二章
第一話 新しい日常
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【まえがき】
暫く(第八話まで)若干のシリアスが続きますので苦手な方はご注意を。
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「あら、おはよう。蓮花」
「……おはよう母さん。
悪いな、こんな朝早くから用意してもらっちゃって」
時刻は朝の6:00。
ふああとあくびをしながらリビングに行くと、母さんが台所で俺用の弁当箱を詰めているのが見えた。
昨日までの仕事で疲れているだろうに、母さんがさらりと笑う。
「いいのよ、これくらい。
今までが蓮花たちに頼りすぎてたくらいだし……それにこれから蓮花は私たちのために頑張らなくちゃいけないわけでしょう?」
「まあ確かに。
……しっかし、不思議なもんだよなあ。まさかこの俺が世界の命運を背負うことになるとは」
「流石は私とパパの子。
魔王の血筋は伊達じゃないわね」
「漫画冒頭、衝撃の暴露シーンってやつかい?
でも残念、昔色々と調べてうちが先祖代々続く普通の家庭って知ってるんだな、これが」
「あらそう?
中二病の面目躍如ってところかしらね」
「……」
口に手を当てておほほと笑う母さん。
俺が引きこもっていた時期もおかしな言動をしていた時も「そういうものだ」と受け入れてくれたし、間違いなく理解がある家族の部類に入るとは思う。
ただ理解がありすぎるのも
母様。「そういえば昔こういうのが流行っていてね」と俺をネトゲ沼に沈めこんだの、忘れてねえですよ。
「……ところで、蓮花。
彼女はどこ行ったの? ほら火を見るときだけに現れるっていう影ーー」
「ちょっと!? そんなこと言ってないよな?
俺は違うから、多重人格系じゃなくて出自系だから。実は母さんが魔王の娘で……あ」
「命からがら地球に逃げ延びて、そこから始まる従者のパパとのラブロマンスはなかなか良かったわね。
でも流石にパパが蓮花の本当の父親じゃないっていうのはやりすぎだと思うの。
結局、その伏線も回収されなかったし……」
「うっ」
当時ノートの書いていた内容を赤裸々にばらされ、思わず胸を押さえる。
やっぱり、子供がいない間にこっそり親が部屋に入るのは罪だと思います、まる。
「それじゃ。いってらっしゃい、蓮花。気を付けて」
「はいよ~」
母さんが運転する車に乗せられやってきたのはJ〇子天ノ内駅。ブロロ、とロータリーを去っていく我が家の車に手振って、駅に入る。
目指すは新幹線乗り場の③番。
ダンジョン発生の影響で、ここ子天ノ内駅にも新幹線が止まるようになったのだ。しかも既にあった駅舎を改造して無理やり路線数を増やしたものだから、駅の中はさながら梅田ダンジョンのよう(適当)。
分かりにくい案内を頼りに、いまだ慣れぬ道を歩く。
そしてお目当ての東京行き新幹線のグリーン車に乗り込んだ。
そう、かの高名なグリーン車である。
どうやら彼らダンジョン課の元には、毎週こうして新幹線を使っても余りあるほどのお金が下りてきているらしい。
賄賂のつもりなんかね、と大宮司さんが嘆いていた。
うーん、相も変わらず世界は真っ黒だ。
まあ俺もそのおこぼれに与ってるわけだから文句は言えないんだけどさ。
ふかふかの背もたれに体を預け、今までのことを思い出す。
莉々が心を失ったダンジョン騒動から早くも二週間。
あの時、家にやってきた警察庁生活安全局ダンジョン課を名乗る人たちの登場によって俺の生活は様変わりした。
「おねぇ、大変なことになっちゃった」とかいうメッセージに急いで家に帰ってみればーーそこにいたのは大人二人に目を輝かせて詰めよる妹の姿。
あの配信を見た彼らはすぐさまダンジョン協会に問い合わせ、俺の居場所を特定したらしい。これは情報収集のために俺がステータスなど全部本当の情報を登録していたのも大きいだろう。
彼らが俺に求めてきたのは情報提供。
ダンジョンから市民を守る役割を一手に担う彼らはその原理や防ぎ方を喉から手が出るほど欲しがっていたのだ。だから事情を知っていそうな俺の元に爆速でやってきた。
勿論俺も莉々の為にも魔女を早く捕まえたいからそれを了承。
俺が知っているすべての情報を教えることにした。
それから母さんたちと話し合ったり、蛍日蓮花のT〇itterに他の魔法少女からの連絡が来たりしながら話は進み、こうして俺たちは毎週土日は彼らダンジョン課の下で魔女対策に時間を費やすことになった。
魔女の痕跡を追えるらしいクロたちはまた別の任務を遂行中である。
「まもなく終点、東京です。中央線、山手ーー」
約一時間半ほどくつろいだところで目的地へと到着。
ここからダンジョン課の浦中さんが運転する車に乗って、俺らの拠点へと向かうことになっていた。
既に彼女は着いているはずだ、と足早で進む。
9:00近いこともあって大勢の人でにぎわう構内。
ゴミのようにいる人々を必死にかき分けて進んでいく中で、ちらりと壁際に見知った影を捉える。
嫌な予感に駆られて近づけば、そこに広がっていたのは予想通りの光景。
またかい、と小さくため息をついて彼女へと声をかける。
「おーい、風音。
起きてくれい。あと少しだから」
「……うーん……」
堂々とベンチの上で横になってすやすやと眠る少女の名前は、古屋敷風音。俺と同じ魔法少女である。
相当熟睡してるのか、ゆさゆさと揺すってもなかなか起きない。
ほんと、よくこんな騒がしい場所でこんなに熟睡できるよなあ。
隣のサラリーマンさんなんか目ん玉まん丸にして驚いてるし。
う、周囲のこの子苦労してるんだなあっていう視線が痛いぜ。
「んんっ……おはよ、蓮花。
ここ、どこ?」
「東京駅だよ。これから例の場所に向かうとこ」
「あーそっか。……蓮花」
「はいはい」
両手を広げて何かを期待する風音の前にしゃがみ込む。
どしり、と同年代にしては軽い重みが背中に加わると同時に聞こえてくるのは、すーすーという寝息。
相変わらずの眠り姫だ。
もう慣れてしまった重みを背に、東京駅を進む。
思い出されるのは二人の魔法少女から連絡があったときの頼りになる味方が増えるかもしれないという希望と、実際のあったときの残念さ具合。
やっぱり元男の俺がしっかりしないとだよなあ。
さ。今日も一日、がんばるぞい。
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