2. ミヤコアウェイク

2-1 想起

 校門に着くと、門は閉ざされていた。まぁ予想はしていたので、特に焦らなかった。今日は始業式があったはずなので、もしかするとまだ開いているかもしれないと思ったが、初日から遅刻してくる生徒に人権などないようだ。

 仕方なく管理人室の窓を叩くといつものおっさんが私の顔をちらりと見た。毎度のことなので、おっさんは何も言わずに門を開けてくれた。私の顔は完全に覚えられていたようだ。


 当たり前だが玄関には全くと言っていいほど人の気配がなかった。授業中なのだろう。これでもかと大きく張り出されたクラス替えの表に目をやると、2年1組と書かれた直ぐ下にやつの名前があった。碧海漠あおみばく・・・去年一人の生徒を死の直前までに追いやった張本人。私はどちらかと言えば理系科目が得意だったが、やつと同じクラスになるために文系を選択した。まぁ、どちらにせよ勉強や進学に興味はないのだから別の目的で文理を選択しても私にとっては痛くも痒くもなかった。


 チャイムが鳴った。ポケットからスマートフォンを取り出して見ると12時を回っていた。


 教室に向かう途中、何人かの生徒が廊下を走っていた。購買に行くのだろう。私も久しぶりに購買のパンが食べたくなった。


 2年1組の教室に着くと、すぐにやつの姿が目に入った。

 まだ入口に立っただけなのに数名の生徒がこちらをチラチラ見ていた。遅れてきたことに対して何か言われているのか、見た目について何か言われているのかははっきりしない。この感じは久しぶりだった。

 やつも私に気づいたようだった。こちらを見て笑っていた。

その笑顔を握り潰すような気持ちでやつを睨んでいると、ふんわりとした、空気がたくさん入ったような声が飛んできた。


「あ!龍ヶ江さん!席こっちだよ〜」


 知らない女子生徒だった。初対面でなくても、私にあんな明るい声色で話しかけてくる人間はこの学校では珍しかった。栗色のボブヘアに私より一回り小さな体、大きく丸い目はうちの政宗にそっくりだった。かわいい。彼女からは全く悪意の匂いがしなかった。私は彼女の言う通りに自分の席と思しき場所に座った。


 席に座ると早速前の席に座っていた彼女はこちらに体を向けて話しかけてきた。


「大遅刻だね〜。あ、さては夜更かしか!」


「ま、まぁ・・・」


 ふわふわした髪の毛かからはせっけんのような香りがしていた。私は洗いたての政宗を思い出した。


「ふふ。私、相島陽菜あいじまひな!よろしくね!」


 相島は晴れた日の空のような笑顔でそう言った。

 私はその瞬間、大切な人を思い出した。

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