イカ:異化

 異化という概念を説明するほど、私はよく理解していない。

 それでも異化といえば、高橋源一郎ということになっている。少なくとも私の頭の中ではそういうことになっている。

 『虹の彼方』や『さようなら、ギャングたち』等の数冊、実家から持ってきた数少ない小説である。


  『リア王』三幕二場。荒野を彷徨う狂気のリアにむかって道化が告げる不滅の名

 セリフ。

  「先輩にいるんだよね。ヤクが切れてさ、包丁ふりまわすバカが。もう、あまり

 の恐ろしさにビビンバ、ビビンバ」とか。


  「『虹の彼方にオーヴァー・ザ・レインボウ』ってどこにあるの」

  「『虹の彼方に』の彼方にオーヴァー・オーヴァー・ザ・レインボウ、 

 だろうね。多分」

  「”『虹の彼方に』の彼方にオーヴァー・オーヴァー・ザ・レインボウ”は?」

  「”『虹の彼方に』の彼方に”の彼方にオーヴァー・オーヴァー・オーヴァー・ザ・レインボウ、だろうね。多分」

  「そうくると思ってたんだよね、わたし。じゃあ、オーヴァー・オーヴァー・オ

 ーヴァー・オーヴァー・オーヴァー、以下略して、・ザ・レインボウってどこ?  

 5字以内で答えて。だって、『虹の彼方にオーヴァー・ザ・レ インボウ

 だって5字だもんね」

  「『その彼方にオーヴァー・ゼム》」

  「おとうさん」

  「なに?」

  「それうまい言い方だって、わたし、思うけどさ。でも、そんなの夏休みの宿

 題で提出したら、先生に怒られるんだって知ってる? じゃあ、おやすみなさい」

  「おやすみ」

   (高橋源一郎 『虹の彼方にオーヴァー・ザ・レインボウ』)


 高橋源一郎の高校の一年後輩には中島らもがいる。

 この頃の某高校はどうなっていたのだろう。

 偶然にも中島らもの同級生の方と話す機会はあったのだが、さすがに全然関係ないことを質問するほど私の肝っ玉は太くない。

 ああ、彼らの頭はどうなっているのだろう。

 タイムマシンがあるならば、こっそりのぞいてみたい。

 タイムマシンがあるならば、行って拉致して頭かち割って少し脳みそ見てみたい。

 それはとても綺麗だろう。

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