にんにんの巻

兵糧丸:丸めて丸めて

 母方の祖父はホラ吹きであった。

 私はどうにも祖父に似ていないのだが、ホラ吹きということだけは似ているようだ。


 「鼻くそ丸めて万金丹」

 学校でも塾でも習うことのなかったことわざが口癖の祖父はこれでもかというくらいに私にホラを吹いた。

 曰く、「猿股がつくろってあるのは自分が屁で撃ち抜いたせいだ」

 曰く、「自分は入れ歯を飛ばせる。ただし、奥義だから、今はお前にも見せてやれない」

 曰く、「昔はおならで空を飛べた」


 今思い出してみると、明らかにおかしいものばかりであるが、幼い私は信じた。

 祖母もよく私にホラを吹き込んだ。

 DNAにホラ吹きという因子が刻み込まれているのか、私の母も子どもにホラを吹き込み続けた。

 中には巧妙すぎて(あるいは私が純粋バカすぎて)大人になるまでそれが当たり前と思っていたものもあった。

 例を出すには(私が)恥ずかしいものばかりなので具体例は省くのだが、なんともまぁ。


 ホラ吹きエリートの家系恐るべしである。私ももっと息をするようにホラを吹かねばならない。じっちゃんの名にかけて。

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