向付:蕎麦屋デビューの夢と板わさ

 蕎麦屋で飲むというのに憧れた時期があった。

 「板わさ、天ぷらそば台ぬき、それとお酒を」みたいなこと言って、締めは蕎麦を食べて「長っ尻はいけねーや」とか言って出てくる。

 どこかでそういうのが格好いいと読んで、それを実行しようとしていることがばればれな痛々しさである。

 もうなんというか軟膏なんこうを渡してやりたい。そして、「無理するな、君は君のままでいいんだ。何をしても君は様にならないし、もてないんだ」とそっと肩を抱いてやりたい。


 とはいえ、貧乏人で日本酒が苦手な人間が立ち食いそば屋以外に入ることはまずなく、たとえ稀に入ったとしてもそこは昼間から飲めそうな場所であることもなく、夢は妄想のままにおわって現在に到る。

 

 残ったのは板わさをやたらと食べるという妙な食習慣のみである。

 板わさなどというもの酒飲みでもなければ、旅館の朝飯で二切れ程度ついてるのを食べるくらいのものだ。

 しかし、蕎麦屋で飲むためのイメージトレーニングとして板わさを食い続けていたら、いつの間にやら好物になってしまった。

 かまぼこは安っぽいものの方が良い。これは単純に慣れの問題である。

 わさびも当然すりおろしたりしていない。チューブのものだ。だから、たまに付けすぎて涙がでる。

 日本酒は苦手なので、ビールを飲んでいるか御飯のおともだ。あの頃憧れた格好良さのかけらもない。

 

 字数が大分過ぎてしまった。

 長っ尻はいけねーや。今日はこんくらいでな。

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