第二話 二人の魔法少女と意外な人物
「蓮花ちゃんが連れてきてくれたのね。
助かったわ、何故か連絡がつかなかったから……」
「またよく分からないところで眠ってましたよ。
ほら今もこの通り」
「すーすー」
「あらあら」
場所は東京駅近くのパーキング。
そこに停まっていた車の窓から顔を出した浦中さんーーあの時聞きに来たダンジョン課の刑事さんに背中で眠る風音を見せる。
浦中さんは微笑むように元々細い目をさらに細め、ドアを開けて外に出てきた。
「ふふ、風音ちゃんらしいわね。
ちゃっちゃっと眠り姫を乗せてあげましょうか」
「了解です」
浦中さんと二人、眠りこける風音を車の後部座席に座らせる。
ついでに彼女のシートベルトも締めて、その隣に腰を下ろす。
なんだか大きな子供でも出来たみたいな気分だな。
「全く、風音は相変わらず情けないですね。
また年下の蓮花さんに助けられるなんて」
そんな俺たちに助手席からちょっかいかけてくる少女が一人。
綺麗なブロンドヘアを揺らし、しゃんと背筋を伸ばす少女。
その口調から分かるように気丈に振舞っているものの、あどけない顔や頭の上から顔を覗かせる一本のあほ毛が完全に台無しにしている。
城戸内蛍。都内の学校に通う高校一年。つまり俺と同い年。
身長が120cm位しかないこともあって小学生にしか見えない彼女が、もう一人の魔法少女である。
因みに今も俺に寄りかかって眠る風音も同い年だったりする。
俺には「さん」付けの蛍も普通に呼び捨てにしていたりするし……全く寄ってたかって馬鹿にして、みんな酷いと思わないのか?(←さっき赤ちゃん扱いした人)
「なにか言ったらどうですか?
私、蓮花さんにも怒ってるんですよ? そんな風に優しくするから風音がつけ上がるんですって」
「うんうん。そうだな~」
アホ毛がぴょこぴょこ、三ぴょこぴょこ。
蛍が話す度、その荒ぶる感情を代弁するかのように頭のアホ毛が動く動く。
うーむ。引っこ抜いたらどうなるんだろう?
やはりどこぞのポ〇モンみたく、アホ毛が本体だったりするんかね?
「……あの、ちゃんと私の話聞いてます?
さっきから全然目が合わないんですけど?」
「聞いてる、聞いてる。
でもそう言われても放っておくわけにはいかないからなあ。今日なんか駅のベンチで寝てたんだぜ?」
「むー。確かにそれは危ないですね……」
動き始めた車の中、蛍が眉を寄せて唸る。
それだけで蛍が風音を心から嫌っていないことが分かってーー可愛いなあ、おい。
おかしい。俺、ロリコンじゃなかったはずなのに、さっきから頭を撫でたくて仕方ねえ。これがロリの魔力ってやつ、か。
……まったく、小学生は最高だぜ(勘違い)。
「蛍は失礼。わたしだって自分の身くらい自分で守れる。
あの時寝ていたのは蓮花が近くにいたから」
「……ほら、私の言った通りじゃないですか」
さもありなん。
突然目を覚ました眠り姫様に、やっぱり甘やかしすぎたかなあとため息をついた。
東京駅から車で走ること30分。
一見ただのオフィスビルにしか見えないその建物が俺たちの拠点だった。
建物の中、灰色の壁に囲まれ、等間隔に設置された蛍光灯が明るく照らす通路。
そこをふらふらと歩く風音の背中を押しながら進む。
「風音、頑張れ。ほら、向こうでミドリも待ってるんだろ?」
「大丈夫。きっとミドリものんびりしてる」
「いっそのこと、そのまま手を離してみたらどうですか?
案外普通に歩き始めるかもしれませんよ?」
「万が一が怖いんだよなあ、それは。
ほら蛍も聞いたことがあるだろ? ふざけて友達の椅子を引いたら大事故になったって話。もし風音が反応できずに背中から地面に落ちちゃったらーー」
「そ、想像させないでくださいよ。
怖くなっちゃうじゃないですか……」
「蛍、意外と優しい」
「はああ? 意外とって何ですか意外とって。
蓮花さんがいないときは私が世話してあげてたの忘れてたんですか?」
全く悪びれもしない風音に声を上げる蛍。
なんだか二人の身長差もあって(風音は俺と同じ155cmくらい)、小さいチワワが大きなライオンに食って掛かってるみたいな感じだ。
浦中さんと二人、温かい視線で眺めていると、目的の「第一会議室」へ到着。「失礼します」と声を掛ける浦中さんに続いて部屋へと入る。
中に広がるのは教室くらいの大きさの空間。
正面奥には巨大な液晶パネルが設置され、手前には移動式の机と椅子が整然と並べられている。
その中には先客が一人と三匹。俺らのボスたる大宮司さんと魔法少女のパートナーたるマジカルビーストたちだ。
早速近くの机に乗っていた三匹が近づいてくる。
黒色の猫、緑色のカメレオン、黄色の狐。
それぞれ俺、風音、蛍のパートナーで、名前はクロ、ミドリ、キイロというらしい。何とも安直なネーミングセンスである。
「久しぶりだね、れんか。
……ちょっと瘦せたんじゃないかい?」
「そうか?
そういうクロは特に変わらないみたいだな、良かった良かった」
「ちょ、なにするのさっ」
嬉しさ半分からかい半分で撫でまわすと、クロが抗議するように毛を逆立てた。
……こんなやり取りも随分久しぶりな気がするなあ。
とかなんとか思いながら浦中さん除く全員で着席。
浦中さんが自身の横に移動したのを確認すると、正面に立っていた大宮司さんはゆっくりと話し始めた。
「よし。全員揃ったな。ではまずは今週の進捗を説明する。
探索の結果は空振り、君たちの検査の結果は未だ分析中……以上だな」
「なんだ、大人の人たちも案外大したことないんですね。
『君たちは我々の救世主だ』とかあんなに盛り上がっていたのに」
「ふふふ、言われちゃいましたね。大宮司さん」
「っ、面目次第もない。
我々も総力を挙げているのだが、なかなか結果が出ていないのが現状だ」
蛍と浦中さんの野次に肩を落とす大宮司さん。
彼らが所属する警察庁生活安全局ダンジョン課は各地の県警や警視庁の同課の管理・運営だけでなく、ダンジョン騒動の真相を究明する役割をもつ。
ただどうやらここ十年で「ダンジョンの発生源は人間らしい」くらいしかつかめておらず、ずっと苦汁をなめる思いをしてきたらしい。俺らが魔女や魔法少女などの情報を齎した時の彼らの反応は目を見張るものがあった。涙を浮かべながら肩を抱き合ったり、雄たけびを上げたり、必要以上に俺らに感謝したり……。
まああんなファンタジー現象と何年も真面目に向き合っていたらそうもなるだろう、きっと。
ともかくそれから大きく話は進み、ダンジョン課は幾つかの班に分けられる運びとなった。クロたちと一緒に各地を周り魔女の行方を追う探索班や、研究所と連携し俺たちの存在を科学的を解き明かそうとする科学班などだ。怪人からドロップしたぬいぐるみもそうした精密検査に回されている。
俺もこれだけ味方がいるなら何とかなるかもと思ったけど……ま、そう簡単にはいかないよなあ。
「蛍は急ぎすぎ。
わたしたちはわたしたちにやれることを頑張ればいい。
のんびりしていれば、きっと何とかなる」
「む。風音にしては良いこと言いますね」
「最後の発言がなければ完璧なんだけどな」
蛍と二人、笑いあう。
俺たちにやれることーー即ちそれは三人のレベルアップ&連携成熟である。
俺たちが所属するのは大宮司さんを長とした班、通称魔法少女班。今後カメラ怪人のような敵が現れた時に備えて組織された班だった。
メンバーは俺たち魔法少女とそのパートナーに加え、大宮司さん・浦中さんなどダンジョン課の警察官さん若干名。
活動時間は毎週土日の二日間。
活動内容はここの上に存在する07秘匿ダンジョンの冒険。
既に先週、秘匿ダンジョンに潜ってどんな敵が出てくるかや味方の特徴は把握済み。平日はなかなか潜れないし、今日明日の内にさっさと強くならないとな。
「こほん。では今回の冒険について話そうか。
前回は私が一緒に入ったが、これからはギルド経由で信用できる冒険者を護衛として雇うことになる。
今回は君たちにもなじみが深いであろうあの人だ。入ってきてくれ」
「はーい」
そんな紹介とともに入ってきたのは、フルプレートの鎧を付けた一人の女性。
ステップを踏むように軽やかに俺たちの前に来て、頭の兜を脱ぐ。
「みなさん、こんにちわ~。Dスタ所属、戦闘狂系アイドルこと鶴森もえです。
職業は魔法剣士、普段はY〇utubeでダンジョン配信なんかやったりしてますっ。
よろしくね、魔法少女のみなさん?」
さらさらと広がる夜色の髪。吸い込まれそうなほど強い光を宿した瞳。端正な顔に浮かぶ好戦的な表情。
正真正銘、Dtuberのトップアイドルたる少女がそこに立っていた。
……まじですかい。
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