第二十四話 廻る世界
「ふふふふふ。
……素敵なお嬢さんと楽しいショーが出来たんです。こんな最後も案外悪くはない、ですね」
そんな口上と共に空気へ溶けていくカメラ怪人。
その姿が完全に消えると同時、その空間から何かが地面に落下する。
ああ。魔石がドロップしたんだな、と何気なく視線を移してーー言葉を失った。それが、あまりにも意味不明なものだったから。
「ぬい、ぐるみ?」
「そう、みたいだね」
カメラ怪人が落としたのは、可愛らしいクマのぬいぐるみ。長く使い込まれていたかのようにボロボロなそれがぽつりと地面に立っていた。
「……なあ、クロ。
教えてくれよ、思い出したこと全部」
クロに至極真っ当な願いをぶつける。
クロは魔女がダンジョンを生み出していると言っていた。それも人の苦しい感情を燃料にして。
だとしたら、魔女は何がしたいんだ? 現実社会の混乱?
……そもそもダンジョンってなんだよ? どうしてこんな非現実的なことが起こるんだ? 目の前のこれは一体何事だ……?
「それが、僕にもよく分からないんだ。
僕が思い出したのは、魔女がダンジョンを生み出していることと、魔法少女がそれを止める存在だということ。たったそれだけさ」
「そう、か」
相変わらずの不明瞭さに、思わず嘆息する。
……まあ、今は莉々を救えただけで良しとするか。
周囲に目をやれば、ドームの黒い壁がゆっくりと薄くなっていくところだった。
そろそろこの空間も終わりが近いのだろう。色々と騒ぎになる前に逃げねばなるまい。
「行こうか、莉々」
昏睡状態の莉々を背負い、少し考えてぬいぐるみも手に取って外へと駆け出した。
「……んん、れんか……?」
かっこよかったです、とか妙に話しかけられた群衆ゾーンを抜けて千沙となみの元へと向かっている途中、背中の気配がもぞもぞと動き始めた。
ほっと息をついて、足を止める。
……良かった。ずっと目を覚まさなかったらどうしようかと思ったぜ。
「今までずっと倒れていたんだ。何か、変なところはないか?」
「そう、なんだ? うん、大丈夫。痛いとかはないかな~。
……あれでも、私なにしてたんだっけ……?」
莉々のあやふや返事に、地面が遠くなったような感覚に襲われる。
い、いや大丈夫。ただ混乱してるだけの、はずだ。
「ゆっくり思い出していけばいいさ。
今は千沙となみの所に向かっているんだ。一人で歩けそうか?」
「う、うん。大丈夫……」
のろのろと俺の背中を離れる莉々。
そうして何かを確かめるようにぐーぱーと両手を動かすと、いきなり俺の両手を握ってきた。手の平から感じるのはじっとりした汗とーー冷たい体温。
間近に迫った莉々の顔面は、まるで死人のように真っ白だった。
莉々がわなわなと唇を震わせて、不安定な声音で言葉を零し始める。
「……ねえ、なんか変だよ。なんで何にも感じないんだろ……?
あの時はあんなにドキドキ、したのにっ」
「なにを、言って……?」
「わかんない、わかんないよっ。
でも何か大事なものを失っちゃったみたいな、忘れちゃいけないものを忘れちゃったみたいな、そんな気がするんだっ。
なんで、だろ……? 私がおかしいのかな? ずっと何かを悩んできて、でもようやく変われそうだって、そう、思っていたはずなのに……」
「っ」
泣きそうな顔で、苦しそうに自身の胸元を握りしめる莉々。
俺はその言葉に思い当たるものがあって、クロを睨んだ。
『ダンジョン騒動の元凶ーー魔女は苦しみを抱く人に近づき、その心を奪ってダンジョンへ作り変えようとするのさ。
彼女と取引を交わしてしまえば最後、その感情はダンジョンという遊具になり、永遠に失われることになる』
『奴こそがこのダンジョンのボス、そして莉々の苦しみの根源さ。
奴を倒せばきっと、ダンジョン化が止まって莉々の心に元に戻る、はず』
一体どういうことだ、クロっ。
ボスを倒したのに、なんで戻ってないんだよっ!?
「わ、分かんないよっ。
でもあいつがボスだったことは間違いんだ。だとしたら多分、莉々の心はそのぬいぐるみの中だ。ちゃんと消えずに残っている。
それをどうしたらいいかは……ごめん、まだ分からない。
でも今回で僕はいろんなことを思い出した。魔女を追って、そしてレベルを上げていけば近いうちに分かるようになるはずさ」
「……今度は、間違いないだろうな?」
「うん。この命に代えても」
クロがピンと尾を張って答える。
まあ今はそれを信じるしかないか。
幸い追うべき対象と成すべき目標は分かったのだ。今までよりは効率的にやっていけるだろう。
でも……やっぱり俺のせい、なんかな。
魔女を止めるのが魔法少女の役目。だとしたら魔女が莉々に近づいたのは、魔法少女の俺が近づいたからだろうか?
「……なあ莉々。倒れる前の事、何か覚えているか?
あ、嫌なら無理しなくてもいいんだ。ただちょっと気になってさ」
「え、と……ごめん、ほとんど覚えてないかな~。
確か、誰かと話していたと思うんだけど……」
本当に何でもないことのように過去を話す莉々。
それに少しだけ安堵しながら話しける。
「なあ莉々。もし元の想いを取り戻せる方法があるとしたら、本当に戻したいか?
莉々がなくしたそれは、前の莉々がなくしてしまいと思っていたほど苦しい感情かもしれないぞ?」
「それは……うん。
きっとその中にも楽しい記憶があったような気がする、から」
莉々が力強く頷く。おぼろげながらも確かな光を宿した瞳をして。
だとしたら俺のやることは一つだ。
「大丈夫だ、莉々。俺が全部、何とかするから」
「え?」
莉々の両手をぎゅっと握る。
後悔したって現実は変えられないんだ。考えるのは全てを終えてからでいい。
だから……俺はやるぞ、クロ。魔女を見つけて、莉々を救って見せる。
かくして、元ぼっちの魔法少女は自らの意思で魔女を追うことを決めーー彼の運命は本人のあずかり知らぬ場所でゆっくりと動き始めた。
新人Dtuberについて語ろうぜ Part1356
666:名無しのDtuberファン
「ふ、一体いつからーー俺の
いつみてもこの時の蓮花ちゃんの表情がたまんねえなあっ
667:名無しのDtuberファン
普段のお淑やかな感じのギャップがいいよな
668:名無しのDtuberファン
配信中とかにもたまに出てきたけど、あれでもセーブしてたんやねw
669:名無しのDtuberファン
[悲報] #蛍日蓮花ちゃん T〇itter世界トレンド一位達成!!
670:名無しのDtuberファン
お、やっとか
671:名無しのDtuberファン
>>669
悲報じゃなくて朗報だろ
672:名無しのDtuberファン
まあワイらの推しが世界に羽ばたいていったと考えるとな……
673:名無しのDtuberファン
配信とかどうなるんやろ? 今まで通りやるんかね?
674:名無しのDtuberファン
さあな……そもそも今回何が起こったのかもよく分かってないし
675:名無しのDtuberファン
>>674
それな
「うわ、おねぇ凄いバズってるじゃん」
自らの姉の話題で盛り上がる掲示板を見て、家で家事をしていた春花が困惑とも歓喜ともとれる言葉を零した。
スマホで色々と調べてみると、どうやらドームの中にたまたま取り残されカメラがおねぇと謎の怪人との戦闘を捉えていたらしい。
そもそも史上初のダンジョン生成途中の映像ということで注目が集まっていたのに、「ドームの中で倒れる少女」+「それを助けにきた魔法少女と謎のモンスターのバトル」という胸アツ展開が追加されて、ネットはもはや阿鼻叫喚の海と化していた。
特徴的な服装からすぐ「蛍日蓮花」として活動するY〇utubeチャンネルが特定され、しかも「俺っ娘」という属性まで発掘されたことでおねぇの名は広く拡散。
配信が始まってたった1時間で、チャンネル登録者数が既に10万を越えていた。
からからとその数字は今も変わり続けているし、夕方になるにつれもっと増えるだろう。
一応まだ本名はバレてないみたいだけど……おねぇ、大丈夫かな。
恥ずかしすぎて悶絶死したりしない?
そんな未来を想像して、ふふと小さく笑う。
ピンポーン。
「はーい」
お父さんたちはもっと遅いって言ってたし、誰だろ……?
突然の来訪者に不思議に思いながら、一応チェーンロックを掛けた状態でドアを開ける。
「どちらさんですか?」
「警察庁生活安全局ダンジョン課の大宮司です。
伊奈川春花さん、ですよね? 少しお時間よろしいですか?」
玄関前には紺色の服を着た大人二人が立っていた。
厳つい男性と優しそうな女性。話しかけてきた男性の手に、ドラマでしか見たことがないような警察手帳が掲げられているのが見えた。
そして、クロの目論見通り彼のダンジョン配信に気付いた二人の同士。
「見つけた。わたし以外の魔法少女」
「……ふん、魔法少女とあろうものが情けないわね」
世界は動く。因果は廻る。たった一人の彼女のために。
――――――――――――――――――
【☆あとがき☆】
これにて一章完結&タイトル回収完了です。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
い、いかがでしたでしょうか?
正直ここまで多くの方に見ていただけると思っていませんでしたので、こんなビターな終わり方にしてよいものかと非常に頭を悩ませておりました。
ただ今後のために必要な展開ですし、投げぱなっしにはしません(勿論N〇Rや胸糞展開はありません)ので、どうか寛大な心でお許しいただけると嬉しいです。
さて、次は二章についてですが……実はまだほとんどプロットが出来ていませんので、暫く先になるかもです。ごめんなさい。
どうか気長にお待ちくださいませ。
最後に。ここまで読んでいただいたことに再度の感謝を。
少しでも「面白そう!」「期待できる!」と思っていただけましたら評価や感想いただけると作者が泣いて喜びます。「○○な展開希望」とか伝えていただけると反映されるかもしれません。
それでは、また。二章でお会いしましょう。
水品 奏多
――――――――――――――――――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます