2-3 火消し
煙草を吸う人間を特にかっこいいと思ったことはなかったが、これを吸うといくらか不快な症状が和らいぐような気がするので、もちろん違法と知りながらやめられずにいた。
最初は、私の金魚のフンと化した三年たちが私に付いて街に出るたびに吸っていたので興味本位で手を出したのが始まりだった。気がつくとこのゲームセンター裏の空き地で煙草を吸うのが日課になっていた。
空き地と言っても恐らくゲームセンターの駐車場として解放している土地だが、そもそもこの廃墟のようなゲームセンターに車で来るような人間はいなかった。来るのは学校帰りの学生か昼間も働いていないような若者だけだった。
「あれ、都のクラスのやつら?」
三年の橋本がつけまつげをいじりながらゲームセンターの入り口の方を見て言った。視線の先にはクラスでも賑やかな印象の女子生徒たちがいた。入り口から楽しそうに入っていくのが見える。
「吉田さん早くしてよ〜!あ、プリ一回400円だからね!」
そう言う彼女たちの後ろから一人だけ明らかに雰囲気の違う女子生徒が、腕を引っ張られ、おずおずとついて中へ入って行った。
「何あのダサいの」
橋本が吉田と呼ばれた生徒を見て顔をしかめた。
「さぁ・・・クラスの人間の顔まで覚えてない」
私は煙草の火をスニーカーで踏み潰しながら消した。ここから立ち去ることの合図だった。
吉田と呼ばれていたその生徒のことはなんとなく知っていた。クラスでも浮いた存在になっている私以上に彼女は目立っていたからだ。
ボサボサの髪の毛に丸太のような体。スカートの下から覗く足にうっすらと乗った黒い体毛・・・親は何も言わないのだろうか。その見た目は、異質な存在を祭り上げることが大好きな中学生という生き物にとって格好の餌食となっていた。
だからと言って異質な存在の同胞として別に彼女を助けたり守ったりする考えなど、私にはあるわけもなかった。
そもそも、クラスのほとんどの生徒と関わりのない私は、吉田を食い物にする生徒たちとも吉田とももちろん、関わるつもりはなかった。そもそも興味がなかった。その人間たちは私にとっては教室の黒板やロッカーや筆記用具や教科書と同じくらいの存在でしかなかったからだ。
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