2-2 不快な朝

 気持ち悪い。

 

 もう昼だと言うのに電車はほぼ満員だった。自分の神経を調節できない私は早起きも満員電車で立っていることも苦手だった。苦手、という表現は合ってないかもしれない。とにかく私には難しいことだった。自分の中ですら問題が多いのに、周りの大人たちの人間くさい匂いという外的な問題が加わり、さらに気分は悪くなった。電車の中は汗と化粧品の匂いが充満していた。


 セーラー服とかいう服も大嫌いだった。気持ち悪いおじさんたちや男子生徒に消費されるアニメや漫画のヒロインのような服を自分が着ているのなんて吐き気がした。こんなの大人が子どもを支配するためだけの道具でしかない。私はせめてもの抵抗にスカートの下にはいつもジャージを履いた。


 昼に学校に行くことにはもう慣れていた。

 一年生の夏頃から朝起きることができなくなった。無理やりにでも体を起こそうとするが、足から崩れるように倒れてしまうのだった。

 そんな私に他の生徒たちは最初、稀有だと思っていたのか、妬んでいたのか知らないが、遅れて登校するたびに好奇の視線を浴びせた。そのうちそれがうざったくなり、睨み返すようになってから誰もこちらを見て来なくなった。


 学校が嫌いだった。


 朝起きられないだけで、気づけば不良と呼ばれる生徒たちに目をつけられ、帰り道に後をつけられるようになった。男4人と女1人だった。恐らく3年生だろう。集団で私を囲って調子にのるなと言ってきたので、調子にのっているのはあなたたちではないかと言い返した。すると、沸点が低いようで、すぐに殴りかかってきた。私は待ってましたと言わんばかりに男女関わらずボコボコに殴った。スッキリした。


 それからそいつらは金魚のフンのように私についてくるようになった。本当に単純だと思った。



 でも今日は新学期、新しいクラスだ。今までのクラスの人間たちは私を腫れ物のように扱い、触れて来なくなったが、今日からのクラスの連中はそうではないだろう。ああ、せっかく作った自分が一番楽に生きていられる環境を、また一から構築しないといけないなんて本当に面倒だ。


 授業中の教室に入ると案の定クラスメイトたちの視線を浴びた。見せもんじゃねぇという強い気持ちで睨み返すとみんながおずおずと机の上の教科書に視線を戻した。


「龍ヶ江さんだね、おはようございます。え〜、席は・・・浜辺さんの隣かな」


 教師がそう言って空いている席を指差した。私は何も言わず席に着いた。

 浜辺と呼ばれていた隣の席の女子生徒がこちらを見て笑顔で言った。


「私、浜辺真琴はまべまこと。よろしくね」


 気持ち悪い。そう思った。

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