1-7 不調
体育館にはボールの音と部員たちの声が響いていた。体育館の少し埃っぽいような、それでいて新築の建物のような匂いが僕たちを包んでいた。
バスケが好きだ。自分が走ればボールは飛んできたし、集中力を上げて打つシュートは必ずと言って良いほど綺麗に決まった。誰かが止めに来ても僕が手を伸ばすところには誰も届かなかった。でも今日はシュートどころか、パスもまともに取れずにいた。そのうち僕にボールが回ってくる回数は減っていった。
「具合、悪いのか?」
調子の悪い僕が珍しかったのだろう。
帰り際の碧海の言葉が思ったより僕にダメージを与えていた。
僕は相島陽菜に自分から話しかけることはなかったし、近づこうとはしなかった。体育の時間のあのテニスボールだって、本当は僕が拾えたはずだった。途中で減速したのだ。拾わないようにしていたのは僕だった。
相島陽菜が他の生徒に悪口を言われていてもそれを聞き流すだけだった。彼女がいつも一人でいても手を差し伸べようともしなかった。それを全部、碧海は知っていた。僕が相島陽菜を気にかけていたことも、それでも何もしようとしていなかったことも。
自分のそんなカッコ悪い部分を見ないように過ごしてきた。そんな部分を全てあいつに見透かされていた。碧海に言われて初めて自分の嫌な部分をまじまじと目撃した。
ベッドに入っても心のざわざわは消えることはなかった。
でも仮にあのノートで二人が親密なやり取りをしていたとして、それを見た僕はまた見ないふりをしてしまいそうだった。なんなら二人の親密なやり取りなんて見たくなかった。自分が傷つくと分かっているからだ。
知らなくていいことだ。
「誰も許さないのかな・・・」
暗い天井に話しかけても何も返って来なかった。
もし僕がノートを奪ってあの二人を告発したら二人はどうなってしまうんだろうか。
少なくとも斎藤は学校にはいられなくなるだろう。でも、相島陽菜は・・・?彼女はまた他の生徒たちと普通に話すことができるようになるかもしれない。
僕は彼女の力になりたかった。
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