カフェズィーニョ: 現代わらしべ長者譚(未完)

 わらしべ長者という昔話をご存知だろうか。貧乏人が物々交換で成り上がっていく一大スペクタルロマンである。羨ましかった。

 というわけで昔、バカの魔窟で実験をおこなったことがある。

 わらしべ長者になれないかと。

 

 気前の良い私だ。藁よりも高額なものから始めることにした。

 試供品でもらったエナジードリンク、買ったら多分二〇〇円以上するもの。後輩に一五〇円で売りつけようと思っていた大切なものである。

 これを共用の大きな机に上に置く。

 「なんでもいいから交換してください。実験なのでお名前と交換したものをお書きください」

 私は机のそばで雑用をしながら胸をときめかせる。

 本当にお金持ちになってしまったら、どうしよう。

 あるいは突然見知らぬ可愛い女の子があらわれて「私と交換でどう」とかかしら。そんなことになったら鼻血出ちゃうかも。いきなり「うん」と答えたら、エロい人と誤解されてしまうかもしれない。インテリぶりながらお付き合いまで持っていくにはどのように答えるべきか。私の胸はときめく。


 「ああ、喉が乾いていたの」

 バカが一人釣れた。見知らぬ可愛い女の子ではなくて、見知った女性であった。

 彼女は見た目は綺麗だが、容赦のないバカであり、その行動も容赦がない。

 彼女はエナジードリンクを飲み干すと、コンビニの割引券を置いていった。

 おにぎり二〇円引きと書かれた割引券。

 いきなり目減りしている。

 「相変わらず容赦ないですね」

 後輩が慰めてくれた。


 気を取り直して、しばらく待つ。

 コンビニの割引券に手を伸ばしたのは別のバカである。

 自分のおやつらしい袋入りサラダせんべい(二枚入り)を取り出すと、それを開けて一枚を食べる。

 そして、残りの一枚と割引券を交換していった。

 さらに目減りしている気がした。

 「しけちゃいますよね。あの人、あいかわらず空気読まないうえにちっちゃいですね」

 後輩が慰めてくれた。

 私は目に涙を浮かべながら別の部屋に用事を済ませにいく。


 戻ってきた私を待っていたのは変な湿った紙の切れ端だった。

 「◯◯さんが将来大物に成る俺のサインをくれてやるって。サラダせんべいのかけら口から飛ばしながら落書きしてました。廉さん、こんな日もありますよ」

 後輩がものすごく慰めてくれた。慰めてはくれたが、「サイン」となにかを交換してくれないかという頼みには応じてくれなかった。


 ぐちゃぐちゃの紙に書かれたサインの前で私はむせび泣く。

 すぐ脱ぐという奇行が一部で有名なだけのお前のサインとかいらないんだよ。


 こうして実験は終わった。

 私は貧乏なままである。

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