むげいたいしょくの巻

先付:立ち飲み

 生ビールが好きだ。

 いっぱいはいらない、一杯だけで良い。


 居酒屋で長っ尻は好きだが、それは場の雰囲気が好きなだけである。

 酔っ払いたちが交わすどうでも良い会話に耳を傾けているのが好きだ。

 もちろん、自分でどうでも良い下ネタをぶちかますのも好きだ。

 でも、そのとき、酒の味はもはやよくわかっていない。

 (こう書くと自分が酒の味がわかる感じが醸し出されて良いものである。もちろん、もとより酒の味がわかるような洒落た大人ではない)


 一人で行こうにもお通しや先付けとか出されてしまうと、居座って色々頼まないと損な気分になってしまう。

 貧乏かつ貧乏性では生ビール一杯だけひっかけて帰るというのは難しい。


 そのような悩みを抱いていた私が外国の街を徘徊していた時のことだ。気がついたことがある。

 生ビールがカフェのメニューに載っているのだ。

 テラスやテーブルでなくてカウンターならば値段も安い(カフェは居座る場所によって値段が違った)。

 それから、外国の街では夕方にカフェで生ビールを一杯だけひっかけて帰ることが多くなった。そのあと適当な食べ物を調達してねぐらに戻る。


 そういえば、昔、外国語の勉強をしていたときは、テラス席で優雅にかふぇーをすすりながらえすぷりとやらの効いた会話をすることを夢見ていた。横にはもちろん知的な美女がいる。

 しかし、実際は常にカウンター席立ち飲みだった。知的な美女なんていない。というか誰も横にいなかった。恥的かつ痴的な私が一人でうごうごと日本の生ビールに比べるとやや甘いそれを飲んでいるだけだ。

 エスプリどころか、「生一つ!」「コーヒー一杯倍量で!」「便所貸してください!」しか言っていない。

 なんとも悲しいものである。

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