。


「今は授業中だ。わかってるよな!?」


「はい・・・」


 教師の大声に気分が悪くなってきた。


「真面目に問題を解く気がないなら教室から出て行け授業の邪魔だ」


「すみませんでした・・・」


 女子生徒の声は震えていた。


「あとで職員室に来なさい」


「はい・・・」


 教師はその内容については触れなかった。他の生徒たちの前で言うべきではないと判断されたのだ。


 女子生徒は授業後、職員室へ向かった。私は彼女が教室を出ようという時、浜辺の席を睨んだのを見逃さなかった。


 問題は浜辺にない。彼女自身にあることを、こんな稚拙な遊びをする人間に気づけるはずがなかった。


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