1-3 龍ヶ江都
グラウンドは砂埃が舞うので苦手だった。
そのせいでサッカーには集中できず、となりのテニスコートを眺めていた。
新しいクラスになったせいか、相島陽菜は友達がいないようだった。ペアで行わなければならないテニスの打ち合いも相手を見つけられずにいるように見えた。
僕は朝の碧海の言葉を考えていた。あの言葉の真意を知りたいというよりも、思った以上に自分が相島陽菜に好意を抱いているのかもしれないということに驚いた。
今までずっとバスケだけが好きだった。バスケのことだけを考えて生きてきたから、他の人間を好きになるなんて理解が追いつかなかった。愛とか恋とか、みんなよくやってるな、なんて思ってたはずだった。
碧海も相島陽菜のことが好きなんだろうか。それがこんなにも気になって、心配で、なんだか僕の知らない僕になってしまったようで、少し気持ち悪くもあった。グラウンドの乾いた空気がより一層気分を悪くさせた。
そうこうしているうちに相島陽菜の隣に金色の髪がなびいた。背中の真ん中くらいまではあるだろう長い金髪を後ろで一つに結び、気だるそうな様子で相島陽菜と話している。
優しい雰囲気の相島陽菜と不良の龍ヶ江・・・出来たばかりのクラスだし、出来合いのペアだろうと思う他なかった。
一走りして、ベンチで女子のラリーが始まったのを確認した頃、また肩に重みを感じた。
「見過ぎだろ変態」
「別に。テニスいいな〜って」
「俺はみほりん派。ついつい目いっちゃうよな〜・・・オワッ!」
今度は確実にダメージを与えることに成功した。女子に見本を見せる若い体育教師に釘付けになっている沖野の腕から素早く肩を外したのだ。沖野は嫌味な顔でこちらを見ていた。
「わ〜!飛ばしすぎた〜!」
沖野とじゃれ合っていると向かいのコートから相島陽菜の柔らかい悲鳴が聞こえた。見上げると、テニスボールが弧を描いてグラウンドの方まで飛んできていた。
僕は気づくと、犬になったようにボールの方へ走り出していた。
ギリギリサッカー場の手前で落下したボールは、いつの間にそこまで走ってきていたのか、何事もなかったように金髪の彼女によって拾い上げられた。その後ろから相島陽菜が焦った様子で走ってきた。
ボールは、最初から龍ヶ江の物だったように大人しく彼女の手に収まっていた。
僕は途中まで走って、少し離れた場所からそれを眺めていた。ダサかった。沖野の呼ぶ声が聞こえて、砂埃の中へ戻った。背中に
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