御痴走帖

ワンカップ：犬かき

　太郎丸（仮名）も次郎丸（仮名）も泳げる。

　といっても最初から泳げるわけではなかった。

　実家で飼っていた菊子（仮名）や貫太郎（仮名）は水遊びに連れていく機会がなかった。

　しかし、最近は犬連れで水遊びができる場所というのがある。

　太郎丸（仮名）を迎えて初めての夏。

　「見たい。犬かきを見たい」

　そう考えた私は太郎丸（仮名）を犬用プールに連れて行った。

　「太郎丸（仮名）のちょっといいとこ見てみたいー」

　太郎丸（仮名）を抱えて、犬用プールで放す。

　さぁ、犬かきだ……とならない。

　太郎丸（仮名）が沈んでいく……。

　すべての犬が最初から泳げるわけではないと知った私はあわててプールに飛び込んだ。

　犬用ライフジャケットを購入する。

　人間も入れるプールなので、付き添って泳ぎの訓練をする。

　程なくして泳げるようになった。

　太郎丸（仮名）はその後、舎弟として我が家に入ってきた次郎丸（仮名）に泳ぎを教え、現在にいたる。

　水遊びが好きになってくれたのは嬉しい。

　しかし、何事にも良い面と悪い面があるのがこの世の常。

　雨上がりの水たまりに満面の笑みで突っ込んでいって泥だらけになる太郎丸（仮名）と次郎丸（仮名）を見て、そう思うのだ。