アメリカンドッグ: 子犬たちはわちゃわちゃ走る

 ドッグランという施設がある。

 犬を放して運動させられる場所だ。

 人慣れ、犬慣れしてもらいたかったのでうちの犬たちも子犬のときから連れていっている。


 犬は社会性のある動物というだけあって、はじめて会った犬同士であっても相手が子犬であればそれなりに教育をする。

 子犬は足の動かし方ですぐわかる。

 まだうまく動かせないけれど駆け回りたい。もどかしさで跳ねるように移動する。

 そんな子犬たちがドッグランにくると行動パターンはだいたい二つである。怖くなってしまって降参ポーズを多用するか、怖いもの知らずのチャレンジャーと化すかだ。


 チャレンジャーパターンの場合、先輩たちに向かって力いっぱいぶつかっていく。

 甘咬みであるが咬み付く子もいる。

 うちは二頭ともチャレンジャーパターンで、太郎丸(仮名)は体当りしまくった挙げ句にマウンティングしようとさえした。


 怖いもの知らずでぶつかってくる子犬たちが本気で怒られることはまずない。

 適度に暴れさせたところで、指導が入る。

 暴れまくった子犬時代の太郎丸(仮名)がどうなったか。彼は先輩にマウンティングしようとしたところでごろんごろんと転がされていた。土俵もないのに突如はじまる相撲の稽古。もう一丁もう一丁と繰り返す太郎丸(仮名)はそのたびにごろごろと転がされていた。ジャック先輩はテリア種だけあって小柄でも強かった。

 犬たちはこうやって遊びの中でやっていいことのラインを学んでいくらしい。

 

 二頭目次郎丸(仮名)は太郎丸(仮名)が事前に念入りに指導をおこなっていたせいか、あまり暴れなかった。でも、やっぱりごろごろと転がされていた。

 

 今ではどちらも指導する側になりつつある。

 先日もデビューして間もない子犬に顔やら首やら耳やらを甘咬みさせ、その後ごろごろと転がしていた。出血しやすい耳とか噛まれて大丈夫かと相手の飼い主のほうが心配していたが、犬たちはまったく気にしていない。


 「ずいぶん偉くなったもんじゃないか?」

 問いかける私に犬たちが笑う。

 「ボクらもいつまでもはしゃいでいられないからね。後進の育成さ」

 上がった口角とゆっくりとゆれる尻尾が話し出す。

 エライ子たちだ……おい、やめろ、マウンティングを教えるのは。こうやるんだ。お前もボクにやってみろじゃないよ。恥ずかしいじゃないか。


 なお相手が大型犬の子犬の場合、数週間もたたないうちに師匠たちは「ざまぁ」(注)されることになる。


注:「ざまぁ」といっても下剋上されるわけではない。彼らは序列を守って「兄ちゃんまた遊ぼう」と来る。ただ、体の大きさが違いすぎて太郎丸(仮名)と次郎丸(仮名)が跳ね飛ばされたり、ひかれたりするだけである。

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