エビ: 脇締めとエビ

 柔道の基礎練習に脇締めとエビというものがある。

 脇締めは匍匐前進、エビは背中をたたみにつけたままぴょんぴょんとはねるといったら良いのだろうか。

 どちらも結構な運動量である。中学生のときなんかはこれにすりあげ腕立て伏せ(きつすぎてほとんどできないまま死ぬ)と受け身、上四方固め、横四方固めしかやらなかった。安全を配慮してのことなのだろう。高校に入るまで立技は一切なかった(注)。

 脇締めですりむけた腕をみながら、こんなのが何の役に立つのかと思っていた。

 (ちなみに受け身の方は部活でされるとき他大いに役立った)


 ときは過ぎ、脇締めとエビをやっている場面を間近でみる機会ができた。

 太郎丸(仮名)である。

 彼は公園でしばしば脇締めとエビを繰り返す。

 

 その成果はドッグランや自宅での次郎丸(仮名)かわいがりで発揮される。

 彼の投げ技は一級品である。

 体格が二まわり程度大きいくらいまでならば平気で投げ飛ばす。

 次郎丸(仮名)は太郎丸(仮名)より一回り程度しか大きくないので投げられ続けている。

 

 でも柔よく剛を制すという感じではない。

 あれは筋肉、体格差を制すである。


 そういえば、母校の柔道教師も身長はそれほどではないもののムキムキであった。

 乱取りや寝技乱取りで余ったりすると彼が相手として出てきて大変だった。秒単位で投げられるか極められ続けたことを思い出す。


(注)授業でしかやらない下手くそであっても別の運動と高校で目覚めた筋トレで妙に力があるだけのバカどもが集まると、ラリアット(大外刈りもどき)、タックル(ラグビー部のやつらが必ず狙ってくる双手刈もどき)、バックドロップ(裏投げもどき)、ローキック(本人は足払いか膝車をやっているつもり)、パワーボム(もはや何をやりたいのか本人以外にはわからない)が青畳の上で飛び交う訳わからない状況になった。やはり受け身は大事であるし、三年間受け身ばかりやらせ続けた先生はさすが専門家である。

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