クッピン:ハエと飯(続市場飯)
クッピンはコブ肉のことである。
コブ肉とはコブウシのコブである。
コブウシを食べたことはあるが、ではどれがクッピンだったかと言われるとよくわからない。
クッピンという言葉で花札と麻雀を連想した。
どちらもやったことがあるし、麻雀は一時期それなりにはまったが、思い返すと語れるようなことがない。
だから、コブウシを食べたときの話をしてお茶を濁そうと思う。
コブウシは(少なくとも私の食べた範囲では)筋張って固かった。ステーキで食べたこともあるが、草鞋を食っているような気がしてくる代物だった。
でも、こういう肉は煮込むと美味くなる。
一番印象的なのは市場で食ったスープである。
夜通し走ってたどり着いた朝の市場の隅、ハエがぶんぶん飛び回るところでそれは売っていた。
野菜と一緒に煮込んだコブウシのスープ。
暗いうちからしっかりと煮込んでいたのだろう。中の肉はほろほろである。
パンを浸して塩味濃いめのスープを胃の中に放り込んでいく。
食べている私にもハエがまとわりつく。隙あらば私の皿から、かすめ取ろうとハエが飛ぶ。
追い払う私を現地の人が笑う。
「ハエだって寄り付くくらい美味いんだよ、これは。あんたぁ、ハエも食わない料理なんて食いたくないだろ?」
たしかにそのとおりだ。
ハエにも少しおこぼれを残してやるべきか。迷いは一瞬だった。
やるもんか。私は安っぽいプラスチック皿の底に少し残ったスープをパンでぬぐいとる。
ハエよ、ごめん。
もし、あのときハエに残してあげていたらどうなっただろう。素敵な女の子が手をすりながら押しかけてきてくれたかもしれない。異類婚姻譚体験の機会を逃してしまったようだ。
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